弁済の提供

弁済には、債務者が単独で給付を完了できるものもありますが、多くの場合債権者の受領を必要とします。例えば労務者の労務提供の債務や買主の代金支払の債務などの弁済は、債権者が給付を受領することによって完了し、債務消滅の効果が発生します。しかし債権者の協力がなければ弁済が完了しない場合においては、債務者は給付の完了に必要な一切の準備をして債権者の協力を促すべきです。これを弁済の提供といいます。

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弁済の提供は、債務の本旨に従ってなすことを要します。本旨に従わない提供の場合には、債務者は債務不履行の責任を免れることはできず、また債権者はこれに協力しなくとも債権者遅滞の責任を負わされることはありません。そして、弁済の提供が本旨に従ったものであるか否かは、債務者の提供と債権者の受領との相関関係で間題とされるものであるために、一般取引慣行と信義則とに基づいて判断されることになります。
弁済の提供の法律上の性質については、弁済についてと同様、法律行為かあるいは準法律行為かにつき争いがあります。判例は、債務者が債務の本旨に従った履行をなせば債務は当然消滅するものであって、債務者がその履行によって債務を消滅させる意思を特に表示する必要はないとして準法律行為と解しています。通説でも、提供によって生じる法律効果は、提供者の効果意思に基づいて生じるものではないので、法律行為ではなく、債権者の協力を要請する一つの意思通知であるために、弁済の提供は準法律行為であると解しています。
民法では、弁済の提供の程度と方法についての一般的基準として、現実の提供と口頭の提供との二種類を認めています。つまり債務者は、原則として現実の提供をなすぺきですが、債務者があらかじめ受額を拒み、または債務の履行につき債権者の行為を要するときは、口頭の提供で足りると規定されています。
債務者において、債権者の協力を待たずに給付の主要な部分をなしうる場合における債務者のなすべき弁済準備行為を現実の提供といいます。現実の提供であるためには、債務者は債権者が給付を受領する以外に何らなさなくてもよい程度に提供することが必要です。その程度は、取引慣行と信義則に従って判断されることになりますが、例えば金銭支払のために債権者の住所に持参したが不在のため呈示できなかった場合は、現実の提供があったものとされています。
弁済の提供は原則として現実の提供であることを要しますが、債権者があらかじめその受領を拒み、または債務の履行のために債権者の行為を要するときは、例外として口頭の提供で足りるとされています。ロ頭の提供とは、現実の提供をなすために必要な準備を完了して債権者にその受領を催告することであって、給付の主要な部分を完成するために債権者に協力を求めるべき場合における債務者のなすべき弁済準備行為です。その準備の程度は、現実の提供の場合と同様、取引慣行と信義則に従って判断されるべきです。また、債権者の行為を要するときとは、債権者が債務者の住所に来て給付を受領しなければならない取立債務、債権者の指定する場所または期日において履行しなければならない債務などを含むものです。
債務者は、弁済提供の時から債務不履行によって生じるべき一切の責任を免れます。つまり債務者は提供の時から債務不履行を理由とする損害賠償、遅延利息、違約金の請求を受けず、強制執行や担保権の実行をされることもありません。さらに、債務者は供託をなし得、約定利息の発生は停止します。この他、債権者が遅滞に陥るので債務者の注意義務は軽滅され、増加費用は債権者が負担し、危検は債権者に移転します。また、双務契約にあっては同時履行の抗弁権を失わせます。
判例では債権者が弁済の提供に応じないことは債権者遅滞になるとして、提供の効果と債権者遅滞の効果とを同視しています。通説では判例を肯定していますが、有力説はこの両者を区別し、債権者に受領義務を認めて、過失によって受領しないことを債権者における債務不履行としてとらえ、この場合が債権者遅滞であるとしています。判例、通説と有力説との差異は、債権者に受領義務を認めて債権者遅滞を債務不履行とみるか否かにあるのです。
金銭債務の弁済は通貨をもってなすべきであるために、通貨以外の物または権利の引渡は当然には弁済の提供とはなりません。しかし、通貨で弁済するのと同視できるような場合、つまり通貨との交換が確実な場合には、信義則上、本旨に従った弁済と解されます。判例では、郵便為替、振出時金払出証書につき、これらは一般取引上現金と同一の作用をなすべきも のとして、その送付によってなした提供は適法な提供であるとしており、学説上も異論のないところです。
小切手は一般取引上金銭支払の手段として広く利用されている証券ですが、貸金債務のために同額の小切手を持参した場合、それが現実の提供として金銭自体の提供と同視できるものであるかは、一般では単なる個人振出の小切手は、資金関係の如何によって支払の確実性が異なり、常に支払が確実であるとは限りません。また一般取引上も不渡小切手の現存する事実から、郵便為替のように現金と同視されるほどの高度の信頼をもって授受されていないのです。
判例では金銭債務を負担する者が弁済のため同額の小切手を提供しても、銀行の自己宛小切手または銀行の支払保証のある小切手等支払の確実なものでないときは、特別の意思表示または慣習がないかぎり、債務の本旨に従ったものとはいえないとしており、通説も判例を肯定しています。しかし、単なる個人振出の小切手でも、信用の高度化につれて、取引慣行上有効な弁済の提供となり得る余地もある場合があります。
小切手の支払の確実性については、単なる個人振出小切手と信用ある銀行振出小切手または銀行の支払保証付小切手との間に明白な差異があります。前者については、資金関係のいかんによって支払の確実性が異なるのに反し、後者については、その支払が確実であることから、一般取引上現金と同視される程の高度の信頼をもって授受されているのです。つまり、一般取引上、この両者は区別して取り扱われているのです。判例では、従来、単なる個人振出小切手と銀行取組小切手との区別を必ずしも明らかにせず、いずれの小切手による提供の場合でも特別の意思表示または慣習がない限り有効な弁済の提供にはならないとしていたのです。しかし、最高裁では、前記昭和35年11月22日の判決ではじめて両者の区別を明確にしたのでした。その後、最高裁は、金銭債務の弁済のため、取引界において通常現金と同様に取り扱われている銀行の自己宛小切手あるいは銀行の支払保証のある小切手を提供したときは、待段の事情のない限り債務の本旨に徒った弁済の提供があったものと認めるべきであると判示し、銀行取組小切手の提供は適法な弁済の提供になることを正面から認めたのです。学説でも、一般に判例の立場を肯定し、銀行取組の小切手による弁済は現実の提供になるという慣習があるものと解しているのです。しかし、あえて慣習を認定するまでもなく、かかる支払の確実なものは、信義則上金銭の提供と何一視して、債務の本旨に従った提供にあたると解すべきだとする有力説があります。

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