一部抵当権の設定

金銭債権は、その性質上可分であるために、債権者は、一個の金銭債権を常に一体として行使しなければならないものではありません。例えば債権者は、債務者に対して一個の金銭債権の一部だけの履行を請求し、一部だけの弁済を受領することができ、一個の金銭債権の一部を被保全権利として仮差押の申請をすることもでき、また一個の金銭債権の一部だけを他に譲渡することもできます。そして債権者は、このように可分な債権の履行を確保するために保証人と保証契約を締結するに当たり、保証の限度を債権の全額ではなく、その一部に限ることも、当然許されると解されています。したがって、債権者が一個の金銭債権の一部を被担保債権として債務者または第三者との間に抵当権設定契約を締結することが許されることも当然です。また、当初一値の債権の全額を被担保債権として抵当権を設定したのちに、被担保債権の範囲を滅縮し、一部抵当権に変更する契約を締結することも許されます。

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登記申請書には、登記原因及び其日附を記載しなければなりませんが、債権の一部を被担保債権とする抵当権の設定登記を申請するときは、申請書に、登記原因及び其日附として、例えば平成何年何月何日消費貸借契約による債権額500万円のうち300万円についての抵当権設定契約のように記載し、一部抵当権の設定登記を申請するものであることを明らかにすぺきです。また、抵当権の設定登記の申請書には、債権額を記載しなければなりませんが、一部抵当権の設定登記を申請するときは、申請書に、債権額として、被担保債権である債権の一部の額を記載すべきです。以上の点については、昭和三○年四月八日民事甲第六八三号民事局長通達が明らかにしています。そして、このように申請書に記載された登記原因、共日附および債権額は、いずれも登記簿の乙区事項欄に記載され、その抵当権が一部抵当権であることが公示されることになります。
一部抵当権が設定されている場合に、債権の全額を消滅させるに足りない弁済があったときの効果については、問題があります。例えば、500万円の債権のうち300万円を被担保債権とする抵当権が設定されている場合において、300万円の弁済があったときは、被担保債権の全額が弁済されたことになり、抵当権は消滅すると解すべきなのか、あるいは残存債権200万円を被担保債権とする抵当権として存続すると解すべきなのかでは、金銭債権は可分ですが、その一部を他の部分と区別して特定することはその性質上不可能であるために、一個の債権のうち、一部抵当権の被担保債権とされた部分とその他の部分とを区別して特定することはできません。したがって、一部抵当権においては、債権者が抵当権の目的物から優先的に弁済を受け得る範囲が全額上債権の一部に相当する額に限定されているにすぎず、一部弁済があっても、被担保債権とされた金額を越える債権が残存するときは、被担保債権の範囲は滅少することなく、従前どおりの一部抵当権が存続し、ただ、残存債権が被担保債権とされた金額を下まわることとなったときは、残存債権全額を被担保債権とする通常の抵当権となって存続することになると解すべきです。ここにも、不可分性がみられることになります。
このように、一部抵当権が一部弁済によっては消滅しないことについては、その弁済が債務者によってされた場合については、異論がありません。しかし、その弁済が物上保証人または抵当権の目的物の第三取得者によってされた場合については、これと異なり、弁済の限度で被担保債権が滅少し、被担保債権額に相当する全額の弁済があったときは、抵当権が消滅するとする考え方も有力です。そして、この考え方は、物上保証人または第三取得者は、債務の弁済に関し、債務者とは異なった独自の地位にあることを理由とするもので、相当の根拠があるように思われますが、最判昭四二・一二・八民集二一巻二五六一貢の判示に照らし、最高裁は、この考え方を一応否定しているとみるべきです。いずれにせよ、弁済者と抵当権者の合意により、一部弁済を被担保債権の範囲の弁済とすることはもとより許されます。ただし、これをもって第三者に対抗するためには、被担保債権の減少の変更登記を必要とします。

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