占有物件による回収

債権者が、債務者の所有物を占有している状態にあるとき、その債務者が債務の履行を遅滞すれば、債権者としてはその占有物を留置することにより、債務者からの弁済を促すとともに、どうしても弁済しないような場合には、その占有物から回収を図ろうとするのは当然のことです。このような権利を法律で、当然発生する権利として認めたのが、商事の留置権、民事の留置権、旅店、運送人の先取特権等であり、特約で一般的に約定した例としてあるのが、銀行取引約定書における、とめ置権ということになります。これは一般的な取引における権利であり、そのほか各種の取引においては、法律によりまたは当事者の契約により、これ以外の権利の認められることはいうまでもありません。

スポンサーリンク

お金を借りる!

商事留置権とは債務者の物を占有していることによって認められる担保権で、最も典型的なものが商事留置権であるといえます。この権利は、それが当事者の意思表示によって成立するものでなく、一定の状態にある債権者のために特に認められた担保権であるところから、民事の留置権と共に法定担保物権の一つですが、その権利の成立するための要件としては次のことが必要であるとされています。
被担保債権、商事留置権を行使する債権者の債権は、まず商人間の債権であること、双方のために商行為となる取引によって生じたものであること、自己の債権が弁済期にあることの三つがその要件となります。しかし、その債権と留置する目的物との間に直接の関係は必要ではありません。その目的物について発生した債権でなければ、商事留置権が成立しないということではありません。そこで、銀行が貸出先の会社から預っていた代金取立のための手形があったとすると、その貸出先が借金の返済を滞ると、商事留置権が認められることになります。それは、銀行も会社も双方共商人であり、貸金は銀行のためにも貸出先のためにも商行為に該当するからであり、しかもその貸金の返済が滞っているということは、銀行の方の債権が弁済期にあるということになるからです。その債権は必ずしも留置する目的物である手形について発生したものであることが必要ではありません。
商事留置権を行使することの認められている物は、まず債務者所有であること、不動産、有体動産か有価証券であること、債務者との間の商行為によって占有が開始したことの三つがその要件となります。そこで、前記の代金取立手形の例によれば、それが貸出先から預ったものである以上、その手形は貸出先である債務者のものであるといえます。同じ貸出先から預っても、その所有権が第三者にあるときは、その権利が認められません。また、その預ったものが取立のための手形であるから有価証券であり、目的物として適格であり、そのほか商品や機械などを占有していたり、不動産を占有していてもかまいません。次に占有開始の事情ですが、それが非営業的な偶然の占有取得でなく、商行為としての行為で占有取得したものでなげればその権利が認められます。この商事留置権も、発生要件が異なるだけで民事の留置権と異なる効力が認められている訳ではないために、結果的には単に被担保債権の弁済を受けるまで目的物の返還を拒否する権限が認められることと、利益を収取し、それに優先弁済権が認められるにすぎません。ただし、競売法では競売権が認められていますが、その場合でも優先弁済権は認められていません。
しかし、この権利は競売や公売になってもその権利が失われず、しかも所有権者が法的整理に入ると、その権利が特別の先取特権とみなされ優先弁済権が認められると共に、別除権または更生担保権として特別有利な権利が認められる極めて強い権利となります。
民事留置権は、金銭の消費貸借取引において成立する場合は少ないのですが、民法は前述の商事留置権以外の場合にも、特別の場合にかぎり債権者に留置する権利を認めています。民法で認めている留置権と、商事の留置権との相違点は、商人間の債権であること、双方のために商行為となる取引によって生じた債権であること、という制限はないのですが、その債権が留置する目的物に関して生じた債権でなければならないという制限があることです。前述の代金取立の手形の例でいうと、それが銀行であったり、預けたのが会社であることも必要ではありませんが、貸出金の履行遅滞では駄目であって、この民事の留置権が認められるのは取立手数料、費用の履行遅滞が生じていることが必要なのです。
次にその目的物についても、商事留置権の場合と異なり、債務者の所有物であるという制限は受けませんが、不動産か有体動産であることが必要で、有価証券は認められていません。しかも、その効力としても、所有者が法的整理に入っても、商事留置権の場合と異なり、優先弁済権はもちろん別除権、更生担保権として認められる権利も生じない点が特に注意を要します。債権者が占有する債務者の物について、法定担保権の認められる場合に、旅店宿泊の場合の宿泊料、飲食料について認められる手荷物に対する先取特権と、運輸の場合の運送賃その他の費用について認められる荷物に対する先取特権がありますが、これらの権利も金銭の消費貸借について生じることはないものといえます。
銀行取引においては、前記法定担保権のみにては十分な権利保全が図れないとして、一般には銀行取引約定書において、この債務者の物による回収資源の確保を図るための約定をしています。その一つは、目的物について商事留置権の成立する条件を備えているような物件について、契約による、とめ置権を認め、それに処分権を認めたものと、他の一つは割引手形の買戻請求権を預金などと差引計算した場合におけるとめ置権と処分権を認めたものです。このとめ置権のうち、後者の場合はそれが相殺により回収した割引手形について成立するものであり、特殊の場合に成立するもので別として、一般に利用できるのが前者のとめ置権ということができます。
このとめ置権の成立する場合は大体商事留置権と同じような場合ですが、商事留置権が法定担保権であるのに対して、このとめ置権は当事者の特約により成立する権利であることにおいて根本的な相違があります。そこでこのとめ置権は、契約の効力として貸出先と銀行との間の債権的拘束力しかもたない権利ということが出来ます。
法定の留置権との効力の比較としては、それが債務者からの返還請求に対じて返還の拒否できる点は同じですが、果実の収取と優先弁済権、また競売権もなく、しかも法的整理に入っても、この権利によっては商事留置権のような保護は受けられません。しかし、このとめ置権には、特約によりとめ置いた物件に対する取立、処分権の付与を受けているところが、法定の留置権との大きな相違点といえます。その意味からすれば、このとめ置権は、貸出先と銀行間における銀行占有物についての取立委任と、換価処分の委任契約に基づく権利といえます。同現定ではその取立、換価金について債権への充当も認めていますが、これは一種の相殺予約または弁済予約ということで、特別の権利関係の発生と見る必要はありません。このとめ置権の成立要件としては、その目的物については民事留置権のような債権との間の関連は必要としていないので、商事留置権に近い権利といえます。その被担保債権については、必ずしも商人間である必要なく、商取引に基づく債権である必要もないために、商事留置権の場合より広く利用、適用されることになります。

お金を借りる!

延滞債権の督促/ 弁済者の確認/ 弁済の提供/ 弁済に伴う手続/ 弁済の充当/ 弁済者と弁済受領者の充当契約/ 期限前弁済/ 占有物件による回収/ 自力執行による債権回収/ 相殺の担保的機能/ 相殺の方法/ 相殺の効果/ 手形債権での相殺/ 手形買戻請求権での相殺/ 事前求償権による相殺/ 債務者からの相殺/ 相殺権の濫用/ 同行相殺/ 払戻充当/ 預金に対する質権設定/ 差押と相殺/