弁済に伴う手続

弁済によって債権は消滅しますが、弁済の証拠がなければ、後日紛争が生じた場合に債務者は債権者から再度の請求を受ける恐れがあり、また、弁済者が求償権の行使をするのに不便です。そこで民法では弁済者のために、受取証書交付請求権と債権証書返還請求権とを認めています。
受取証書とは、弁済受領の事実を証明する文書であって、その形式に制限はありません。しかし通説では受取証書は弁済の証明のためのものであるために、その書面には受領文言、受領年月日、債権者及び債務者の氏名は最小限記載しなければならないと解しています。
弁済者は、弁済受領者に対して受取証書の交付を請求することができます。
民法の条文上からは、弁済と受取証書の交付とが同時履行の関係にたつかということは明確ではありません。しかし、弁済者は弁済後にしか受取証書の交付を請求できないものとすれば、弁済の事実はすでに過去のことであるために、それを後になって証明することは困難になります。そこで、通説では弁済と受取証書の交付とはなんら対価関係にはありませんが、公平の見地から両者は同時履行の関係にたつと解しています。判例でも金銭を持参したが、債権者が受取証書を交付しないので金銭を渡さなかったときは債務不履行にならないとして通説と同じ立場をとっています。

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弁済と担保消滅手続との関係は、弁済と受取証書の交付との関係と異なり、対価的意味を持つといえますが、理論上の原則からいえば、債務の弁済がなされた後でなければ登記の抹消も、担保物の返還も請求できないといわなければなりません。判例では、抵当権登記抹消、売渡担保の返還につき、それぞれ弁済と同時履行の関係にたつことを否定しています。通説でも、抵当権や不動産質権の登記抹消手続と弁済とは同時履行の関係にたたないと解しています。なぜなら、両者が同時履行の関係にあるとすれば、債権者は弁済を受ける前に登記抹消手続に着手しなければならず、その負担が過重になり、かつ、弁済が遅延して迅速な契約目的の達成が害される恐れがあるからであるとしています。さらに付随的には、弁済後に登記名義が残存したとしても、それは民法上は無効であるために、債務者に酷な結果とはならず、また債務者の保護は弁済と引換に受取証書を取得しうることで一応の満足が得られることを理由としています。しかし通説は留置権や動産質の場合には、弁済と物件返還とは同時履行の関係にたつと解しています。なぜなら、これらの場合には占有のみを内容としており、弁済との引換的返還は債権者になんらの負担をかけるものではなく、さらに債務者からみて、担保物が第三者に善意取得されるのを防止するためにも引換的返還をさせることが公平であることを理由としています。
債権証書とは、債権の成立を証明する文書であり、その形式について制限がないのは受取証書の場合と同様です。債権証書は、債務者が作成して債権者に交付するものであって、その所有権は債権者にありますが、債権者はその債権の処分とともに証書を取引の目的に供しうるにすぎず、債権と別個に証書自体を動産として取引の目的とすることはできません。
債権証書がある場合、弁済者は全部の弁済をしたことを条件としてその証書の返還を請求することができます。通説では、弁済と借用証書の近還請求は同時履行の関係にたたないと解しています。民法四八七条では、全部の弁済を為したるときは、と規定し、完全な弁済が先になされるのを前提としていること、受取証言の交付さえ同時履行の関係におけば、債務者は一応保護されること、同時履行の関係を認めると債権証書を紛失した場合に、債権者は改めて証書の交付を受けないかぎり、債務の履行を永久に請求できなくなることなどを理由としています。
最高裁の判例はみあたりませんが、東京地裁の判決も、証書を返還することが不可能な場合には、債権者は自己の権利を立証すれば支払を請求することができるとして通説と同じ立場をとっています。
債権証書には、前述の借用証書のように指名債権に関するものもありますが、手形、小切手、貨物引換証のような指図債権に関するものもあります。判例では、貸金債務の支払確保のため、手形、小切手が交付された場合、特別な事情のないかぎり償務者は、手形、小切手の返還と弁済との同時履行を主張できるとしています。
学説でも一般に判例を肯定しており、なぜなら、引換履行でなければ、債務者は原因債務の弁済後、善意の手形所持人から再度請求される恐れがあり、また、手形上の債務者に対する遡求権を行使しえなくなるとの理由からです。

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