追加担保

債権者は、債務者に対して債権を有するということのみを理由としては、担保提供を請求することができません。たとえ債務者の業績が著しく不良となり、資産状態が甚だしく悪化しても、それだけでは債権者が担保差入請求権を有することにはなりません。債務者に担保差入義務が生じるのは、法に規定があるか、当事者間に特約がある場合にかぎられます。
しかし金銭の貸借に関連して法律の規定により債務者に担保差入義務が生じる場合は、ほとんどないようです。強いてあげれば、民法六五○条一項の規定が適用される場合です。本案は、受任者が委任事務を処理するに必要と認めるべき債務を負担したときは、相当の担保を提供させることができる旨を定めています。それで、債務者の委託を受けて保証をする者は、反対の特約がないかぎり、債務者に対して担保を提供することを要求できます。

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債権者が債務者に対して担保差入請求権を有するのは、通常は特にその旨の約定がある場合にかぎられます。この種の特約の例としては銀行取引約定書四条一項があり、銀行は、この特約により、取引先に対して事情の変更を理由とし担保の差入を請求する権利を有します。
銀行取引約定書は、全国の銀行が加盟している全国銀行協会連合会が作成したもので、銀行以外の金融機関もほとんど例外なく採用して、継続的に融資をする取引先との取引には、その諸規定を適用することにしています。その四条一項は債権保全のため必要と認められるときは、請求によって、直ちに貴行の承認する担保もしくは増担保を差し入れ、または保証人をたてもしくはこれを追加いたしますと定めています。したがって、この規定による担保差入請求権が発生するには、まず銀行の取引先に対する意思表示が必要です。この意思表示ができるのは、担保の差入が債権保全のため必要と認められるときになります。必要かどうかは、客観的な基準によるべきであって、銀行の単なる主観的判断によるべきものではありません。銀行がこの規定により担保差入請求をするには、本約定書差入後または担保差入後に取引先の資力、保証人の資力、担保物の価格等に変化があり、債権回収の確実性が滅少したことを要します。
銀行は、本規定により、取引先に対して人的担保、物的担保を請求することができます。銀行の請求に応じて取引先が提供する人的担保、物的担保は、担保としての適格性を有するものでなければなりません。適格性を欠くものを提供しても、取引先は、義務を履行したことにはなりません。
融資額が従来よりも増加することは、本規定による担保差入請求権の発生理由とはならないと解されています。もし取引先が担保差入請求に応しないときは、銀行は貸増しをしなければ済むからです。このような一般的な特約の有無に関係なく、担保差入請求権は、担保の目的となるものをある程度特定した個別の特約に基づいて発生することが多く、このような特約がなされる例としては、次のようなものがあります。
記名株式の担保取得にあたっては、将来の増資新株を追加担保として請求次第提供することを約させる。
更地を担保にとる場合にには、将来地上に建築する建物を追加担保として提供することを約させることが多い。
工場財団その他の財団を担保にとる場合には、財団に追加できるものを生じたときは、債権者の指示に従って担保に追加することを約させる。
この種の特約をした場合には、追加担保の提供が客観的には不要な場合でも、債務者は提供義務を逃れられません。しかし、不要の場合には債権者は担保差入請求をしないことが多くなっています。
債権者が銀行取引約定書四条一項の特約に基づき適法に担保差入請求をしたのに対し債務者が応じないときは、債務者は、民法一三七条の規定により、期限の利益を失い、また、割り引いてもらった手形については、銀行からの意思表示によって満期前でも買い戻さなければならなくなります。しかし、この特約に基づいて、銀行が債務者の財産のうち適当なものを選択し、一方的意思表示によって担保権を成立させること、たとえば取引先の所有する不動産のうち適当なものを指示して担保に提供することを請求し、取引先が応じないときは、仮登記仮処分命令によって担保権の順位を保全することは、一般にできないと解されています。
これに対して、当事者が担保の目的となるものと担保権の種類をある程度特定して、将来担保権を設定する合意をしている場合には、債権者が一方的な意思表示により担保権を成立させることができます。有価証券担保のように、証券の引渡を受けなければ質にとっても効力を生ぜす、譲渡担保にとっても実効のないものは、債権者の独力で担保取得の目的を達することが実際には非常に困難です。また工場財団その他の財団に増設物件を組み入れることにも、債務者の協力を得られないときは、多くの支障があることが考えられます。その点では、合意のみで担保権設定の効力が生じ、仮登記でその順位を保全できる不動産の抵当取得が、このような契約をするのに最も適当なものといえます。
着工していない建物、工事中で独立の不動産とは認められない建物につき、工事が完成したら抵当権の効力が生じることとして、条件付抵当権設定契約を締結できるかどうかについては、見解が分かれています。これを否定する理由はないと考えられますが、債務者に担保差入義務を負担させる債権契約をすることで、十分に担保取得の目的を達することができるために、無理に条件付抵当権設定契約を締結する必要はありません。

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