弁済者と弁済受領者の充当契約

民法四八八条、及び民法四九一条の弁済充当に関する規定は、任意規定です。したがって、弁済者と弁済受領者は、事前に両者間に存する数個の債務の弁済の充当方法について契約を締結することができます。また、充当契約による充当方法には制限がないために、全債務についての充当順序の決定、充当すべき債務の選定、各債務に対する配分的充当の決定などのいずれであっても差支えなく、当事者間で自由に決められるのです。

スポンサーリンク

お金を借りる!

銀行とその貸付先との取引関係は、銀行と貸付先との契約によって定まるものですが、銀行は多数の取引を迅速かつ安全に処理するため、銀行があらかしめ定型的な取引方法を定めた取引約定書を制定しておき、貸付先の同意のもとに、これを貸付取引に適用しているのです。これが銀行取引約定書です。
銀行取引約定書第九条は、銀行から貸付先に対する債権が数口あったり、または、元金と利息があるときに、貸付先からの弁済の金額がその一部にしかあたらない場合には、民法の弁済充当に関する規定にかかわらず、銀行が適当と認める順序と方法によって充当することができる旨を定めています。つまり条文では、銀行の取引上の便宜を考慮して、充当順序の決定を銀行側に一任しているのです。
貸付先が銀行にその債務を弁済するにあたり、充当すべき債務を指定した場合、銀行はその指定を無視し、銀行取引約定書第九条によって銀行が適当と認める独自の充当をなしうるであろうかという問題では、少数説においては、充当契約によって当車者間の充当指定権は排除あるいは放棄されているものと解しています。したがって、少数説によれば、貸付先が弁済時に充当すぺき債務を指定した場合でも、銀行は約定書九条により、貸付先の充当の指定を無視して銀行が適当と考える順序と方法によって充当することができることになります。しかし、通説では弁済行為は債務者自身の行為であり、また、弁済の結果につき、もっとも利害を感じる者は債権者ではなく債務者であることから、充当契約は特段の事情がないかぎり、債務者の充当指定権まで排除するものではなく、単に、債務者に対して、その契約の定めるところに従って充当すべき債務を負担せしめるにすぎないと解しています。したがって、当事者間にあらかじめ弁済充当の方法についての契約があった場合でも、債務者はなお充当指定権を有するために、弁済にあたって、これに反する充当の指定をなすことができるのです。もっとも、この指定は債務者の充当契約違反、つまり債務不履行であるために、債権者は弁済の受領を拒絶しても受領遅滞の責を負わされず、また損害があれば、その賠債を請求することもできることとなります。
さらに、通説では債務者が特定の債務に弁済することを指定して弁済した場合、債権者がこれを受領すれば、債務者の指定した債務が消滅するものと解しています。そして、債権者がこれを受領するかぎり、受領にあたって充当契約違反を理由として債務者の指定充当に対し異議を述ぺることもできないとしています。それは債務者のなした弁済の提供は、充当契約の定めによるものではなく、民法四八八条一項の指定によった充当をすることになるのですが、同項には同条二項と異なり、債権者に異議権を認めた但書がないのみならず、さらに、弁済行為の性質上、債権者に異議権を認める合理的根拠もないことを理由としています。したがって、銀行は貸付先のなした指定充当の効力を否定することはできず、その結果、貸付先の指定した充当の順序に同意できないときは、約定書九条により、その弁済の提供を拒否できますが、これを受領するかぎり貸付先の指定したとおりの順序に従って充当しなければなりません。つまり銀行は、貸付先が特定の債務を指定して弁済してきた場合に、それを無視して、約定書九条に従って銀行が適当と認める独自の充当をすることはできないということになります。

お金を借りる!

延滞債権の督促/ 弁済者の確認/ 弁済の提供/ 弁済に伴う手続/ 弁済の充当/ 弁済者と弁済受領者の充当契約/ 期限前弁済/ 占有物件による回収/ 自力執行による債権回収/ 相殺の担保的機能/ 相殺の方法/ 相殺の効果/ 手形債権での相殺/ 手形買戻請求権での相殺/ 事前求償権による相殺/ 債務者からの相殺/ 相殺権の濫用/ 同行相殺/ 払戻充当/ 預金に対する質権設定/ 差押と相殺/