更生手続開始決定前の保全処分

会社更生手続開始の申立てがあると、裁判所は更生の見込みがあるかどうかを十分審理して、もしあるとわかれば会社更生手続開始決定をします。開始決定がありますと、それ以前に生じたすべての債務の弁済が禁じられ会社に対して行なわれていたすべての法律上の取立手続、例えば強制執行などは中止または失効し会社財産はすべて更生管財人の管理に服せしめられます。ところが更生申立てから更生手続開始までにはかなりの時間がかかるのが普通ですから、せっかく会社更生手続が開始されても、それまでに会社が財産を隠匿したり、処分したり、債務を弁済したり、あるいは他の手続のために財産が逸出してしまっていたりして更生に支障をきたすおそれがあり、またこのために申立当時にはあった更生の見込みがなくなって更生手続の開始さえできないことにもなりかねません。会社更生法はこのような事態を防ぐため、更生手続開始前の保全処分および他の手続の中止命令の制度を置いています。
保全処分の内容について法律は、「会社の業務及び財産に関し仮差押、仮処分その他必要な保全処分」および「保全管理人による管理又は監署員による監督」を挙げています。「仮差押、仮処分その他必要な保全処分」の具体的な内容としてはいろいろ考えられるのですが、従来実務上定型的に行なわれてきているものは次のような命令です。
一項 会社は、従業員との雇傭関係により生じた債務を除き、平成○○年○○月○○日までの原因に基づいて生じた一切の債務を弁済してはならない。
二項 会社は、その所有に属する別紙目録記載の物件および権利について、権利の譲渡、担保権の設定その他一切の処分行為をしてはならない。
三項 会社はいかなる名目ないし方法をもってするを問わず、金員の借入れをしてはならない。
四項 前各項の場合において、あらかじめ当裁判所の許可を受けたときは、この限りでない。

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このほかのものとしては債権譲渡の禁止、債権取立ての禁止、営業の一部停止などといったものが考えられますが、実際に用いられることは少ないようです。ともかく、更生申立てがあると、たいていの場合なんらかの保全処分が見せられ、その多くのものに弁済禁止命令が含まれております。保全処分は「利害関係人」の申立てまたは職権により行なわれますが、従来の大部分は会社自身の申立てによるものであり、またほとんどの場合、更生申立て受理と同時か、またはその直後になされるのが実情です。
このことが更生手続の乱用という批判を生みました。そして特に問題となったのが問題となる債務弁済禁止の仮処分です。会社経営者は、みずから会社を危機に陥れておきながら、保全処分を錦の御旗として債権者に対抗し、他方では相変らず経営者として居坐っていることができるからです。保全処分を目当てとするこのような安易な「会社更生への逃げ込み」を封じるために設けられたのが保全管理人等の制度なのです。保全管理人が選任されますと、現経営者は完全に排除され、会社の事業の経営、財産の管理、処分はすべて保全 管理人に任されますから、いわば実質上更生手続が開始されたのと同じことになります。なお、監督員は保全管理人を置かねばならないほど現経営陣が不信用 でない場合に選任されます。ただこれらの制度はどの程度実際に利用されているかは明らかでありません。
次に、すでに開始されている他の法律上の手続の中止命令は、やはり利害関係人の申立てにより、または職権で行なわれ、破産、和議、整理、特別清算、強制執行、仮差押え、仮処分、任意競売、企業担保の実行、訴訟、行政手続、滞納処分の中止が命じられます。この制度は他のすべての手続よりも会社更生を優先させようという考えのあらわれです。
弁済禁止の保全処分が出ているのに会社がそれに違反して銀行に対する債務を支払ってしまった場合の弁済の効力については、弁済を受けた債権者が保全処分のでていることを知っていたときは無効と解する説と、知っていたか否かを問わず有効と解する説とがありますが、後説が有力です。弁済の禁止はもっぱら会社、取締役に対して向けられているだけで対外的な効果を伴うものでないとの理由によります。したがって債権者の側からする取立てを禁じる効力はこの仮処分にはありませんし、当座取引をしている銀行が支払いのため回ってきた手形を支払うこともなんら差し支えないと解されます。ところが実際には、債務者が銀行へ弁済禁止の保全処分が出たことを通知し、銀行もこれによって支払いを拒絶しつつ、裁判所の命令によるのだからというので、いわゆる不渡処分をしていないのが実情です。そして、不渡処分を受けないで手形の支払いを拒絶できることが「会社更生へ逃げ込む」ことの大きな目的の一つとなっていたわけです。しかし、もし、このような銀行側の扱いが変わり、弁済禁止の仮処分が出ているにかかわらず不渡処分をするようになっても、保全管理人や更生管財人は新たに銀行取引を始めることができますから会社更生手続の進行に支障はありません。
仮処分に違反する弁済が有効だとしても、この弁済は更生手続関始ののち更生管財人によって否認されるおそれのあることを覚悟しなければなりません。要するに一部の債権者が得た利益をはき出させ、全債権者の平等を確保しようとする制度です。会社更生においても否認権が規定され、銀行が悪意であったことを条件に、管財人は弁済を否認できることになっています。保全処分と否認とは関係ない制度ですから、保全処分の第四項により裁判所の許可を得て弁済をしたとしても、なお否認権の要件に当てはまるかぎり否認されることがあると解されます。否認されるかどうかはもっぱら更生管財人の胸三寸にかかっているわけですが、もし否認された結果銀行が受けた金額を返還した場合 はいったん弁済によって消滅した債権は復活しますので銀行はこの債権を更生債権として手続に参加しなければなりません。ただ会社更生では、破産と異なり、否認権が行使されることは比較的少ないといわれております。
弁済禁止の保全処分ののち保全管理人が選任された場合には、保全管理人は保全処 分の効力を受けないと解されます。弁済禁止は会社、取締役のみに向けられているからです。保全管理人は更生開始決定後の更生管財人に準じる地位にありますから保全管理人がした弁済ならばもはや否認の対象とはなりません。そこで、裁判所が保全管理人の行為を規制するためには、保全管理人の選任にあたり、 債務の弁済を裁判所の許可を要する行為に指定しておく必要があります。この指定に違反して許可なしでした行為は無効です。しかし、ここでも否認は別で、かりに裁判所の許可を得ていてもやはり否認の対象にはなりうると解されます。監督員が選任される場合は、裁判所は監督員の同意を要する事項を必ず指定しますが、この場合も同意と否認とは関係がありません。

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