同行相殺

例えば甲銀行が貸出先乙の依頼によって丙振出の約束手形を割り引いた場合、銀行は丙に対し手形債権を持つことになりますが、この手形債権と丙の預金との相殺を、同行相殺といっています。銀行が手形を割引または譲渡担保によって取得した場合、手形所持人として、振出人、引受人、裏書人など、割引依頼人以外の手形関係者に対し、手形上の債権を有することになります。この手形債権の債務者がその銀行に預金をしているときは、相殺の一般的な要件を満すかぎり、銀行は手形債権を自働債権として、その預金と相殺することができるわけであり、これが同行相殺です。しかし裏書人については事例が少なく、一般には約束手形の振出人、為替手形の引受人の預金との相殺が問題となることが多くなっています。

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銀行が手形割引を行なうときは、当然のことながら手形の信用度を審査しており、手形の支払義務者が誰であるかということについて、注意を払っています。そしてこれらの支払義務者に対する債権を、支払人口債権といっており、支払義務者に対して別途貸出取引を行なっているときは、支払人口債権を含めて信用供与の状態を考えることとしています。そしてそのために、銀行取引約定書には、約定書の現定は手形債務についても適用されることを定め、また根抵当権の設定を求めるときは、被担保債権の範囲として、銀行取引のほかに、手形債権、小切手債権を掲げることとしているのです。
甲銀行が、乙の依頼により丙振出の約束手形を割引きあるいは担保として取得した場合、銀行と丙との関係は手形上の関係です。したがって支払呈示に対し不渡となれば、銀行は丙に対し手形全額と満期日以後の年6%の割合による法定利息を請求でき、支払呈示を欠いても、手形元金の請求は可能です。また満期前であっても、丙につき手形法四三条の事由を生じたときは、手形金額から手形法四八条二項の金額を控除した領を直ちに請求でぎると考えられます。そして手形債権の行使にあたっては、手形の呈示、交付が必要であるために、銀行は手形の呈示、交付をしたうえで、これらの債権と丙の預金とを相殺することができます。しかし、この例で丙が甲銀行と貸出取引を行なっており、銀行取引約定書を差し入れているときは、前項で述べたように手形債権についてもその適用があります。その結果満期後は約定レートによる遅延損害金が発生し、また満期前であっても期限の利益喪失事由のあるときは、銀行は直ちにその支払を請求できます。そして権利行使にあたっては、甲銀行が手形の支払場所となっているなど一定の場合には、手形の呈示、交付を要せず後から手形を返還すればよいとされているので手形の呈示、交付なしに、直ちに相殺をすることができます。このように支払義務者が手形所持人である銀行に対し銀行取引約定書を差入れている場合と、差し入れていない場合とでは、法律関係は若干異なりますが、いずれの場合も同行相殺が可能であることにかわりがなく、これ自体不当な点もありません。丙は手形の最終支払義務者として、その手形を支払わなければならないのであり、同行相殺は預金を払戻して手形を支払うのと同じことであるからです。
手形の支払義務者である丙が倒産した場合には、同行相殺は重要な意味を持ってきます。つまり先にあげた例で、甲銀行が同行相殺をせず、割引依頼人である乙に手形の買戻しを求めれば、乙としては一般債権者として丙に対し権利を行使することになり、その結果支払の長期化、一部切捨は避けられません。そして銀行は余った預金を丙に払い戻すので、その分は丙の手許資金となり、一般債権者全員が平等にその配分にあずかれることになります。しかし銀行が同行相殺をすると、乙は買戻の必要がないので、その手形相当額の丙に対する債権は、全額回取できたことになります。そしてその反面、その分だけ一般債権者全員の支払源資が滅少することになります。また、会社更生や会社整理など、事業の継続を前提とする手続では、丙が預金の剰余分を運転資金として予定しているので、これを同行相殺されてしまうと、予定が狂うことになります。そこで同行相殺の可否について、争いを生じることになるのです。
この場合に銀行の立場からすれば、割引依頼人乙に買戻しの資力があるかぎり、買戻しを求めても、また同行相殺をしても、債権保全上かわりはありません。したがってそのような場合は、もっぱら乙の意向に従うことになります。したがって利害の対立は乙と支払義務者丙のその他の一般債権者の間に生じることになります。しかし、乙に買戻し能力のない場合など、銀行自身同行相殺の必要性がある場合には、根行もまた利害関係を有することになります。
銀行の立場からみて、同行相殺の必要がある場合を考えてみると、次のような場合があげられます。まず第一は、割引依頼人乙に買戻能力がない場合です。この場合銀行としては、手形の支払義務者丙に請求せざるを得ず、丙に預金があれぱ、同行相殺をすることになります。
第二は、割引依頼人に連鎖倒産の恐れがある場合です。つまり差し当って買戻の資力がない訳ではありませんが、無理して乙に買戻しをさせると資金繰を圧迫し、連鎖倒産を招く恐れのある場合があります。このような場合、銀行としてはなるべく倒産を防ぐような処置をとることは、やむをえないと考えられます。
第三は、当初から同行相殺を予定して割引が行なわれている場合です。例えば親企業が下請企業に対し手形で支払をするにあたり、下請企業が銀行で手形を割り引いてもらいやすくするために、親企業が銀行に根担保を提供し、あるいは預金をしておくという場合があります。このようにすれば、親企業の信用と下請企業の信用をあわせて金融を受けられるので、親企業が直接銀行から融資を受けて現金で下請に支払うよりは、金融の枠が広がるという効果がありますが、このような場合は、そもそも同行相殺を前提として割引が行なわれたのであり、銀行がその期待を持つのは当然です。また割引依頼人の側からすれば、銀行に割引のため手形を持ち込むにあたり、漫然と銀行を選ばず、なるべく支払義務者の取引銀行に持ち込むのがよいということになります。このような処置は、一種の債権保全策であり、その期待は保護されます。第四は、割引依頼人乙と支払義務者丙が、親子会社のような場合で、両者を共通にみて与信取引が行なわれている場合です。つまり、乙に対する割引により、間接的に丙に信用を与えているときであって、丙の預金で決済するのが当然と考えられます。第五は、割引依頼人乙が銀行の別会社であって、銀行が直接融資をするかわりに、乙を通し信用を与えている場合です。例えば銀行系リース会社や金融会社の場合、取引先から受け取った手形を親銀行に持ち込んでいるが、このような場合の同行相殺も認められます。
同行相殺が不当と考えられる場合としては次のような事例があげられます。
第一は、いわゆる駆込割引であり、支払義務者丙の信用悪化が表面化してから、同行相殺を狙って割引をした場合です。これは破産、会社更生手続等になった場合、相殺禁止の対象となりますがこのような手続にならないかぎり法律上禁止されてはいません。しかし、同行相殺が相当でないことは当然です。
第二は、融手や取引上のクレームのある場合であって、割引依頼人乙が支払義務者丙に請求すれば、人的抗弁の対抗を受けるときです。このような場合も、乙に買戻能力がなければ、銀行が善意である以上同行相殺はやむをえませんが、買戻能力があるのであれば、買戻をさせたうえ、乙丙間で清算させるべきです。
以上のように結局原則的には同行相殺は法律上可能であるといえます。しかし、その濫用が許されないことは当然であり、通常の場合に比べて、自分のための相殺ではなく、他人のための相殺である場合があることから、濫用とされやすいのではないかと考えられるのです。

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