時効援用の時期

当行はAに対する賃金債権を請求して訴えを起こし、目下上告審に係属中です。第一審でも第二審でもAは弁済していないにもかかわらず、と弁済したと主張したために敗訴しましたが、実は、その貸金債権は訴えの提起以前に5年の時効にかかっていたのです。もし上告審でAが時効を持ち出した場合は、本行は敗けることになるのでしょうか。
また本行はBに対する貸金債権を請求して勝訴し、その判決にもとづいてBの財産に強制執行しましたところ、Bは異議の訴えを起こして、この貸金債権はさきの訴えの提起前にすでに時効にかかっていたものである、といって、時効消滅を主張しています。Bの主張が認められるでしょうか。
時効を援用する者は、どの時点でもなすことができるかというのが本問の問題点です。第一審、控訴審、上告審のうち、どこで援用してもよいかという問題です。第一審における訴えの提起の前に時効が完成している場合に、第一審で時効を援用しなかったときには、控訴審で援用することができるかどうか、控訴審で援用しなかった場合に、上告審で援用することができるか、という問題です。
この問題について判例はどのように考えているかをみてみましょう。判例は、時効の援用を訴訟上の攻撃防禦方法だと解しておりますが、その必然の結論として、「第一審において時効を援用しなかった当事者は、自由に第二審において時効を援用することができる」といいます。さらに、第二審で援用するときに、訴訟が第一審に係属する当時、時効が完成している事実を知らなかったことを立証する責任がなく、また、当事者が第一審で時効を援用しなかったという事実を目して、当然、時効の利益を放棄したものということができない、といっております。
次に、上告審で援用できるかということが問題になりますが、判例は、前述の場合と同じく、時効の援用は、訴訟当事者の攻撃防禦の方法である訴訟行為の一種に属するから、「下級審でこれをなすべきものであって、法律適用の当否を審理する上告審でこれをすべきものではない」としております。

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ここにみてきた判例が示した結論に対して、どの学説も賛成しております。訴訟法説は、時効の援用は、法定証拠の提出と考えるわけですから、判例の立揚は当然のことと考えるでしょう。
実作法説の条件説、つまり、時効の援用によって権利得喪の効果を生ずると解する学説に立ちましても、第二審の口頭弁論終結までに時効の援用をしなければならぬと考えております。この学説に立っても訴訟法理論による制約を免れることはできず、上告審は、原則として、法律適用の当否を審理するものと考えられるからです。
以上を総合すると、判例の立場に立っても、学説の上に立っても、Aは上告審で時効を援用することはできず、銀行は負けることがありません。これは、時効を援用しないままに判決が確定したのちに、別訴で改めて時効を援用することは許されるかという問題です。そして、この問題と関連して、応じ、消滅時効にかかっている債権にもとづく強制執行について異議の申立てをしなかったことが、時効の利益の放棄になるかという問題も生じます。
結論から先にいいますと、この問題について判例の態度は分裂しているということです。
一方に属する判例をあげてみましょう。YよりXに対し、債務の不存在確認の訴えをおこし、第一、第二審で、Yの債務の時効が完成していたにもかかわらず、それを援用せず、もっぱらその債務の原因をなした準消費貸借の無効を主張したが、敗訴し、上告をしないで判決が確定しました。その後、XからYに対して準消費貸借債権にもとづいて訴えをおこしましたが、ここで、Yは時効を援用しました。大審院は次のように言います。「Yが先にXに対し提起した本件債権不存在の確認訴訟で、本件債権が時効によって消滅したことを主張することができたのに主張せず、換言すれば、時効を援用することなくして敗訴し、そのまま該訴訟の判決を確定するに至らさせた事実があったとしても、元来債務者が債務の根本的に存在しないことを確信したような場合は、債務が存在してもそれが時効によって消滅したというがごときことは想像もできないところだから、時効を援用して債務の不存在を主張することをしないで判決を受けることが必ずしもないというわけにはゆかない。従って、Yが前の訴で時効 の援用をしなかったとして、これをXより提起した本訴において時効を援用し抗弁とすることを許さないということはあたらない」と判示しました。    別訴において援用することができるというわけです。
この系列に属する判決がいくつかあります。時効を援用しないで判決が確定しても、時効の利益を放棄したことにならないとし、時効にかかった債権にもとづいてなした強制執行に対し異議の申立てをしなかったとしても時効の利益の放棄にならず、改めて時効の援用をすることができるとしたものです。
これに対して、他方の昭和九年の大審院判決は、これと同じ事案で次のように判示したのです。「債権は消滅時効の完成とともに当然に消滅し、当事者が時効を援用するのをまって始めて消滅するものではない。時効の援用は、債権がすでに時効の完成とともに消滅した事実を主張する訴訟上の防禦方法に過ぎない。そして債務者が判決によって確定した請求の消滅を理由として民事訴訟法五四五条の規定によって異議の訴をなすには、その消滅の原因である事実が、当該判決の口頭弁論終結後に生じたことを要件とするから、今、もし時効がその消滅原因であるときは、口頭弁論終結後に当該時効の完成したことを要件とすべく、従って、その終結前に時効は完成し、終結後にこれを援用したことを理由とするがごときは、もとより口頭弁論終結後に異議の原因を生じた場合に該当しない」として、時効援用を認めなかったのです。
これと同じ系列に属する判決もあります。この判決は、債権の存在することを確定すれば、その判定については既判力を生ずるものであるから、将来同一事件の訴えであると、別異の訴えであるとを問わず、このように判定された債権在否の問題については、裁判所は前記判定に拘束され、これに反する判定をなすことができないから、当事者が判定に反する主張を有効になすことができないのは当然の筋合であるといわなくてはいけない、と判示して、別訴における時効の援用を否定したものです。
このように矛盾した判例をどのようにみるかについては学者の間でも一致しません。年代的にみて、後者の判決は、前者の判決を変更したものだと解すべきだと主張する人もあります。連合邦判決で改めたり、判決自身がそのことを明言しないことから、判例は分裂した状態にある、と評する人もあります。

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