誤った金額の抵当権の効力と是正

抵当権の設定登記にあたり、申請人もしくは登記官の過誤により、被担保債権が過少に表示される場合があります。例えば債権額を1,000万円とするところを、誤って申請書に100万円と表示したり、申請書の記載に誤りはなくても、登記官が誤って100万円と登記することです。これらいずれの場合も、抵当権設定契約自体に錯誤がない限り、少なくとも未登記抵当権としての効力を有することは言うまでもありません。問題は、対抗力を有するか否かです。登記は、現実に登記簿に記載されたところによって効力を生じるので、債権額が100万円となっているのでは、これに1,000万円の対抗力を認めることはできません。しかし、少なくとも100万円については有効に登記がされているために、その範囲で対抗力を有することには異論がありません。この場合、対抗力の点では、債権の一部について抵当権設定登記をしたのと同一であると理解でき、1,000万円のうち順次支払がされても最後の100万円については対抗力を有するということができるのです。もっとも、この場合でも、登記簿上の他の記載から債権額の誤記が容易に判明する場合には、真実のとおり対抗力を認める余地があります。

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このように債権額を誤って登記した場合、これを是正するには登記を更正する必要があります。登記の更正とは、当初の登記手続に誤記または遣漏があるため、登記と実体上の権利関係との間に原始的な不一致がある場合、これを是正するために認められた登記であり錯誤、または遺潟の原因が、当事者または登記官のいずれにある場合についても認められますが、その前提として、まず、更正前の登記と更正後の登記との間に同一性のあることが必要です。一般に、抵当権の債権額は、優先弁済権の範囲を画す意味で重要な要素であり、被担保債権の同一性とも関連して抵当権の同一性を識別する上で重要な役割を果たすものですが、債権額の同異が常に抵当権の同一性を左右するものではありません。他の要素、つまり契約当事者、抵当権設定の日付、被担保債権の種類等を考え合わせて、全体としてその同一性が認められる場合には、更正登記によって債権額の是正が可能というべきです。前例のように、被担保債権額の表示が100万円となっている登記の金額を1,000万円に更正するだけの場合には、前後の同一性を認め、登記の更正を許すべきです。
更正登記手続は、過誤が申請人にあった場合と登記官にあった場合とでは取扱が異なり、さらに利害関係人の有無によっても登記方法が異なります。
申請人の過誤による場合は、登記の一般の原則に従い抵当権者を登記権利者、抵当権設定者を登記義務者として更正登記の申請をすることができます。この場合、抵当権者としては、附記登記によって当初の順位を保持したまま登記の更正ができれば好都合ですが、更正の際、すでに当該目的物件に所有権移転登記や後順位抵当権の設定登記がされていると、これら登記上の利害関係を有する第三者との利害の調整をはかる必要が生じてきます。そこで、不動産登記法は、登記の更正の方法を附記によりうる場合を一定の場合に制限し、その他の場合は主登記によることとしています。
登記上利害関係を有する第三者がいない場合、あるいは、それがいてもその者の承諾書またはこれに対抗することができる裁判の謄本を申請書に添付した場合には、附記による更正登記をすることができます。この場合は、もとの登記の順位で更正後の登記事項を第三者に対抗することができるために、前例でいえば、当初の100万円の登記の順位で1,000万円の全額を第三者に対抗できるのです。この場合、登記上利害関係を有する第三者とは、更正の登記により登記の形式上損害を受けるおそれがあると一般に認められる第三者をいい、本件のような事例でいえば、先順位抵当権者は入りません。この第三者に対し、更正登記の承諾請求権を有するか否かは、その第三者の権利の性質によって決定されるのであって、その者が実体的な無権利者であるとか背信的悪意者である場合など特殊な事情がなければ、当然に承諾請求権はありません。
登記上利害関係を有する第三者の承諾書またはこれに対抗することができる裁判の謄本を添付していない場合は、主登記によって登記の更正を行ないます。この場合は、更正部分は新たに抵当権設定登記をしたのと同一の効力しかなく、前例でいうと、更正登記をする前の第三者に対しては100万円しか対抗できず、更正登記後の第三者に対してのみ1,000万円を対抗できるに過ぎません。
過誤が登記官にある場合には、当事者の申請によることは不合理であるために、法は職権による更正を認めることとしています。しかし、職権による更正を無制限に認めるときは、登記官の専断による弊害を生じるので、この更正登記には、あらかじめ法務局または地方法務局の長の許可を得ることとし、しかも、登記上利害関係を有する第三者がいないときにかぎりこれをすることがでぎることとしています。登記官は、この場合遅滞なく許可を得て登記の更正をし、その旨を登記権利者および登記義務者に通知することを要する一方で、申請人は、前述の更正登記の申請をすることができるほか、登記官の職権発動を促すことができます。しかし、登記上利害関係を有する第三者がいるときは、申請人が更正登記の申請をするほかはなく、もし、第三者の承諾が得られず、抵当権により満足が得られない場合には、国家賠償請求をしうるに止まります。

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