手形買戻請求権での相殺

手形の買戻請求権というのは銀行と取引先間の銀行取引約定によって発生する特殊の法律関係です。そして、この買戻請求権の法律的性質については手形割引を金銭消費貸借と解するか、あるいは、手形の売買と考えるかによって結論を異にすることになりますが、手形割引については、売買説が早くから通説的地位を占めています。手形割引を手形の売買であると考えた場合にも、買戻請求権についてはなおこれを手形の償還請求権と同性質の手形上の権利と解する余地もないわけではありません。しかし、手形上の権利を特約によって作り出すこと自体問題があるために、特約による再売買予約契約上の権利と解する通説の見解に従い、一定の事由、銀行取引約定第五条の事由が発生すると、手形の割引依頼人は手形の買戻義務を負担することになりますが、この場合における銀行側の権利を特に割引手形の買戻請求権といっているのです。

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一般に売買予約の場合、予約完結権を持つのは買手の側なのですが、手形割引の場合における再売買予約では完結権が売主、つまり銀行側にある点が一般の場合と異なるわけです。しかし、売買予約では、売主買主いずれか一方の意思表示で売買関係を成立させるところにメリットがあるために、予約完結権がどちらにあろうと売買関係が成立さえすれば間題ではありません。銀行取引約定では、再売買関係の成立につき二つの型を規定しています。つまり銀行取引約定第五条一項の事由発生の場合には割引依頼人は銀行側の意思表示を要せず当然に買戻義務を負うことになりますが、その他の場合には銀行の意思表示をまって始めて買戻義務を負担する仕組みがとられています。
以上のような買戻請求権が発生すると銀行は当然のことながらいわゆる差引計算によって割引代金を回収することになるわけですが、この差引計算つまりは相殺については大いに問題があります。つまり買戻請求権をもって相殺するという場合は買戻請求権が自働債権となるわけですが、自働債権たるためにはその債権は債権者によって自由に処分される債権でなければならず、この意味から同時履行の如き抗弁権の付着した債権は自働債権として相殺の用に供することはできないものとされています。手形を買戻す場合、それが手形の再売買であるということからも手形の交付は売買目的物として代金と同時履行の関係にあることは明白なことであるし、常識的にも、手形をそのまま売主のところに預けておいたのでは二重請求の危険があり、必ずその引渡を求めなければならないということになります。そうとなれば、買戻請求権というもそれは抗弁権付の債権であるために、実はこれを自働債権としては相殺が許されないということになってしまうわけです。しかし、そうなっては銀行実務上甚だ厄介なことになるので、取引約定第八条を生み出したというわけなのです。
同条で、貴行が手形上の債権によらないで前条の差引計算をされるときは、としているのは、実は、買戻請求権をもって相殺するときは、と何じことを言っているのです。そしてその場合は、何時にはその手形の返還を要しない、としているために、結局、同時履行の抗弁権を主張しません、として買戻請求権を単純化して自動債権として使用できるようにしたわけです。つまり、買戻請求権の相殺にあたっては、それが手形上の債権ではないから手形の呈示は必要としません。しかし、それが再売買であるということから手形の交付は必要である、ということになりますが、それは、逆に相殺ができないということになっては困るので取引約定によって同時交付の要件を緩和して相殺処理を可能ということに要約できます。
相殺の用に供した手形は、同時ではなくてもかまいませんが、いずれは割引依頼人の手に戻るべきなのですが、取引約定第八条三項は次のような条項をおいています。つまり、前条の差引計算の後なお債務が存する場合、手形に私以外の債務者があるときは、貴行はその手形をとめおき、取立または処分のうえ、債務の弁済に充当することができますとされており、これがいわゆる、とめおぎ手形になります。
銀行が乙の手形を一旦は割り引いたが買戻後なお満期前なので甲が決済するかも知れないという場合もあります。あるいは、甲は既に不渡になったが、乙に求償すれば支払うかも知れない、というが如き場合もあります。これらの場合には、銀行がそれぞれの手形上の債権を行使して乙もしくは丙に対する債務の弁済に充当しようというわけです。このとめおき手形の法的性質ですが、この段階になればもはや買戻における当事者双方の債務の履行は一応終了したものとみなければならず、したがって、とめおき手形には別個新たなる法的評価が与えられなければなりません。そしてその場合における評価としてはやはり取立委任関係が最も現実なものではなかろうか思われます。手形が現実には一度も割引依頼人の手元に戻っていないのであるために、新たに取立委任裏書などがなされようはずはなく、割引の場合の譲渡裏書がそのまま残っているだけです。しかし、当事者間では買戻という一つの決済が終了したのだから次の段階における法的機能として前の譲渡裏書を隠れた取立委任裏書と読み換えることは可能であろうと思われます。しかしその場合、隠れた取立委任につき信託説に立つか、資格授与説に立つかによって抗弁の処理の仕方が違ってきますが、通説に従って信託説に立った場合は、前例における甲乙間乙丙間の抗弁は固有の経済的利益を持たない銀行に対しては切断されないという結果はこれを甘受しなければなりません。あるいは、反対に、銀行に乙の預金があったため、乙の方からその預金を自働債権として相殺され、他の債権のため予定していた担保を失う結果になるかもしれませんが、これも債託説の宿命としてやむを得ないところです。

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