滞納処分と差押え

債務者Aに対する80万円の債権の強制執行として、Aが取引銀行に対して持っている90万円の預金債権を差し押えて取立命令を得ようと思うのですが、当の預金債権は、Aの滞納している50万円の国税によってすでに税務署から差押えを受けていることがわかりました。この場合の強制執行は許されるのでしょうか。
滞納処分はいうまでもなく税金を支払わない者から強制的に徴収を行なう手続です。租税債権といえども一つの金銭債権にすぎませんが、法律により一般の私債権に優先する効力が認められ、その確保が国家財政の基礎をなすことから、裁判所の行なう強制執行手続によらず税務署が独自に一種の強制執行を行なうことになっており、その手続は国税徴収法に定められています。滞納処分も、裁判所が行なう強制執行と同じく、差押えに始まり、換価、配当と進むのですが、一方は裁判所、一方は税務署が行なうため 同一の財産について両手続が競合する場合の調整をする必要があり、そのために「滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律」が定められています。ところが、この法律には、債権の差押えの競合についての規定かありませんので、解釈によって決めねばなりません。

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調整法によりますと、すでに滞納処分による差押えがなされている財産に対して私債権者は重ねて強制執行による差押えをすることができます。換価手続は滞納処分の方をそのまま進め、 売却代金から租税を徴収して残余があればこれを債務者に返さないで執行官または裁判所に交付することになっています。また、滞納処分が途中で解除されたときはそのまま私債権者の差押えが引き継ぐように仕組まれています。さらに、滞納処分が差押えだけして一向に進められない場合には、私債権者は裁判所に申し立てて強制執行の方を先に進めてもらうことができます。この場合には滞納処分の前に私債権者のための差押えがあった場合と同様に取り扱われ、税務署は強制執行手続に交付要求をなし 強制執行の換価代金から優先的に税を徴収します。強制執行による差押えが先行するときは税務署は執行機関に交付要求をして、競売代金から優先的に弁済を得ることができますが、二重に差し押えることもでき、この場合の取扱いは滞納処分先行のときと概略同趣旨です。
つまり、調整法は一方から他方への連絡をよくして、一方の手続が消滅しても直ちに他方が受け継いでその間に間隙が生じないように配慮し、また、一方の手続途中で他方へ乗りかねることを認めているのです。これによって調整法施行前に存在した私債権者の不利な立揚がとり除かれました。
このような調整規定のない債権差押えの場合にはどのように取り扱うべきでしょうか。まず、この揚合のように、すでに税務署から差し押えられている債権を重ねて差し押えることができるかどうかが問題です。他の財産について、二重差押えができることは調整 法で明らかにされています。もともと債権は他の財産の場合と異なり強制執行手続内でも二重に差し押えることが許されていますし、調整法の趣旨からして、滞納処分と 強制執行の二重差押えは差し支えないというのが今日の判例および税務実務の取扱いです。ですから有効にその債権を差し押えることができます。これで、もしその後に滞納処分の差押えが納税などの理由により解除された場合にも、債権者差押えは存続することになりますら安心です。その後、転付命令または取立命令をえて満足をうることができます。もし二重差押えをしておかないとどうなるかというと、滞納処分の解除は外部からはわからないので、あらためて差押えをする前に債務者がその債権を取り立ててしまうかも知れません。そうなると差し押えるべき債権がなくなってしまうわけです。この点で二重差押えをしておくことは非常に重要なのですけれどもそのほかの点では、債権者の立場はあまり安全でないように思われます。
まず、差し押えた債権の取立てはもっぱら滞納処分の方で行ないますので、債権者は滞納処分の解除あるまで転付命令、取立命令をもらうことはできず、かりにもらってもそれは無効であると解されます。ついでながら、第三債務者がもし債権者に弁済しても、税務署が重ねて請求すれば二重払いをしなければならないでしょう。この場合、税務署がいっこうに差押後の手続を進めなくも、債権者としては、他の財産について調整法が定めているように、裁判所に申し立てて強制執行の方を先に続行してもらって、第三者債務者からの取立ての主導権を握ることはできません。債権者はじっと滞納処分の方で動き出すのを待たればならない立場にあります。
さて、税務署が第三債務者から取り立てた金銭から税金等を徴収したあと残余があればどうすべきでしょうか。他の財産については、前に述べましたように、これを執行機関に返すことになっていますから、当然それから弁済を受けられますが債権差押えではそのような規定がないので税務署は債務者に返還してよいと解されています。そうなると、せっかく二重差押えをした債権者の立場は不安になりますので債務者が税務署に対して持つ残余 金返還請求権をあらかじめ差し押えておかねばなりません。税務実務の取扱いとしては、債権者に便宜を与えるため税務署に滞納処分の差押えの解除、残余金の有無等について連絡してほしい旨を要請しておくと、知らせてくれることになっています。解除の通知はここでは関係ありませんが、他にも差し押えている私債権者がいないときは、いち早く転付命令を得てしまうために必要です。
なお、残余金がある場合の不安を除くために、税務署は被差押債権の額が税金の額をこえるときは税務署は税金の額しか第三債務者から取立てができないと解しようとする見解があります。そうすれば残余はまだ債権者の差押えに服したままで債権の形で残っておりますから、滞納処分の解除をまって残余を直接取り立てることができることになります。このような趣旨の判例はありますが、税務実務では必ずしもそのようには行なわれていないよ うです。したがって、やはり残余金返還請求権をも差し押えないと目的を達することができません。
逆に強制執行の差押えある債権に対する滞納処分の二重差押えもできますが、この場合には強制執行による取立てを行ない、税務署は同時に交付要求をして税金の優先的弁済を確保します。また、一般に滞納処分と強制執行の差押えが競合する場合には、強制執行の差押競合の場合に認められる第三債務者の供託は許されないと解されていることを付言しておきます。

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