相殺の方法

相殺の方法については、立法例によって、相殺適状が生じると法律上当然相殺の効果を生じるとするもの、相殺をする者の単独行為によるとするもの等があります。日本民法はドイツ民法にならって、相殺をする者の相手方に対する単独行為によって、相殺の効果を生じるとしています。そして、判例、通説によれば、この相殺の意思表示では受働債権と自働債権をその同一性を認識できる程度に示す必要はありますが、それ以上に債権額、発生原因等を明示する必要はないと解されています。手形債権を自働債権とする場合には、手形の交付を必要とするかどうかは問題となっています。また、相殺の意思表示は裁判外にかぎらず、裁判上もすることができますが、その場合には、私法上の効果も生じると解されています。

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前述のように、相殺は相手方に対する単独行為によってなされるのが原則ですが、それは契約によって相殺をすることまでを禁ずる趣旨ではありません。したがって、両当事者の契約によって相殺することも可能です。この場合には、両当事者の合意によって相殺の効果が生じるのであるために、要件、効果等について、当事者の合意が尊重されています。例えば不法行為債権、差押禁止債権を受働債権とすることも可能であり、相殺の効果を遡及させないことも可能であると解されています。
相殺の意思表示は相手方に対してなされなければなりません。この相手方というのは、通常の場合には、自動債権の債務者すなわち受働債権の債権者です。受働債権が譲渡されている場合には、その譲受人が相手方となります。また、受働債権が差し押えられ取立命令が出ている場合には、差押債権者が相手方となります。ただ、最近の最高裁判決によれば、差押債権者だけでなく、受働債権の債権者に対して相殺することも可能であると解されています。なお、受働債権の債権者が更生会社である場合に、更生担保権者、更生債権者は、更生手続によらず、相殺できますがその場合には、相殺の意思表示は更生管財人に対してしなければなりません。この相殺の意思表示を受ける相手方は意思表示の受領能力を有することを必要とします。したがって、相手方が未成年者、禁治産者である場合には、相殺の意思表示はこれらの者の法定代理人に対して行なわなければならず、これらの者にした場合には、法定代理人がそのことを知らなければ、対抗できません。
相殺の意思表示が隔地者間でなされる場合には、相手方にその意思表示が到達するとその効力を生じます。相殺の効果は相殺適状を生じた時点に遡及するために、相殺の意思表示がいつ到達したかは通常の場合にはそれほど重要ではありません。
相殺の意思表示に条件、期限をつけることはできないとされています。条件をつけることは法律関係を複雑にするものであり、期限をつけることは相殺の効果は遡及するので、意味を有しないからです。
相殺を当事者問の契約によってすることが有効であることは前述のとおりですが、相殺の予約については多くの問題が生じています。相殺の予約といわれるものには、具体的に次のような形態のものがあると考えられています。第一に、将来一定の事由が生したときには当事者の一方は期限の利益を喪失し、相手方は相殺することができるとするものです。例えば銀行取引約定書五条のような期限の利益喪失約款がその例ですが、これは相殺の要件を緩和するもので厳密には相殺の予約ではありません。第二に、将来一定の事由が生じたときに、当事者の一方が予約完結権を行使して、相殺契約の効力を生じさせるものです。これは予約の観念に合致するもので、有効なものと考えられています。第三に、将来一定の事由が生じたときに、対立する債権が対当額において当然に意思表示を要せず消滅するとするものです。このような契約が有効かどうかについては問題となっています。その事由を客観的に特定し、債権を具体的に明示、特定している場合にはこのような予約も有効であると考えられているようです。判例もまた有効としています。このような予約の効力が間題となるのは当事者間でなく、第三者との関係です。
相殺は相殺適状を生じた後、その相殺適状が存続している間はいつでも相殺することができます。自働債権が消滅時効にかかっても、相殺適状にあるために相殺権者は相殺することができます。受働債権について給付判決がなされ推定した後にも相殺権者は相殺できると解されています。受働債権の給付訴訟の口頭弁論終結後に相殺適状が生じた場合はもちろん、それ以前においてすでに相殺適状にあった場合にも、確定判決以後に相殺することができます。さらに、学説、判例では、確定判決に基づいて受働債権の債権者が強制執行に着手した後においても、相殺権者は相殺できると解しています。つまり相殺権者は、相殺によって債権が消滅したことを理由として、請求異議の訴えを提起できます。

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