手形割引の時効と買戻請求権

商業手形の割引が、銀行取引に関するかぎり、手形の売買であることは、判例学説が一致して認めるところです。しかし手形割引の当事者の間に手形割引のつど手形金額に相当する借入金を負担する旨の合意があり、割引の対象となる手形が主として弱小業者の発行する信用度の低いもので、割引依頼人の信用度に重点をおいて取引をする場合については、手形割引の原因関係を消費貸借とみる判例があります。また、利息制限法の適用を免かれるために手形割引の形式を仮装したものと認定し、貸金業者が行なった手形割引を消費貸借とみた下級審判例もあります。

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手形割引の原因関係が手形の売買である場合には、割引依頼人たる手形の売主が、買主に対して手形債務も売主としての担保責任も負わないこともあります。しかし、銀行は、割引手形が不渡となった場合はもちろんのこと、割引手形の主たる支払義務者の信用状態が悪化した場合には、割引依頼人に手形を買い戻させることにしています。この買戻請求権の法律上の性質については、見解が対立していますが、原因関係である手形の売買から生じた権利であるという点では、判例通説とも一致しています。したがって、手形割引をした銀行が、割引依頼人に対して有する手形債権は、裏書人に対する権利であるために、その時効期間は一年であり、買戻請求権は、手形の売買関係に基づいて発生した債権であるとみても、貸金債権であるとみても、時効期間は5年になります。しかし債権者が非商人の場合は、原則として10年ですが割引依頼人が商人で営業のために割引を受けたときは、5年になります。その他の手形債務者に対する時効期間は、手形の主たる支払義務者およびその保証人については3年、その他の遡求義務者およびその保証人については1年です。
手形の割引人が、不渡となった手形の回収を怠っているときは、手形の遡求義務者に対する請求権が、まず時効消滅し、次に手形の主たる支払義務者に対する請求権も時効消滅します。手形の主たる支払義務者に対する請求権が時効消滅したときは、裏書人その他の遡求義務者が手形を受け戻しても、手形の主たる支払義務者に対して権利を主張することができないため、たとえ割引依頼人その他の遡求義務者に対しては手落ちなく時効中断の手続をとっていたかどうかを問わず、遡求義務者に対しても請求できなくなります。このような状態となっても、割引依頼人に対する買戻の請求権は、通常さらに二か年経過しなければ時効消滅しないために、債権者がその間買戻請求権を行使して割引依頼人に支払を求めることができるかどうかが間題となります。
銀行が採用している銀行取引約定書には、取引先は権利保全手続の不備によって手形上の権利が消滅した場合でも、手形面記載の全額の責任を負うと定められています。そこで、手形の主たる支払義務者に対する請求権が時効消滅した場合にも、銀行に故意過失がないかぎり、割引依頼人は、手形買戻義務を免かれないとする説と、銀行は買戻請求権を行使できるが、銀行は手続を怠ったことによる損害を賠償しなければならないとする説とが、この点につき対立しています。大阪高裁昭和39年7月3日判決では、担保手形につき後説をとり、担保手形の所待人たる相互銀行が手形の主債務者に対する手形支払請求権を消滅時効にかけてしまったときは、担保手形の管理注意義務違反として損害賠償義務を負うべきであり、当事者間の特約条項を目して、この損害賠償請求権をあらかじめ放棄する意思表示をしたものと考えることはでぎないとしています。また、大阪高裁昭和41年5月20日判決では、信用金庫が手形呈示期間経過後に割引手形の支払呈示をした事案につき、同旨の見解をとって、割引人は、割引依頼人の前者に対する遡求権を失わせたこと、手形の主債務者に対する満期後呈示の日までの法定利息の請求権を失わせたことによる損害を賠償すべきものとしています。いずれも現行銀行取引約定書一〇条三項と同旨の特約がある場合に関するものですが、このような特約がない場合でも、この見解に従って実務の処理をしてよいと考えられます。
割引依頼人は、手形が不渡となったときは直ちにこれを買い戻す義務を負担している者であるのに、義務を履行しないで放置し、買い戻しても手形債務者が無資力で支払を受ける見込がない場合でも、たまたま割引人が手形の主たる支払義務者や遡求義務者に対する請求権を時効にかけて消滅させたら、一切の債務を免かれると解するのは、いかにも不合理だからです。割引人が、手形の呈示を怠って遡求権を消滅させることは、通常は考えられないことで、呈示を怠った割引人には重大な過失があることになりますが、その場合でも、そのために生じた損害賠償の請求ができさえすれば、割引依頼人の利益保護に欠けることはありません。

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