期限前弁済

貸金債権について、その債務者から期限前に任意に弁済したい旨の申出があることがよくあります。そのような場合に、金融引締時であればいうまでもなく、たとえその緩和期にあっても、銀行はよろこんでその弁済を受領します。しかし、それは単に事実上の間題であって、そこには、そのような申出があった場合に、法的に債権者としてその申出を拒否できるかということと、その申出を承諾して受領した場合の効果、その申出を拒否した場合の効果が間題になるのです。

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債権の弁済については、その弁済期にある債権の弁済についても、それを受領するか否かは債権者の自由であって別に義務というものではないとする説と、むしろ受領すべき義務があるのだとする説と対立しています。義務と見ない説では、それはただ、是れ権利の不行使にして、受領遅滞の責を負うも債務の不履行にあらず、といっているのに対し、それも債権者の義務であるとする説では、債権者の受領遅滞が民法上債務不履行の規定の中にあることと、本来、債権債務は両当事者の信頼の上に立つ一種の協同体を構成するものであり、その内容の実現も両当事者の協力によらなければ完成できないものであるために、むしろ信義則上も当然債権者の義務とみるぺきだとしています。その点判例はむしろ消極説のようですが弁済期にあってさえ、それを受領することが義務でないとすれば、期限前においてもその申出を拒否できるのは当然です。
期限前に債務者から任意に弁済の申出があった場合には、これは債務者が自己のもつ期限の利益を放棄して、そのうえで弁済の申出をしたものといえます。民法では、期限は債務者の利益の為めに定めたるものと推定す。期限の利益は之を放棄することを得、と規定していることによるものです。ただし、たとえ債務者がもつ期限の利益を自ら放棄した場合でも、之か為めに相手方の利益を害することを得ず、と規定されているために、債権者はそのために何か不利益を受けることになれば、その賠償をしないと、いくら期限の利益は債務者にあっても、その放棄は認められないことになるのです。
金銭債権の場合に、債権者が期限の定めがあることによって受けることのできる利益は、一応満期日までの利息債権です。その場合でも、満期前に弁済があったために、その後の利息が発生しないのは当然であり、それはそれによる不利益とはいえないという考え方もありますが、判例ではこれを認めています。そのために、債務者が期限前に弁済を申し出て、債権者がその申出を承諾した場合には、債権者はその時の債権元本の残高のほか、それまでの弁済期の到来している利息債権についてはもちろん、期間未経過の利息についても、その弁済を請求することが可能になります。ただ弁済期未到来の利息分についての弁済がなければ、弁済充当の順序から、本来はその分の元本の一部の弁済がなかったことになりますが、合意により利息のみ未収とする充当も可能です。なお、期限前弁済により、その満期日までの利息が、借入期間と対比することにより、利息の割合が臨時金利調整法または利息制限法に接触することも考えられます。
債務者からの弁済の申出があったものに対し、債権者がその受領を拒否した場合には、弁済がなされていないかぎり、弁済の効力の生じないのは当然です。しかし、そのように弁済の申出があったのに、それを受領しなかった場合、債務者の保護も十分考える必要があります。それが債権者の受領遅滞の効果ということになります。ただ、その弁済が期限前の申出であったとき、それを拒否してもやはり、受領遅滞になるかが問題となります。
受領遅滞が成立するための要件としては次の事項をそなえていることが必要であるとされています。
弁済受領に債権者の協力が必要な債権であること。この点は金銭債権の弁済であれば、原則としてそれに該当するものといえます。
債務の本旨に従った履行の提供があったこと。
給付が可能であること。
債務が履行をなしうべき時期にあること。
本件で特に問題になるのは、この時期の点です。特に弁済期の到来前である場合には、その期限が債権者の利益のために定めたものである場合にはいくら債務者でも期限の利益を持たないので、放棄することがでぎず、債権者がその受領を拒否しても、受領遅滞にならないのは当然です。そこで、金銭債権についての期限の利益は一般的にいずれにあるかといえば、これは債務者にあるものといえます。受領遅滞が成立するとなると、当然その効果として、満期日後の損害金請求権が発生せず、供託により債務の免責を主張する権利など、一般の受領遅滞の間題と同一の効果が生じることは当然です。

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