中断事由としての裁判上の請求

債務者である原告が、債権者である被告を相手どって、債権不存在確認の訴えを提起し、債権者である被告が債権が存在することを主張して抗争し、勝訴した場合に、当該債権の消滅時効が中断するかという事実について、大審院は次のように判示しました。「時効中断の効力を有すべき権利確認の訴は権利者より義務者に対し提起した積極的権利確認の訴でなければならない。従て義務者が権判者に対し提起した消極的権利確認の訴において、権判者が権利の存在を以て対抗したというようなことは裁判上の請求として時効中断の効力を有すべきものではない。なんとなれば消滅時効の中断なるものは、権判者の権利不行使の状態を中絶するものだから、時効中断の事由は権判者が権利を行使する行動でなければならない。権判者が義務者の提起した消極的権利確認の訴において権利の存在を主張してこれに対抗するのは、その目的が権利を行使するのにあるのではなくて、相手方の請求に対する防禦に存するからである。本訴債権の不存在確認の別訴において債権の存在を主張し勝訴の判決を受けたことをもって、自ら債権存在の確認訴訟を提起したと同視すべきもので時効中断の効力があると論ずるのは当を得ざるものである。
このような大審院の態度は、その後十数年にわたって踏襲されました。これに対し、学説は激しく非難しました。ある者は、この判決のおわりで大審院が排斥した主張、つまり、債権不存在確認の訴えにおいて棄却の判決が確定すると、結果的には債権存在確認の訴えにおける被告勝訴の判決が確定するのと同じ効力を生ずることを理由とし、ある者は、被告の権利存在の主張は権利の上に眠る者でないことを明らかにす る意味を有することを理由として、そのような非難のためか、昭和一四年に至って連合邦判決をもって従来の態度を改めるようになりました。

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連合部判決は次のように判示しました。「消滅時効の中断原因たるべき裁判上の請求は、給付訴訟のみに限定されることなく確認訴訟をも包含するものなることは当院のつとに採用する見解であるが故に、この見解の是認すべきものである以上相手方が自己の権利の存在を争い消極的債務不存在の確認訴訟を提起した場合に、これに対し被告として自己の権利の存在を主張し原告の請求棄却の判決を求めることは、これを裁判上の権利行使の一態様となすに何等の妨げとなるものではない。けだし出消滅時効の中断は法律が権利の上に眠れる者の保護を拒否して社会の永続せる状態を安定ならしめることを一事由とする時効制度に対し、その権利の上に眠れる者でないこ とを表明して当該時効の効力を迫断せんとするものであるから、裁判上の請求に準ずべきものと解しても少しも前示時効制度の本旨に背反するところなきのみならず、一方において権利関係の存否が訴訟上争われつつある間に、他の一方において該権利が時効により消滅することのあるのを是認せんとするが如き結果を招来すべき解釈を採用することは条理にも合致せざるものということができるからである。しかのみならず、もし前示消極的確認の請求を棄却する判決にして確定すれば、その結果は積極的確認請求の訴訟において、原告勝訴の判決が確定したのと同一に帰すべきをもって、この点においてもまた両者の間に時効中断事由として観察するにあたり別異の取扱をなすべき理由に乏しきものといわなければならない」
 この判決を見ると、学説の非難がそのまま採りいれられていることがわかります。
このように債権の消極的確認訴訟において被告が勝訴したときに、債権の存在が確認されて債権の消滅時効は中断されますが、これと類似の問題につき判例がどのような態度をとっていったかをみてゆきましょう。
債務名義にもとづく債権が弁済によって消滅したとして提起された請求異議訴訟の被告が、債権の存在を主張して勝訴した場合に、債権の消滅時効が中断するかどうかも、述べてきた問題と非常によく似ております。判例は次のようにいいます。この判決の効力は債権の有無を確定するものではないが、実質上債権存在確定と同様の結果をみるに至るから、異議の訴訟において債権の存在を主張することを目して裁判上の権利行使の一態様とするのは、債権不存在確認訴訟における場合と同様なんら妨げないところだとして、時効中断の事由としました。なお、このような見解に対して、請求異議訴訟では実体的権利関係を訴訟物とする、という見解もありますが、その見解にたてばなおさら結論を同じくすることになるでしょう。なぜならば、原則的には、判例は、裁判上の請求における時効の中断を訴訟物の反射的効力と考えているからです。
そのことは次の事実に対する判例の態度からもうかがえます。その事案というのは、所有権にもとづく株券引渡請求訴訟において、被告が原告を債務者とする留置権の抗弁を提出し、これに対し原告は被担保債権は時効によって消滅していると主張し、その10年の時効期間の満了は、留置権の抗弁が提出された後であったという事案なのです。この留置権の抗弁によって被担保債権の消滅時効が中断されるかどうかが問題になりました。最高裁判所の大法廷は、時効中断の効力を認めて、次のようにいっております。訴訟 物である目的物の引渡請求権と留置権の原因である被担保債権とは全く別個の権利であることから、被担保債権の主張に、訴えの提起に準ずる効力があるとはいえないが、かかる抗弁中に被担保債権の履行さるべきものであることの権利主張の意思が表示されているから、消滅時効中断の効力があり、これが訴訟係属中継続して存続する、しかし、さらに確定的な時効中断を生ぜしめるためには、その訴訟終了後六ヵ月内に他の強力な中断事由に訴えることを要するとして、裁判上の催告を認めることになりました。このような判断に対して、裁判上の請求に準じて強い中断の効力を認めるべきだという意見もあります。
債権者のなす詐害行為取消しの訴えを提起した場合に、債権者の債権の消滅時効は中断されるかという問題がありますが、判例は、債務者に対して直接請求するものでないから、として否定しました。疑問がないわけではありません。ただ留置権の場合と違うのは、表示行為が債務者に対してなされているかどうかにあるようです。
以上をみてきて、ある裁判官は次のように要約しております。第一に相手から提起された訴えが、問題となっている権利そのものの否定主張であるか、あるいはそれと同視できるため、相手方の請求が棄却されたときは、被告の応訴によって主張されたその権利の存在が確定ないしはそれと同視できることになり、あたかも被告がその権利を訴訟物として訴えを提起したのと実質的に異ならないものと評価できる場合に、被告のその権利主張が、裁判上の請求に準ずるものとして時効中断の事由になる、というのです。第二に、訴訟物と全く別個な権利の主張は、催告として時効の中断事由になるというのです。

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