会社が軌道に乗ったら返す約束の借用書に印鑑を押させた

 Aさんは、友人Bが妻と二人で始めた小さな清掃会社に対して「経営が軌道にのってきたら返す」という約束の借用書に印鑑を押させて、融資しました。ところが間もなく、会社は倒産してしまいました。Aさんは貸し金を返してもらえないでしょうか。

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 「経営が軌道にのってきたら返す」と約束した場合は、会社が倒産すれば、返さなくてもよいことになるのかどうかが、問題です。この点は、この返済の約束が「経営が軌道にのれば返すが、軌道にのらなければ、それっきり返さなくてもよい」という趣旨なのか、それとも「必ず返すが、そのうち、経営が軌道にのるはずだから、その時まで待って欲しい」という趣旨なのかを考えれば、はっきりします。
 前の意味だとすれば、この約束は返済の「条件」を定めたことになり、後の意味だとすれば返済の「期限」を定めたことになります。このどちらであるかは、AさんとBの契約当時の意思によって決まりますが、ふつう、この約束は「出世払い特約」などと呼んで、返済期限についての特別な定め方の一つだと解釈されます。
 「条件」だとすると、「返せなければそれでもよい」という、贈与に近い趣旨が入ってきますが、そのような意思が、Aさんにあったとまでは一般には認めにくいのです。
 したがって、会社が軌道にのってきたときに返済請求できることはもちろんとして、本問のように、会社が倒産した場合に、Aさんは請求権を行使できないまま終わるとするわけにはいきません。
 そこで、本問のような約束は「経営が軌道にのってきたときに返すが、それまでに軌道にのりえないことがはっきりすれば、そのときに返す」という趣旨だとされます。Bの会社は倒産してしまったのですから、Aさんは返済期がきたとして、貸し金の請求をすることができます。
 しかし、実際には、倒産会社に請求してみても、ほとんど実益は期待できません。Aさんとしては、なんとかB個人に対して請求したいところです。そこで「法人格否認の法理」の適用が考えられます。会社などの法人は、一個の独立した法律主体ですから、法人の行為について、それ以外の者に責任を生ずることは、原則としてありません。しかし一定の取引行為については、たとえ法人の名においてなされたものでも、代表者個人の行為とみなして、代表者に責任を負わせようというのがこの法理です。
 どのような場合に、この法理が適用できるかといいますと、法人とは名ばかりで従業員もおらず、B夫婦だけでやっていて、実質的な個人経営だというような場合です。このような場合、Aさんは実質的にはB個人が借り主だと主張して、Bに請求できます。
 ところで、「出世払い特約」で、お金の貸し借りをすることは、とても危険です。
 いくら期限を定めたものだといっても、確定期限の場合と違って、借り主に「返さなければならない」と意識させる拘束力にとぼしく、また貸主も、なかなか返済請求のタイミングを掴みにくいものです。
 またその特約が、本問のように「経営が軌道にのる」という抽象的な内容の場合には、期限到来の判定がかなり困難です。
 かといって、倒産でもしなければ、いつまでも返してもらえないということにもなりかねません。
 またAさんが、まだ足場の固まっていないBの会社にお金を貸すのに、B個人に達帯保証人になってもらっていないというのも、Aさんの立場としては、いささか安易にすぎ人が好いといえます。
 Aさんが、Bの営業を支援するという立場を取りながら、なおかつ、ある程度は返済を確実にしたいというときは、返済期限を定めるうえでも、「返済期限は何年何月何日とするが、それまでに経営が軌道に乗ればその時点で返済する。」と決めるか、さもなくば、毎月少しずつで も分割返済してもらうことです。

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