担保権者に対する詐害行為の成否

詐害行為の目的物が他の債権者の担保権の目的となっている場合は、その担保目的物の価格が被担保債権額を超過する限度でのみ取消権が認められることになります。本来は担保目的物からその被担保債権額について担保権者に優先されるのは当然であり、一般債権者は、詐害行為がない場合でも、超過額の限度で満足を受けうるにすぎないからです。したがって、担保権者は債務者の支払停止後、その債務者から弁済を受領しても、その担保目的物の価格の範囲内では、詐害行為は成立しないことになります。一般債権者に対する担保力に滅少はないというべきで、さらに、金銭に担保力を認めないならば、一般財産の担保力はむしろ増加したと考えることもでき、担保権者がその債務者の反対債権と相殺することも同様に考えられます。

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債務者が担保権者に対し担保目的物を提供してなした代物弁済に関しても、その価格が相当であるかぎり、詐害行為となりません。当該目的物は本来は一般債権者の共同担保となっておらず、目的物の価格が適正に評価され、かつ債権額以内のものであるかぎり、なんら一般債権者を害するところはないからです。
したがって、これが不相当な価格による場合に問題となります。債務者が目的物を価格以下の債務の代物弁済として提供し、その結果債権者の共同担保に不足を生じさせた場合は、詐害行為となることは当然のことです。その場合、詐害行為取消権は債権者の共同担保を保全するため、債務者の一般財産滅少行為を取り消し、これを返還させることを目的とするものであるために、この取消は債務者の詐害行為により滅少された財産の範囲にととまるぺきものと解されていいます。
詐害行為の目的物が他の債権者の担保権を負担しているときは、取消債権者の損害は目的物の価格からその被担保債権額を差し引いた残額のみであるために、取消の範囲もこの残額の範囲に限られることになります。このような一部の取消をする場合に、取消の結果、目的物自体の返還を認めるか、債権額の限度で価格賠償をさせるぺきかが問題となります。
昭和36年7月19日の大法廷判決では、10万円以上の価格のある家屋を8万円の抵当債権の代物弁済としたことが詐害行為となるとするにあたり、その取消は前記家屋の価格から前記抵当債権額を控除した残額の部分にかぎって許されるとし、そして詐害行為の一部取消の場合に、その目的物が本件のように一棟の家屋の代物弁済であって不可分の場合には、債権者は一部取消の限度において、その価格の賠償を請求するほかないとしています。これに対し、補足意見は、多数意見は詐害行為の一部取消に関する従来の判例理論と調和しないとし、詐害行為の取消は債務者の一般財産を原状に回復しようとするものであるために、逸脱財産自体の返還請求を本則として、特別の事情のないかぎり値格賠償は許されないとして、債務者の行為の一部が詐害行為となる場合でも、目的物が不可分のときは全部の取消を認めて原状回復をすべきであるとしています。本件では転得者のみが被告となっているため、受益者の抵当権付債権およびその登記を復活することは不可能であり、また無担保となった本件不動産を債務者に返還させることは原状回復ではないために、結局価格賠償によることになるとしています。もし受益者のみを被告とする場合であれば、抵当権を復活させ現物の返還を認めることになります。
しかし、昭和30年判決の事案は、不可分物である目的物の価格より取消債権者の債権額が少額であるための一部取消であるのに対し、本件では目的物に抵当権があり、債権者はその価額と被担保債権額の範囲内でしか取消しできないために、場合を異にしており、矛盾するものではありません。このような点から判旨の立場を支持する意見もあります。
補足意見を支持する有力説では、原状回復の可能なかぎりはそれを命ずるべきであるとして、例えば他の債権者のために抵当権の設定してある不動産を第三者に抵当権付のままで譲渡したときは、全部取消を認めて抵当権付のままで回復させて支障なしとし、また、抵当不動産を抵当権者自身に代物弁済として譲渡した場合は、その不動産について転得者が生じていないかぎり、代物弁済行為の全部取消を認め、抵当権を復活させて現物の返還請求を命じるべきだとしています。それに対して、転得者に対して請求するときや、第三者に売買すると同時に代金の一部で抵当債権を弁済し、抵当権の登記を抹消した上で、移転登記をした場合には、抵当権のない不動産として回復を許すのは、元来共同担保の目的でなかった部分の回復請求を認めることになって不都合であり、抵当権の回復を認めることも不可能であるために、結局価格賠償を認めるしかないということになります。
担保の目的物が数個の不動産でこれらが共同担保となっている場合にも、判例では一部取消の限度で価格賠償によるぺきであるとしています。それは、原物の返還が法律上不能であるとか、不動産を分割して回復するのが困難であるとか、抵当権の不可分性を理由にしています。これに対して、学説では、不動産の総価格が被担保債権をはるかに上回り、差額が一部の不動産の価格を超えるときは、その額に相当する不動産そのものの回復を認めるべきであるというものもあります。

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