証拠申出の採否

Xは、Yの振り出した約束手形の所持人として、Yに対し手形金二六万一〇〇〇円の支払請求訴訟を提起しました。Yは、手形が偽造によるものであるとの抗弁を記載した答弁書を提出しましたが、被告Yは、数回聞かれた口頭弁論期日に欠席を続け、やがて、ロ頭弁論が終結され、Y敗訴の判決がありました。Yは控訴しましたが、第一回および第二回期日に欠席し、第三回期日になって証人Aの尋問を申請しました。裁判所はこれを採用し、次回期日に取り調べることにしましたが、その期日にもYは欠席し、Aも出頭しませんでした。そこで、裁判所は証拠調べの決定を取り消して結審し、控訴を棄却しました。
Yは上告し、Yの申し出た証人Aは唯一の証拠であるのに、原審がこれを取り調べなかったのは違法であると主張しました。この主張は正当でしょうか。
そして次の場合には、証拠の申出を却下できるでしょうか。
(イ) 証拠調べの費用の予納がないとき。
(ロ) 裁判官が立証事項につき、すでに同一方向の十分な心証をえているとき。
(ハ) 裁判官が立証事項につき、すでに反対方向の十分な心証をえているとき。
(ニ) 尋問を求められた証人が海外に出張し、一年ニカ月先でなければ帰国しないとき。

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当事者の申し出た証拠を取り調べるか否か、また、いつどの程度取り調べるかは裁判所の裁量に属しますが、判例は従来から係争事実についての唯一の証拠を却下することは違法であるとしてきました。その根拠は、事実認定の公正の保障、双方審尋主義の満足です。しかし、学説は唯一か否かは絶対の条件ではなく、その実質が問題であるとし、判例も近時、唯一のものでも取り調べる必要のない場合があることを認めています。したがって、いかなる場合に唯一の証拠でも取り調べないことができるかの検討が必要ですが、設例の場合、Yは第一審以来数回行なわれた口頭弁論期日に一度も出頭したことがなく、自己の申請した証人尋問の行なわれるべき期日にも欠席したのであるから、たとえ証人尋問のため新期日を指定してもYが出頭し証人尋問することは期待し難いので証人Aを取り調べなかったのは許されるでしょう。
証拠中出の採否については裁判所が裁量権を有するのですが、事実認定の適正、公平を保障するため、そこには一定の基準が必要であり、合理的な根拠のないかぎり証拠申出を却下すべきではありません。
(イ) 証拠調べの費用は当事者等が納付すべきものであり、裁判所は、当事者等にその費用の概算額を予納させなければなりません。予納を命じたのにその予納がないときは、裁判所は、当該費用を要する行為を行なわないことができます。設例の場合却下できないとすれば裁判所は違法な証拠調べを強制されることとなるので、却下できるといわなければなりません。(ロ) 立証事項につき、すでに同一方向の十分な心証をえているときは、それ以上の証拠調べは不必要であるから、却下できます。
(ハ) すでに形成された反対方向の心証がくつがえされないであろうとの十分な理由のないかぎり、証拠の申出を却下できないと解すべきでしょう。
(ニ) 証拠調べにつき不定期間の障害あるときは、裁判所は証拠調べをしないことができます。確定期間でも長期の障害がある場合と同様に解することができるかが問題ですが、一年ニカ月先に帰国するのが確実であれば、却下せずにその時期まで待つべきでしょう。

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