相殺の意思表示と時効中断

当行はある顧客に100万円の貸金をもっていました。そのうち60万円については、顧客の預金60万円と相殺し、3ヵ月後に訴えを起こしました。顧客は、当行の訴え提起に貸借のときから5年1ヵ月日だから、もう時効にかかっていると主張しています。この場合の勝訴の見込みはあるのでしょうか。
本問の問題点は次のとおりです。
銀行がお金を貸しているのですから、その債権は商事債権で時効期間は5年です。
銀行は時効期間の5年が経過する2ヵ月前に相殺したことになります。この相殺がもし残額の40万円についての催告となると解しますと、それから3ヵ月後に訴えを提起しているのですから、時効中断の効力を生じているということになります。
上述べてきたことがいえるかどうかということが問題になります。
この問題について、判例は否定的に解しています。つまり、相殺の意思表示 は相殺適状にある当事者双方の債務をその対当順において消滅させ、弁済と同一の効果を生じさせるのに止まり、相殺権者が相手方に対し自己の債権を行使して、これを履行させようとする意思表示を包含しない。したがって民法一四七条一号の請求に該当しない。のみならず、相殺したときに相手方がこれに対して何等の異議を述べなかったとしても同条第三号の承認に応該当しない」といっています。
判例の態度は、形式的に、概念的に、区別したものです。これに対しては有力な反対説があります。それは次のような理由によるものです。催告は強力な中断方法を講ずるために時をかせぐ予備的措置であるから、そう厳格に解すべき理由がなく、必ずしも付遅滞の要件としての催告の要件を具備する必要がないと解するのが妥当だということです。それは、債権をもはや放置するものではなく、その存在を主張しているという事実があれば足りると解すべきだということです。時効の中断を認めたのは、権利の上に眠るものではなくなった、ということにもあるのですから、以上のように 解すべきものでしょう。相殺の意思表示をすることは、債権を放置するものでないことを示したものであり、債権の存在を主張しているとみることができましょう。
現在、もし、この種の事実が裁判所で問題になれば、裁判所が前の判例を覆えすことも十分考えられます。つまり、最高裁は、債権者が裁判上で留置権の抗弁を提出した事案で、この場合には訴訟係属中、催告の効力が持続している、と判決したのですが、これは、債権の存在を当然の前提として、ある権利が行使された場合に、催告の効力を認めたものです。この考え方を押し進めてゆけば、一部の相殺は全部の債権の催告になると解される可能性があるからです。
前述しましたように催告が中断の効力を生ずるためには、別な措置を講じなければなりません。民法一五三条は、催告は6ヵ月内に裁判上の請求、和解のためにする呼出しもしくは任意出頭、破産手続参加、差押え、仮差押えまたは仮処分をしなければ時効中断の効力を生じないとしております。本問の場合には、もし、相殺が残額について催告の意味をもつという学説の立場に立ちますと、相殺をしてから3ヵ月後に訴えを提起したのですから、ここに述べました要件を充たしているのですから、時効中断の効力を生ずると解してよいでしょう。
以上考えますと、勝訴の見込みありということになります。

お金を借りる!

特約による事前求償権/ 債権譲渡による保全と回収/ 手形書替え/ 債務引受と更改/ 履行引受による保全と回収/ 債務者と保証人の追加/ 限定承認と保全/ 根保証債務の相続/ 根保証人の解約権/ 物上保証人の死亡と担保解約/ 第二会社への債権保全/ 強制執行と執行手続き/ 督促手続/ 公正証書による強制執行/ 訴訟と調停/ 仮差押えの要件/ 仮差押え命令の取消し/ 動産に対する強制執行/ 被差押債権の特定の程度/ 債権差押えの効力の範囲/ 取立命令と転付命令/ 債権の二重差押と第三債務者/ 二重差押えの禁止/ 保全処分と強制執行/ 滞納処分と差押え/ 倒産と整理/ 破産宣告の申立て/ 和議と会社整理手続/ 更生手続開始決定前の保全処分/ 破産債権/ 財団債権/ 別除権と更生担保権/ 譲渡担保と破産/ 否認権/ 相殺権/ 時効の制度/ 時効期間/ 割賦弁済での期限の利益喪失約款/ 時効の中断/ 中断事由としての裁判上の請求/ 相殺の意思表示と時効中断/ 手形の呈示なき催告の時効中断/ 一部弁済と時効の中断/ 手形債務の承認による時効中断/ 連帯保証人への請求と時効中断/ 時効の援用権者/ 時効援用の時期/ 時効援用の場所/ 時効の援用と放棄/