払戻充当

払戻充当とは、銀行取引上の用語で、銀行が貸出先に対し貸付金債権を有し、貨出先が同じ銀行に預金をしている場合に、銀行が貸出先にかわって預金の払戻を受け、これを貸付金債権の弁済に充当することです。つまり銀行取引約定書七条二項では、次のように定めています。
前項の相殺ができる場合には、貴行は事前の通知および所定の手続を省略し、私にかわり諸預け金の払戻しを受け、債務の弁済に充当することができます。
そして、この払戻充当と、相殺の双方を含めて、差引計算とよんでいます。

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払戻充当は、この約定からみると、銀行が貸出先にかわって預金の払戻を受けるというのであるために、まず預金の払戻の点については、銀行が預金者の代理人として、預金債権を取立てその弁済を受けるということになります。預金債権の債務者は銀行自身であるために、自分に対する債務を自分で取立てることになり、自己取引となりますが、債務の履行なので民法一○八条但書によりさしつかえないわけです。つぎに貸出し先である預金者の代理人として受領した預金の弁済金を、債務の弁済に充当するというのであるために、銀行自身が預金払戻金を取得し、貸出金債権の回収にあてることを認めるというものです。したがって、これは代理人が所持している金銭を、本人の代理人に対する債務の弁済に充当するという、簡易の決済方法を定めたものとみてもかまいませんが、貸付金債権の弁済とみれば、債権者である銀行が債務者である貸出先の代理人として弁済するのであるために、これも自己取引にあたることになります。このように払戻充当は、預金の払戻と貸付金の弁済の二つを、銀行が貸出先の代理人として行なうことを定めたものであり、貸付金債権と預金との簡易な清算方法として、広く利用されています。
銀行は、何等でも払戻充当ができるわけではなく、前述のとおり、銀行取引約定書七条二項によると、前項の相殺ができる場合には払戻充当ができるとなっています。そして前項の相殺ができる場合とは、期限の到来または前二条によって貴行に対する債務を履行しなければならない場合であり、前二条とは期限の利益喪失事由を定めた第五条と、割引手形の買戻しを定めた第六条を指しています。したがって、当初の約定または期限の利益喪失事由を生し、貸付金債権について弁済期の到来している場合ということになります。
一方預金については、銀行取引約定書七条二項には、相殺について定めた七条一項のように、期限のいかんにかかわらず、という文言がありません。これは払戻充当の場合、定期預金については、預金債務者である銀行と、預金債権者の代理人である銀行との間で、期限前解約の合意をすればよいからであり、その場合利息をどうするかについては、七条三項で差引計算の日を基準とし銀行所定の利率で計算すると定めているので、代理人として交渉する余地はないようになっています。
預金の払戻については、本来預金通帳または証書と、届出印を押捺した払戻請求書が必要です。これは、払戻請求にきた者の権恨を確認するための手段であり、銀行側からすれば免責を受けるための要件です。したがって真の預金者に払い戻すかぎり、通帳、証書や届出印がなくても、法律的には支障はありません。そして払戻充当の場合、支払を受ける銀行の権限および代理人であることの確認については全く問題がないために、あとはその預金が貸出充本人の預金かどうかだけが問題です。そして貸出先本人の預金であることが確認できるかぎり、通帳、証書や届出印がなくても、払戻充当を行なってさしつかえません。しかし貸出先の預金ではなかった場合は、準占右者に対する弁済として、免責されることが難しくなります。
払戻充当も相殺と同じく、預金と貸付金を対等額で消滅させる点では変りませんが、要件や効果には若干の違いがあります。
第一は、相殺は当事者の一方からの意思表示によって行たうものであり、相殺の通知が不可欠であるのに対し、払戻充当にあっては通知は要件ではありません。もちろん、預金者の依頼に基づいて預金の払戻を受け弁済をするのであるために、払戻充当をしたときはその旨を通知しているが、これはあくまでも事後の報告であり、仮に通知が到達しなかった場合でも、払戻充当の効果に影響はありません。
第二に、相殺は債権債務が対立関係にある場合に、法津上の権利としてするものであり、たとえ預金が第三者に差し押えられた場合でも、差押以前に実行した貸付金債権があれば、これとの相殺によって、差押債権者に対抗することができます。しかし払戻充当は、あくまでも預金者に預金払戻の権限があることを前提として、これを代理行使するものであるために、預金が差し押えられ、または破産、会社更生手続等により預金者が預金の取立権恨を失なったときはすることができません。またこれらの手続に伴う保全処分により、債務の弁済が制限されたときも同様です。
第三に、相殺は本来遡及効を有し、相殺適状を生じた時点に遡って債権債務が消滅するのが原則ですが、払戻充当は遡及効がなく、実行の時点で債権債務が消滅します。もっともこの点は、銀行取引では特約により相殺についても遡及効を制限しているので、結果的にはかわりはなく、相殺も払戻充当もかわらないようになっています。
払戻充当の性質は以上のようなものなので、もっぱら第三者が関係しない場合に利用されます。

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