相殺の担保的機能

相殺とは、相互に同種の内容の債権を有する二当事者間において、当事者の一方の意思表示によって、それぞれの債権を対当額において消滅させることです。この場合に、相殺をしようとする者の債権を自動債権といい、相手方の債権を受働債権といいます。例えば甲が乙に対して300万円の金銭債権を有し、乙が甲に対して200万円の金銭債権を有している場合に、甲が乙に相殺の意思表示をすると、甲、乙の債権はそれぞれ200万円について消滅し、甲の債権のうち100万円のみが残存することとなります。

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このような相殺制度は、両当事者がそれぞれ自己の債権を請求し、現実に弁済を受けることの手続と費用を省略し、弁済を受けたと同一の効果を生じさせる簡易な決済を認めるものです。これはローマ法以来認められているもので、このような相殺制度が認められる結果として、両当事者がそれぞれ相手方に対して債権を有している場合には、当事者の一方は相手方がその債務を任意に履行しない場合には、自己の債務と対当額において相殺することによって、いつでも自己の債権の弁済を受けたと同一の経済的効果を生じさせることができます。つまり、抵当権等の担保権の設定されている債権と同じように債権の弁済が確保されているとみることができます。そこで、このような機能を相殺の担保的機能といいます。相殺制度がこのような担保的機能を果たしうるのは、一つには、相殺が一方当事者の一方的な意思表示によってなされるからであることはいうまでもありません。そして、当事者の一方が破産した場合にも、あるいは一方の債務が消滅時効にかかった場合にも、相手方は相殺することができます。また、当事者の一方が債権を第三者に譲渡した場合にも、相手方は相殺をすることができます。このような場合に、譲受人が相殺されることを知らなかったかった場合には、不測の損害を被ることが有り得ます。他の多くの担保物権と異なり相殺が公示されていないことがその原因ですが、相手方の有していた相殺の期待を保護すべきであり、やむを得ません。しかし場合によっては相殺が制限されることが有り得ます。例えば破産法は、破綻に瀕した者に対して債務を負っているいる者が、ほとんど価値のない債権を買い集め、相殺をすることを認めていませんがこのような場合にまで相殺を認めるのは公平でないためです。
相殺するためには次のような要件をみたしていなければなりません。そして、これらの要件がみたされていて相殺できる状態を相殺適状といいます。
両債権が対立していること。つまり相殺する者とその相手方がそれぞれ相手方に対して債権を有していることを必要とします。ただし、これには次のような例外があります。第一に他人の有する債権で相殺できる場合がある。例えば連帯債務者の一人は他の連帯債務者の有している債権で相殺することができる。また、保証人は主たる債務者の債権で相殺することができる。第二に、相殺の相手方以外の者に対する債権で相殺しうる場合がある。例えば前述のように、相殺適状にある債権が第三者に譲渡された場合には、その債務者は譲受人に対して、その債権と譲渡人に対する債権とを相殺でき、また一定の場合には、相殺が禁止されることがあります。自働債権と受働債権の履行地が異なる場合であっても、相殺は可能です。両債権が同種の目的を有すること。現実の弁済による場合と実質的に同一の効果を生じさせるためには、両方の債権が同種の目的を有することが必要です。したがって、種類債権、特に金銭債権について相殺が行なわれるのが通常の場合です。両債権が弁済期にあること。相殺は弁済と同様の効果を生じるものであり、弁済期前に相殺を認めると期限の利益を失わせることとなるために相殺するためには両債権が弁済期にあることが必要であるとしています。期限の定めのない場合には、いつでも相殺できると解されています。期限の定めのある場合には、原則として、相殺することができませんが、期限を到来させることができるならば、相殺することができます。自働債権については、相殺をする者が相手方の期限の利益を喪失させれば、期限が到来することとなります。一般的には、相手方が破産した場合などには期限の利益を失いますがさらに、近時の銀行取引などでは期限の利益喪失約款のついているのが通例です。その場合には約款所定の事由が発生すれば、相手方は期根の利益を失います。受働債権については、期限が未到来であっても、期限の利益を相殺する者が放棄できる場合には相殺できます。債務の性質が相殺を許さないものでないこと。性質上相殺が許されないというのは、現実に債務が履行されなければ、意味を持たないものです。例えば為す債務、不作為債務がその例です。
相殺の禁止される場合。第一に当事者が相殺禁止の意思表示をした場合には、相殺はできません。ただし、その意思表示は善意の第三者に対抗できません。第二に次のような債権が受働債権となる場合には、相殺が禁止されます。例えば不法行為による損害賠償請求権、差押を禁止された債権、株式払込請求権、差し押えられた受働債権などです。また、民法上規定はありませんが、相殺する者がその自働債権を自由に処分できない場合にも、相殺ができないと考えられていますが、相殺は実質的には処分と同様の効果を有するものであるために、このことは当然のことです。

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