相殺の効果

相殺の効果は自働債権と受働債権がその対当額において消滅することです。ただ、重要なことは相殺の効果が相殺適状を生じた時まで遡及することです。例えば甲が乙に対して4月1日を弁済期とする200万円の債権を有し、乙が甲に対して5月1日を弁済期とする300万円の債権を有している場合に、6月1日に甲が乙に対して相殺の意思表示をすると、相殺適状を生じた時点である5月1日に相殺の効果が遡及するために、甲の乙に対する債権は全額消滅し、乙の甲に対する債権のうち、200万円が消滅し、100万円が残存することになります。相殺適状を生じるとと、法律上当然相殺の効果を生じる立法例とほとんど異ならないことになります。このような遡及効が認められる理由は、遡及効を認めることが、当事者の意思に合致するものであり、相殺のなされた時点で相殺の効果が生じるとすると、相殺がいつなされたかによって、対当額についての差引計算に差異を生じることになり、当事者間の公平を欠くことになるということのようです。

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受働債権について、期限の利益を放棄した場合、あるいは自働債権について、期限の利益を喪失した場合にも、相殺適状を生じた時点が基準となるのは通常の場合と同様です。前者の場合には、自働債権の弁済期に相殺の効果を生じ、後者の場合には、期限の利益を喪失した時点で相殺の効果を生じることになります。そして、相殺適状を生じた時点以後は、消滅した部分については履行遅滞も生じず、約定利息は発生しませんが、債権が消滅したために、当然のことです。
債務者が同一債権者に数個の債務を負っている場合に、その全部を弁済するに足りない額を弁済したときに、それをどのように債務の弁済にあてるかという弁済充当の問題が生じます。これと同じように、相殺においても、どの債務が相殺によって消滅しかどうかが問題となります。この問題は相殺充当といわれますが、弁済充当の規定が準用されている相殺充当には次のような特色があります。第一に、対立する自働債権と受働債権は相殺適状を生じた時点で債権額が異なっている方がむしろ通例です。その意味では、弁済よりも充当の問題を生じる余地が多いように思われます。第二に、相殺権者が相殺の意思表示をする場合には自働債権と受働債権を明示する必要はありますが、それだけでは充当の問題は解決されず、充当の問題が生じます。そこで具体的な例をとして、第一に、相殺をする者が相殺の意思表示をする時に指定することができます。例えば甲が乙に250万円の債権を有し、乙が甲100万円の債権(A)と200万円の債権(B)を有している場合に、甲は相殺するに際して、Aの金額とBの150万円に充当する旨を指定することも、反対にBの金額とAの50万円に充当する旨を指定することも可能です。一般的にいえば、A、B債権の弁済期が同一であれば、それらのうち利率の高いほうに多く充当した方が相殺権者にとっては有利であるといえます。ただ、相殺権者が自由に指定することによって次のような不公平な結果が生じることが指摘されています。例えば甲乙が相互に相手方に無利息債権を有し、相殺適状を生じた後に、乙が甲に利息付債権を取得した場合に、甲がその利息付債権を指定して相殺するような場合です。このような場合には、最初に相殺適状を生じた債権が相殺によって清算されるという当事者間の期待を裏切ることになるために、相手方はさらに相殺を主張してそれ以前の相殺適状を生じたときに消滅していると抗弁できるとされています。
第二に、相殺権者が相殺に際して指定しない場合には、相手方が相殺の意思表示を受けてから遅滞なく指定することができます。例えば前述の場合の例で、甲が指定しないで相殺の意思表示をした場合には、乙はAの全額とBの150万円に充当する旨を指定することも、反対にBの全額とAの50万円に充当する旨を指定することも可能です。この場合には、A、Bのうち利率の低いほうに多く充当したほうが相手方にとって有利になります。もし、このような相手方の充当に対して、相殺権者が遅滞なく異議を述べると相手方の指定は効力を失います。その場合には、通説によれば、相殺権者が改めて充当を指定することができず、法定充当によるべきであるとされています。
相穀権者と相手方との双方が指定しない場合、および相手方の指定に対して相殺権者が遅滞なく異議を述べた場合には、法定充当によることになる相殺の場合には、弁済期にあるもののみが問題となるために、第一に、相殺権者にとって弁済の利益の多いものに先に充当されます。もし、弁済の利益が何じ場合には弁済期の先に到来したものが先に充当されます。そして、弁済期も同一であれば、債権額に応じて充当されます。
そして、費用、利息、元本については、費用、利息、元本の順序で充当されるべきであり、その順序を指定によって変更することはできません。そして、自働債権の額が受働債権の費用あるいは利息の全額に満たない場合には、元本についての法定充当の順序によります。
これまで述べてきたのは、自働債権が数個の受働債権全部を弁済するに足りない場合ですが、逆に受働債権が数個の自動債権全部を弁済するに足りない場合にも相殺充当の問題が生じますが、同様に考えるべきです。

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