時効の援用

民法一四五条では、時効は当事者が之を援用するに非ざれば、裁判所之に依りて裁判を為すことを得ずと定め、消滅時効の効果を当事者が実際に享受するためには、援用という行為が必要なことを明言しています。
民法は一六七条一項で、債権は10年間之を行わざるに因りて消滅すと定め、この一四五条と一見矛盾したかにみえる規定をおいているので、時効の存在理由をどう考えるかとも呼応して、両案の関係および援用の法的な性質いかんについて様々な議論が展開されているのです。つまり時効の存在理由については一般に、社会秩序の維持、権利不行使に対する罰的考慮、証拠保全の困難性の三つの根拠があげられていますが、そのうち前二者を時効制度の本質的機能と考える立場からみると、時効制度というのは実体上の権利の消滅あるいは取得に関する制度であり、その場合の時効の効力とは実体上の権利の得喪が生じることです。

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この立場は民法一六七条一項と一四五条の関係を論理的に説明する上でさらに時効による権利の消滅は当事者の援用という行為があるまでは確定的に生じず、時効の利益を受けるという当事者の意思表示があってはじめて効果が確定するという立場と権利消滅の効力は期間満了と同時に絶対的に生じ、ただ裁判所がこれに基づく裁判をするためには当事者が訴訟上時効の利益を受ける旨を主張することが必要であるとする立場に区別されます。これに対し時効の存在理由のうち、証拠の困難性に時効制度の主眼点を置く立場では、時効をもっぱら訴訟法上の制度とみて時効は時の経過そのものに法律が人証、書証にまさる強力な証拠価値を与えたもので援用はその法定証拠を裁判所に提出する行為に他ならないと解しています。
判例では時効制度について、援用とは裁判官が裁判をするための要件であり、訴訟法上の攻撃防禦方法であると考えています。したがって援用は訴訟行為であるので裁判上で裁判所に対して主張されなければなりません。仮に裁判外でなされても裁判所はその事実に拘束されません。また援用の時期についても攻撃防禦方法である以上、事実審たる第二審の口頭弁論終結時までに為されなければなりません。なお、援用の撤回は許されます。
時効の援用がないまま裁判が確定した場合、後に別訴で新たに時効を援用することは認められるかどうかでは、判例は援用を認めるものと認めないもの相反する結論を導く二つの系統に分かれています。しかし、援用を訴訟法上の攻撃防禦方法とみる判例の立場からすれば、一且前訴での口頭弁論終結時を基準時として既判力が生じている以上、その基準時以前に主張し得た攻撃防禦方法を後訴で主張し得ないのは訴訟法上の一般原則からみて当然のことであり、別訴での援用は許されないとするのが判例としての一貫した正当な態度す。
時効の援用をなし得る者とは如何なる者であるかは。民法一四五条は当事者がこれを援用するに非ざればと規定するにとどめ、具体的な援用権者の範囲を解釈に委ねてしまっています。前述した援用に対するそれぞれの考え方を援用権者に図式的に演繹すれば、援用権者とは時効によって実体的な権利を取得し義務を免れる者、訴訟上の当事者を示すことになります。そして判例では民法一四五条の当事者とは、時効に因り直接に利益を受くべき者即ち取得時効に因り権利を取得しまたは消滅時効に因り権利の制限若くは義務を免るべき者を指称す。故に時効により間接に利益を受くる者は所謂当事者に非ずとしており、その直接利益を受くべき者として、主たる債務についての保証人、連帯保証人被担保債権についての物上保証人第三取得者をそれぞれあげています。もっとも当事者とは直接的な権利義務の得喪を生じる者の他、その権利または義務に基づいて間接的に権利を取得し、義務を免れる者をも含むと解する立場も有力に主張されているが、いかなる者が援用権者であるかという実際上の適用については、各立場ともその結論をほとんど異にしていません。したがって、保証人は主たる債務について、主たる債務者とは独立に時効の援用をなし得ます。
援用権者と関連して一般債権者がその債務者に代位して他の債権者に対する債務の消滅時効を援用することができるかという間題がありますが、現行の時効制度は時の経過という客観的な事実と同時に当事者の意思をも尊重し、時効の効果の享受を接用という形で当事者にまかせているので、債務者の意思にかかわらず債権者にその権利行使を許している債権者代位権制度と相いれないのではないかとの疑義が生じます。しかし、債務者の意思というも、自己の債務を完済し得ないような無資力の状態に陥っている場合にまで個人の感情尊重を優越させる必要はなく、また、時効制度における意思尊重は、時の経過のみによってはその効果が当然には債務者に及ばないとする程度で、十分にその目的を達していることからみて、債権者の援用を許すと解するのが相当です。判例でも債務者の資力が自己の債権の弁済を受けるについて十分でない事情があるかぎり債権者からの消滅時効の援用を認めています。

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