一部弁済と時効の中断

商売の関係で取引先に50万円ほど一年間融過したのですが、弁済期の一年後に利息だけの支払いを受け、それから半年後に元本のうち30万円の支払いを受けたまま4年あまり経過しました。もう時効にかかっているでしょうか。
このような場合において、どのようなことを考えたらよいかをあげてみましょう。
(1)商売の関係で融通したのですから、この元本債権は商事債権として5年の消滅時効にかかります。
(2)弁済期から一年後に利息の支払いをしたことが元本債権を承認したことになり、時効中断の効力を生ずるかどうか。
(3)その後、元本債権の一部弁済をしたことが、元本債権全部を承認したことになり、時効中断の効力を生ずるかどうか。
以上のことを考えればよいことになります。
承認というのは、時効の利益を受ける当事者(債務者)が時効によって権利を喪失する者(債権者)に対し、その権利が存在することを知っている旨を表示することです。これによって権利の存在することが明瞭になるので時効中断の事由としたのです。
この承認は、権利が存在していることを知っている旨の表示があればよく、時効を中断しようとする意思を必要としません。いわゆる観念の通知に属するものです。また、承認は、他の中断事由と異なり、何も形式上の制限がありません。結局、その行為を解釈することによって承認かどうかがきめられます。
まず利息の支払いから考えてみましょう。利息を支払うということは、元本債権のあることを認識して支払うということが普通ですから、債務を承認したものと考えてよいでしょう。判例も、利息の支払いは元本を承認したことになるといっております。時効が中断されるわけです。ところで、利息について、利息債務が執行され、それに対して異議を述べなかったとしても、元本債務を承認したものとすることはできないとする判例があることを付言しておきます。次に一部の弁済について考えてみましょう。債務の全部を認識して、その一部を弁済するのであれば、債務全部の承認を表白したものと考えてよいわけです。判例もそのように考えております。このような事由があれば、時効中断の効力を生じます。
本問では、利息の支払いがあった時、その後、一部の弁済があった時に、それぞれ時効中断の効力を生じております。そして、後者の事由があった時からまだ5年は経過しておりませんから、まだ時効にかかっておりません。
次に、そのほかに承認となる事例を判例をもとにあげてゆきます。
支払いを猶予してほしいと申し込むことは、債務の存在を認識しているからこそいえることだから承認となります。判例に、債権者から請求されたときに、後の回りの時にしてもらいたい、と申し出たことを、債務の承認としたものがあります。減額してほしいなどということも同じことになります。
同一当事者間に同種の給付を内容とする数個の債権、例えば、幾日かの借金がある場合に、その全債務を完済するに足りない額の弁済をしたときは、特別の事情がないかぎり、当該数個の債務を全部承認したことになるとされます。全債務の存在を認識したうえで弁済したと考えるのが普通だと考えるわけです。
もっとも、一つの生活関係から生ずる債務であっても、それが可分のものであり、社会通念上独立の数個の債務とみられるものにおいては、そのうちの一つについての弁済があっても、他のものについては承認とはならないとされております。例えば医師会に対する会費を数回支払ったという事案で、その余の会費支払債務についても承認したものとすることができない、とした判例があります。
将来において、債務者の直接の行為をまたないで自動的に一部弁済となるような措置をあらかじめ一括して講じておいた揚合、将来このような事態が発生したたびごとに債務全休につき、そのつど承認による時効中断があるとされます。一部弁済の変形とみてよいでしょう。例えば、債務者が担保の目的をもって白紙委任状付記名株式を債権者に交付し、配当金の受領および株式の売却代金による充当を委託した事案で、債権者が委任 状を用いて会社から6年にわたって11回配当金を受けとって利息に充当したのを、そのつど債務の承認となるとした判例があります。
ここでみてきたのは、承認となるとしたものを中心としたものです。次は、承認とならないとしたものを中心としてみてゆきましょう。
権利者の主張などに対して異議を述べないことなどは当然には承認になりません。たとえば、相殺の意思表示に対して何の異議をも述べなかったとしても、残部について承認になることはありません。
承認は、権利のあることを知っている旨の通知ですが、この通知は権利者に向けてなされなければなりません。したがって、判例が、銀行が預金の利息をたんに備付の帳簿に記入することは預金債権を承認したことにならないとするのはこの趣旨にもとづくものです。
もっとも、これに対して、銀行の帳簿のように、経理の上で負債であることを明らかにし、債権の存在を客観的に確認するものについては、承認としての効力を認めるべきだという反対説もあります。
この事実と似たものに、破産銀行の債務報告書に破産管財人がある具体的債権者の氏名と債権額を記載しても、当該債権を承認したことにならないとするものがあります。
また、一番抵当権を設定している債務者が二番抵当権を設定することは、一番抵当債権を承認したことにはならない、と判例がしているのもこの問題として考えられているのです。

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