振出人の妻が本名以外の名を署名し印鑑を押した手形を受け取っている

 Aさんは、取引相手から支払手形を受け取りました。振出人は山田長政と書いてありますが、その本名は山田一郎であり、しかも本人に代わって奥さんが署名し、印鑑も押したものとわかりました。この手形の支払いを受けるのに支障はあるでしょうか。

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 まず本人の奥さんが、本人の署名を代筆した点から考えてみます。手形には振出人の署名押印が必要です。法律上は、自署すれば印鑑を押してなくても有効であり、ゴム印などを用いて記名した場合にだけ、印鑑も必要となります。しかし実際の取引きでは、いくら自署があっても、印鑑のないものは手形として扱われませんし、銀行も支払いに応じてくれません。
 さて、記名方式の場合には、本人自らがしたのではなく、経理担当者などが記名したものでも、まったく問題なく有効とされていますが、署名を別の者が代筆した場合については、見解が分かれています。
 記名は誰がしても顕出される外観にまったく変わりがありませんが、署名は行為者によって変わってくるものですから、本人の署名は、本人しかなしえないはずだという考え方も強いようです。この考え方からすれば、本問の手形は、振出人の有効な署名を欠き、無効だということにもなります。しかし判例などは署名の代行ということも許され、振出人本人が署名代行を許容していたのであれば有効な署名といえるといっています。
 手形振出人の署名は、手形の振出人としての最終的責任が、誰に負わされるのかを明らかにするために要求されるのですから、本人が、その手形の振出人としての責任を負う意思をもち、その意思にもとづいて手形上に本人の署名が顕出された以上は、本人にとっても第三者にとっても、その署名を有効として、本人に振出責任を負わせることに問題はないはずです。
 ですから、判例の考え方が正しいとみてよいでしょう。
 山田さんが、奥さんに代筆させ、印鑑を押させた点では手形は無効になりません。
 つぎに本名の山田一郎ではなく、山田長政という別の名が署名された点を考えましょう。名前は個人の同一性を表わすための呼称ですが、必ずしも常に戸籍上の名前でなければ、本人との同一性が明らかにならないわけではありません。ペンネームや雅号の方が、かえって本人を示すものとしてよく知られていることもあります、山田長政という名が、山田一郎さんによって、つね日頃から自分の名として慣用され、他人にも知れ渡っている場合、つまり本人の通称ないし別名だと認められる場合には、この署名は山田一郎さんを表わすものとして完全に有効です。
 それでは、山田長政という名前を、思いつきで、初めて使ってみたという場合はどうでしょうか。結論をいえば、この場合も、山田さんが自分を表すものとして、この名前を使った以上、有効な署名です。これを無効としたのでは、直接、山田さんを知らないその後の裏書取得者は、思わぬ被害をこうむることにもなりかねません。振出入の署名が本名か、通称か、それとも、まったくの偽名なのか判断できない第三者に、不測の損害をこうむらせるわけにはいかないのです。
 Aさんにとってもっとも重大な関心事は、山田長政という名前で、はたして当座取引がなされているかどうかです。山田長政として当座が開設されていれば、Aさんが支払いを受けるのに特別な支障はありません。しかし、当座は山田一郎名義になっているとすれば、Aさんは支払銀行からは支払いを受けられず、直接、山田さんに請求していくほかないでしょう。
 実際の取引きでは本名以外の名前を使って手形が振出されるのは、その名前で銀行取引もされているというケースが多いでしょう。しかし、中にはうっかり雅号を書いてしまったふりをしてわざと銀行取引名以外の署名をし、支払いの時間かせぎをする例もないではありません。

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