経理課長が社長の印鑑を盗用して自分の借金をした

 A会社の経理課長Bが、会社代表印を盗用して、会社名義の借用証に印鑑を押し、会社運転資金という名目で金融業者Cから一〇〇万円を借りて、自分の遊興費にあててしまいました。A会社はCから、なんらかの請求を受けることになるでしょうか。

スポンサーリンク

 Bには会社を代表する権限がないことはもちろん、資金調達をまかされていたわけでもありませんから、Bの行為は会社に対する無権代理となります。したがってA会社が、契約当事者としての責任を負わされることはないと考えてよいでしょう。B自身は無権代理人として、一〇〇万円の返済義務を負うほか、Cを騙してお金を借りている以上、詐欺による不法行為を理由としてもCから責任を追及されることになります。
 なおBが会社の代表者であれば、その不法行為は、同時に会社自身の不法行為とも目され、会社も損害賠償責任を負いますが、Bは経理課長にすぎませんから、会社の不法行為が成立することはありません。
 しかし、A会社がまったく責任を負わないのかといえば、決してそうではありません。A会社は、Bのような人物を雇い入れておきながら、その監督を怠ったという意味において、一種の監督責任を負わされます。
 これを一般に「使用者責任」と呼びますが、この責任は、被用者が雇主(使用者)の事業を執行するについて、第三者に不法行為による損害を与えた場合に成立します。
 つまり、社員が、会社の仕事が終わってから一杯飲んで喧嘩をしても、会社の使用者責任は発生せず、会社業務の一環と見られるような行為、会社業務と一定の関連が認められる行為によって不法行為がなされた場合にのみ、使用者責任を問われるのです。
 この業務行為との関連性は、会社や行為者本人の意図とは関係なく、客観的に外観から判断されます。本問のケースについていえば、Bの内心の意図は遊興費を作ることにありますから、会社業務とはまったく無縁なものです。しかし、その外観だけを見ると、経理課長が会社の運転資金の調達に携わっているのですから、会社業務と見られてもやむを得ないでしょう。
 このようにして、結局、A会社も、不法行為という観点からの責任を負わされることになり、Cは、A会社とB個人のどちらに対してでも、一〇〇万円の支払いを請求できるのです。一般には、自分の知らないところで、自分の名をかたった契約がされ、しかも自分の印鑑が盗用されているとしても、たんなる無権代理であって、自分にはいっさい責任はありません。
 しかし、ひとたび他人を使用している立場になると、その者の悪事について、雇い主であるがために、賠償責任を負わされることがあるのです。
 このことから考えると、会社の代表印などを盗用されるようなずさんな管理をしていたという点に、A会社のもっとも反省すべき落ち度があるといえそうです。会社によっては、経理課長が代表印を保管していることもあり、代表印は個人の実印ほど慎重には取り扱われていないのが実情のようですが、その危険性は十分認識すべきです。

お金を借りる!

社長が自分の借金に会社を保証人とする書類に印鑑を押している/ 盗まれた手形用紙に市販の印鑑を押されて振り出された/ 常務が勝手に印鑑を押して会社財産を処分した/ 振出人の妻が本名以外の名を署名し印鑑を押した手形を受け取っている/ 手形の誤記は誰の印鑑で訂正すればよいか/ 白地手形に印鑑を押すとどうなるか/ 強迫されて手形に印鑑を押したが/ 経理課長が社長の印鑑を盗用して自分の借金をした/ 会社が軌道に乗ったら返す約束の借用書に印鑑を押させた/ 町内から同業者を出さないという念書に印鑑を押して退職した/