動産に対する強制執行

債務者の工湯内にある工作機械を差し押えたところ、第三者が、あの機械は自分の貸金の担保として譲渡担保にとっているものだから差押えを取り消せといってきました。このような場合、この言い分を認めねばならないのでしょうか。
譲渡担保というのは、金融を受けるに際して債務者が所有物を債権者に譲渡した形をとり、これによって債権担保の目的を達しようとするものです。ところで、強制執行によって貸金を回収しようという場合に、差押え、競売することができるのはあくまで債務者の財産に限られなければならないことは言うまでもありません。しかし、実際に差押えのときには、どの財産が債務者の物であり、どれが他人からの預り物であるかなどということは容易に判定ができないことです。そこで法律は動産については外観上債務者が占有しているために債務者の物であるように見えている物は差し押えてよいこととし、その物が実は第三者の物であったという場合には、第三者の側から第三者異議の訴えという訴訟を差押債権者に対して起こし、その判決をまってその物に対する執行を排除できることにしているのです。
本問でも、このようにして債務者の使っていた機械を差し押えることができたわけですが、問題は譲渡担保権者であるという第三者が所有権者として第三者異議の訴えを貫徹できるかどうかにかかっています。もし貫徹できるのならば、その第三者が間違いなく譲渡担保権者であるかぎり、いたずらに頑張ってみても、いずれ第三者異議の訴えによって執行は取り消される運命にあります。

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譲渡担保の形式面、すなわち所有権の移転という形式に重きを置いて考えると、譲渡担保権者はまさに目的物の所有者になっているのですから、第三者異議の訴えによって自分の物に対する執行を排除できるというのは至極当然といえます。判例は従来このような考え方によって譲渡担保権者に第三者異議を容認してきたのです。ところがこのような形式主義的な解決に対しては有力な学説が反対を唱えてきました。この学説は形式はともあれ譲渡担保の実質はあくまで担保であることを重視します。担保権であるのなら、被担保債権の優先弁済さえ確保してやれば、その保護のために必要にしてかつ十分なはずであって、第三者異議の訴えを許すことは執行債権者の犠牲において必要以上に譲渡担保権者を優遇することになると主張します。解りやすく言うと、100万円の財産を70万円の債権の担保として譲渡担保に入れているとします。この財産が40万円の債権の執行のため差し押えられた場合のもっとも合理的な配分は、財産の換価金100万円のうち譲渡担保権者70万円、執行債権者30万円となるはずなのに、第三者異議を認めると執行債権者はその財産からは一銭も弁済が得られたいことになるというわけです。そこで譲渡担保権者を担保権者として扱う具体的な方法として、譲渡担保権者には第三者異議の訴えの代わりに優先弁済請求の訴えという方法のみを認めることを主張します。この訴えは本来は占有を伴わない法定担保物権である動産の先取特権の主張方法として規定されているものですが、これにより譲渡担保権者は差押物の換価を妨げることはできない代わり、換価代金からまず優先して弁済を受けられる地位を確保できることになるわけです。ある学者は、所有権を主張して第三者異議の訴えが起こされても、原告は実は譲渡担保権者だということが判った揚合には、その訴えはそのまま優先弁済請求の訴えとして認容してやってよい、とも言っています。
このような有力学説に対して、従来からの判例の見解に結果として賛成する学説もないわけではありません。その考えは、ちようど本問のような場合に当てはまるので すが、一体として稼働力をもつ一連の機械類の価値は個々の機械の価値の単純な合計よりは大きいことに着眼します。この高い価値に信順して多額の金融を与えた譲渡担保権者の立場は保護されねばならないと主張されます。つまり、もし第三者異議の訴えを認めないとすれば、他の債権者による個別執行によって一部の機械が技けてしまい、譲渡担保の目的物の稼働力が台なしにされてしまうでしょう。ということは、金融を得ようとする債務者からみれば、譲渡担保権者が他からの強制執行を恐れて多額の金融を与えてくれないことになって企業の発展を阻害するというわけです。この考え方は所有権か担保権かといった従来の論議を抜きん出て、高次の政策論をこの問題に持ち込んできていますが、まだ一般の承認を得るに至っていないように思われます。

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