手形貸付における時効の中断

手形貸付は、貸付にあたり、その証拠および支払確保の手段として、消費貸借契約証書の代わりに手形を用いるものをいいます。債権者が受け取る手形は、通常債務者を振出人とし、債権者を受取人とする約束手形です。その結果手形貸付をした債権者は、債務考に対し貸付金債権と手形債権とをあわせ持つことになります。
この両債権の時効期間は、それぞれ異なります。貸付金債権は、債権者が銀行その他商人であれば、5年であり、信用金庫、信用組合その他非商人であれば、10年です。ただし非商人の貸付でも債務者が商人で営業のために借入をしたときは、5年になります。これに対して手形債権のほうは、約束手形の振出人に対するものであるために、その時効期間は、3年になります。

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債権者が時効の中断の手続をとらないで放置するときは、まず手形債権の時効が完成し、つぎに貸付金債権の時効が完成することになります。手形債権が時効消滅しても、債権者が、貸付金債権を行使できることには変わりはありません。判例は、小切手債権が時効消滅した場合につき、小切手と引換でなしに原因債権の行使ができるとして、間接的にこれを認めます。これに反して、貸金債権のほうが時効消滅したときは、債権者は、原因関係の債権が消滅したことを理由として、手形金の支払を拒むことができます。判例では民法一七三条一号所定の二年の消滅時効にかかる売掛金債権を原因債権とする手形債権につき、これを肯定します。
債権者が手形貸付による二つの債権のうちの一方のみに時効中断の手続をとった場合に、他方の債権についても時効中断の効力を生じるかどうかを諭じた判例学説は、それほど多くはありません。手形債権のみの承認により時効中断した事案に関するものに、横浜地裁昭和35年1月22日決定があり、債権者がその手形上の債務を承認したと認めるべき事実があるときは、特に留保した事情の認められないかぎり、原因関係上の債務も承認したもの解するのを相当とします。本判決に対しては、原因債権における債務者と手形債権者とが同一人である場合には、このように解するのが、当事者の意思に合致するとか、債務者は手形債務の承認をなすにあたって、原因関係上の債務の承認を留保しようと思えばこれをなしうる立場にあるために、判旨のように解しても、特に債務者に酷な結果とはならないことなどを理由として、学説もこれに賛成するものが多くなっています。したがって、承認による時効中断に関するかぎり、いずれか一方の債権の時効中断の効力は、他方の債権にも及ぶと考えられます。しかし債務者から債務承認書の差入を受けて時効中断をする場合には、本手形債務ならびに本手形による借入金債務を承認するという趣旨を記載したものを差し入れさせるのが、債権者にとっては安全確実なやり方です。
これに対して、差押または仮差押によって一方の債権の時効中断をした場合については、判例では他方の債権へ時効中断の効力が及ぶことを否定します。大阪高裁昭和45年2月25日判決では、約束手形金債権または損害金債権を申立債権とする任意競売手続は申立債権についてのみ民法一四七条二号の差押として時効中断の効力を生じますが、原因債権たる売掛金債権または損害金発生の基礎となる元本債権については時効中断の効力を有しないとしています。また、東京地裁昭和46年11月27日判決は、約束手形債権を被保全権利として仮差押をしても、原因債権たる貸金債権の時効は中断しないとしています。本判決は、その理由として、手形債権と貸金債権とは別個の権利であり、時効期間も別異に定められており、手形債権の行使には貸金債権の主張を要しないものであることをあげています。これらの判例によると、債権者がいずれか一方の債権で差押または仮差押をするときは、できるだけ原因債権で申し立て、原因債権を時効消滅させることがないようにしなければなりません。
裁判上の請求による時効中断の効力の及ぶ範囲については、時効中断の根拠として権利行使に重点をおく権利行使説をとる者と、請求権の存在が確定される点に重点をおく請求権確定説をとる者とでは差異があります。後説が判決の既判力の及ばない請求権については中断を認めるべきではないとするのに対し、前説は中断される請求権そのものについての訴えにかぎらず、それを当然の基礎とするものにも拡張すべきであるとしています。しかし、後説をとる者も、手形債権を請求する訴訟により、原因債権につき時効中断の効力が生じることを積極的に肯定するものは、ないようです。したがって、債権者が裁判上の請求をする場合には、できるだけ両債権をもって権利行使することとし、それが不可能の場合には、原因債権で請求することにすべきです。なお、白地手形による訴訟提起によって手形債権の時効が中断されることを、判例は長い間認めませんでしたが、最高裁昭和45年11月11日大法廷判決によって変更されました。

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