割賦弁済での期限の利益喪失約款

借りたお金や売買代金を何回かにわけて弁済する方法を割賦弁済といいます。月毎に支払う方法が多いものですから、月賦弁済ともいわれます。資力の不十分な債務者をして支払いを容易にするための方法だといってよいでしょう。しかし、その反面、弁済が長期化するために、債務者の事情が変動してその資力が滅少し、支払いが困難になったり、あるいは債務者の弁済への誠意が薄らいでくるというようなことが生ずることのあるのは、債権者にとって不利益となる点だといってよいでしょう。そのような危険をさけるためにいろいろな方法が考えられます。その一つとして、期限の利益喪失約款があるのです。
この約款は、契約書に普通このように書かれております。「割賦弁済を一回でも怠った場合には、債務者は直ちに期限の利益を失い、全額を一度に請求されても異議はない」というように。これを期限の利益の喪失約款というのです。この約款をよく観察しますと、二つの型があることがわかります。第一の型は、不払いがあると債権者のなんらの意思表示をまたずに期限の利益は喪失すると解するものです。条件が付せられていると解してよいでしょう。第二の型は、不払いという事実の発生だけでは、期限の利益を喪失することなく、債権者が期限の利益を失わせる旨の意思表示をしてはじめてその効果を生ずると解するものです。このような二つの型のいずれであるか必ずしも明瞭でない場合もありますが、それは契約の解釈によって定めることになります。

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このような約款がある場合、不払後の残債務の消滅時効の起算点はいつの時点からかが問題になります。これについて判例は動揺を重ねて帰することを知りませんでした。ある判例は、割賦払いを念っても期限の利益を喪失させる権利を行使すると否とは債権者の自由であって、その権利を行使しない以上、割賦弁済の契約は有効に存在するのであるから、残債務の時効は不払いの事実のあったときから進行するものでないとしたり、ある判例は、割賦弁済を怠ったときから、債務全部の弁済を請求することができるから、時効はこの時から債権全部に対し進行を始める、としています。
民法一六六条は「消滅時効は権利を行使することを得る時より進行す」と規定しておりますが、その解釈がこの二様になされるということになるのです。そこで、昭和一五年に大審院連合邦判決で、この問題について判例としての終止符をうちました。つまり、「割賦払の債務に付債務者が一回でもその弁済を怠したときは、債務者は割賦払による期限の利益を失ない一時に全額を支払うべき旨を特約した場合でも、その特約の趣旨が一回の俗念により当然期限の利益を喪失することなく、このためには債権者に於て全額に付一時の支払を求め期限の利益を喪失せしむる旨の意思表示をなすことを必要とするものなるときは、債権全額に対する消滅時効はこの意思表示の時よりその進行を開始すべきものとす。蓋しかかる場合に於ては、期限の利益を喪失せしむるや否やは債権者の自由に属し、債権者は債務者の緊急に拘らず尚従前の通り割賦弁済を求め得べく、債権者が債務者の怠を尤むることなく特に前示の意思表示を為さざるに於ては債務者は依然として割賦弁済に依る期限の利益を保有することにして初めより弁済期の定めなき債権と同視することを得ざればなり」としました。その後の判例はこれにならい、最高裁判決もこれを確認しました。
判例はこういうことをいっているのでしょう。前述の第二の型の期限の利益の喪失約款が付せられていると解せられる場合には、残債務の時効は、期限の利益を失わせる意思表示をした時から進行するし、第一の型の約款が付せられていると解せられると、怠の事実があった時から残債務の全部の時効は進行する、ということになるのでしょう。
このような約款があっても、ただちに期限の利益を失わせることなく、割賦弁済という利益を債務者に存続させている、人情あつき債権者を保護するためにも、この判例の態度は正しいとしてこれに賛する学者もあります。
この判例に対する反対説も少なくありません。まず、判例は、第一の型に属する約款か、第二の型に属する約款か、これを判別する基準を明らかにしていないという不満があります。そして、第二の型の約款が付せられている場合でも、怠の事実があれば、その時からただちに消滅時効は進行すると主張しております。遅滞責任の問題と消滅時効進行の問題を同一平面で考える必要がないということを前提にして、債権者は弁済期を到来させて全額を請求しようと思えば自由にできるのだから、全額について権利を行使しうる可能性があり、したがって時効は債務緊急の時から進行すると解するのです。債権者がその気になればいつでも請求しうるという点では期限の定めのない債権と論理的に同じだと考えるのです。人情あつき債権者が不利になるという非難に対しては、期限の利益喪失約款によって債権者の権利を強める以上、他方で時効が早く完成することがあるのもやむをえない結果だと答えるのです。

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