個人会社の代表者からの回収

会社に対して金員を貸し付ける場合には、債権者としては、債務者にあらかじめ担保を提供させたり代表者個人の保証を求めるなどして貸金債権の保全の手段を講じるべきであり、実際上もそのようにするのが普通です。しかし、何らかの事情で債権者がこのような債権保全の手段をと らずにおいたところ、会社の資産状態の悪化などの理由で会社からは貸金債務の弁済を得られない場合があります。これは、とりわけ個人会社、つまり個人的色彩の強い小規模な会社において多くみられます。このようなときに、会社の代表者個人に対しても貸金債務の弁済を求めうるとか、あるいはそれに代る損害賠償を請求できるということになれば債権者はこれによって救済されます。何らかの法理論ないしは規定によってこの救済が可能か、可能とすれば具体的にどのような要件が必要とされるかというのが常に問題になります。

スポンサーリンク

お金を借りる!

いうまでもなく法人はそれを構成する個人とは別の法主体であるために、法人である全社への貸付をもって代表者個人にも直ちにその責任を負わせることはできません。しかし、会社の代表者が違法なあるいは不当な目的のためにその法人格を利用するような場合、例えば競業避止など契約上の不作為義務を負う者が自らが支配する会社に競業を行なわせる場合、または会社とは名のみで実質においてこれを支配する者の個人企業と全く同視できるような場合には、相手方は、会社名義でなされた行為についてもこれを背後にある個人の行為と認めてその責任を追及することがでぎ、また個人名義でなされた取引についてもこれを会社の行為と認めて会社の責任を追及することができます。これは法人格否認の放りといわれ、最高裁の判例によって確立されるに至った法原則です。
昭和44年、最高判は、完全に実質的個人企業である甲会社の代表者乙が個人の資格でなした賃借店舗の明渡に関する裁判上の和解について、このように会社とは全く名のみの会社の場合には、前記のとおり、会社名義でなされた取引でも個人の行為と認め、また個人名義の行為であっても会社の行為と認めることができる、と判示し、和解の効力が乙個人だけでなく甲会社にも及ぶものであることを認めました。
本間について考えると、本間の個人会社が最高判にいわゆる、法人格が全くの形骸にすぎない場合、つまり完全に実質的個人企業の場合にあたれば、その判旨において確立された法人格否認の法理を適用して代表者個人の責任を追及することができます。そこで間題は、其体的にどのような事実があればこの場合に該当するものといえるのか、ということです。この点については最高判からも必ずしも明らかであるとはいえません。最高判以後下級審にはこの法理を適用した判決が相当数みられますが、そこでは法人格の背後にある個人が会社を意のままに支配し運営することで足りるように解されるものが多い。しかし、学説はむしろ、個人が支配している事実だけでは不十分で、会社と個人の業務、財産および会計の実質的混同、会社の運営に関する法定の手続の無視などの事実が必要であると解しています。単なる支配の事実だけでよいとする場合は、法が法人格賦与の形で認めている企業の独立性の意味が全く失われ、現実にも株主または社員が単独で支配する一人会社であっても完全に実質的個人企業といえない場合はいくらでもあるために、この学説の立場が妥当です。したがって、本間の場合にも支配の事実に加えて右にあげたような事実が認められれば法人格否認の法理を適用して会社代表者個人に対しても賃金債権の請求をできるものと解されます。近時の最高判では、この法理の適用は慎重にされるべきである旨判示していますが、少なくとも法人格形骸を理由に否認法理を適用できるのは実際上は、むしろまれではないかと思われるのであって、理論上も会社制度の目的、その現実の機能等に照らしてみるとき、やはり真に取引の相手方を保護しなければ正義、公平の観念に背馳する場合にのみ否認法理の適用を認めるとの厳しい態度を貫くべきであると考えられます。
商法では、取締役が悪意または重過失ある違法な職務行為ないし職務に関連する行為によって第三者に損害を与えたときはその取締役は当該第三者に対して損害賠償責任を負う旨を規定しています。この規定の解釈について、判例は、悪意または重過失による任務怠慢によって第三者が直接に被った損害、及び会社が損害を被った結果、第三者が被った損害を取締役に賠償させるもので、この規定による責任と一般不法行為による責任とは競合するものとしています。
本間についてみると、代表者が会社のために貸金債務を負担するに際し、会社の資産、営業状態からみて期限に弁済の見込がないのにあるように装い、または重過失によってその見込があるものと誤信し、その結果債権者が会社から弁済を受けられなかった場合、あるいは代表者の著しい放漫経営、あるいは会社財産の着服横領などにより会社の資産状態が悪化して債権者が会社財産から満足を受けられなくなったような場合には、債権者は代表者個人に対し貸金債権に代る損害賠償請求権を取得しこれを行使することができます。

お金を借りる!

第三者による弁済/ 連帯保証人による弁済/ 手形買戻債権の代位弁済/ 一部代位弁済/ 債権譲渡による債権回収/ 債権譲渡と代位弁済/ 個人会社の代表者からの回収/ 債権の償却/ 貸倒と財務処理/ 債務免除/ 抵当権処分の方法/ 一部抵当権の設定/ 所有者による抵当権設定/ 登記のない抵当権/ 誤った金額の抵当権の効力と是正/ 権利能力のない社団と抵当権設定/ 物上保証人と保証人の違い/ 物上保証人の地位/ 利益相反/ 債務者の資産悪化と物上根保証人/ 物上保証人の求償権/ 抵当権の消滅原因/ 抵当債務を第三者が弁済/ 債務の一部弁済と抵当権/