仮差押えの要件

A商店に仕入資金として30万円ばかり融通しているのですが、Aの営業が不振で、在庫商品を非常識な安値で売却し、また店をたたむつ心りで店舗の買手を探しているという噂もあります。貸金債権についてはすでに公正証書もとってあるのですが、まだ弁済期限が到来していません。弁済期に確実に取り立てるために、いま取っておくべき法律上の手段としてどのようなものがあるのでしょうか。
公正証書による貸金の弁済期限が到来していない以上は、この公正証書にらとづいて、Aに対し強制執行をすることはできません。さりとて弁済期限がくるまで漠然と待っていては、Aがその財産を処分したり隠匿したりして、貸金の回収はますます困難となります。
金銭債権の強制執行をするには、公正証書や確定判決などの債務名義を必要としますが、この債務名義を得て、強制執行に着手できるまでに、相当の時間を要します。この間債務者がその財産を隠匿、減少、処分、毀減するおそれがあるので、それを防止するために、債務者の財産を現状のままに確保しておいて、将来強制執行をすれば、債権者が必ず金銭の支払いを受けられるようにしておく必要があります。このように、金銭債権による将来の強制執行を保全するために認められるのが仮差押えです。
仮差押えは、保全としての差押えをなすだけで、終局的な執行をするわけではありません。終局的な執行のためには、公正証書や確定判決等の債務名義を必要とします。このうち確定判決を得るための訴訟を本案訴訟といいます。

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仮差押えは、このように金銭債権にもとづく将来の強制執行を保全するためになされるものですから、保全すべき債権の存在と仮差押えの必要性を要件としています。
保全すべき債権は金銭債権ですが、仮差押命令を発する当時には、まだ金銭債権ではないが、将来金銭債権にかえることのできる債権、例えば特定物の引渡しを求める債権で、後日債務不服行などによって金銭債権である損害賠償請求権にかわりうる債権も含まれます。
仮差押えの必要性とは、それをしないでおくと、債務者が財産を隠匿または処分してしまい、債権者が後日勝訴の確定判決を得て強制執行をしても、それが不能または著しく困難となるおそれのある場合です。
仮差押えの申請を受けつける裁判所は、本案訴訟の管轄裁判所か仮差押えの目的物所在地の地方裁判所です。本案訴訟の管轄裁判所は、第一審裁判所であるのが普通ですが、事件が控訴審に係属中である場合にかぎり、控訴裁判所となります。また目的物の所在地は、それが有休動産や不動産であれば明白ですが、債権の場合は、第三債務者つまり差押えを受ける債権の債務者の所在地となります。
仮差押えの申請は、口頭でもすることができますが、迅速、正確にする意味から書面ですべきです。
被保全債権は、その債権を特定できる程度に、発生原因、金額をはっきり書く必要があります。金銭債権でない債権については、これを金銭にかえた場合の金額を明らかにしなければなりません。
仮差押えの必要性は、抽象的でなく、知り得た範囲で、債務者の財産処分、隠匿、毀滅のおそれを具体的に指摘して下さい。仮に差し押えるべき財産も、明示して申請するのが、実務の取扱いです。
仮差押えでは、書面審理が原則ですから、証拠となるべき書類をつけて出します。債権の存在を証明する貸金証書、手形とか仮差押えの必要性を証明する興信所の速報、債務者が財産を隠匿するおそれがある旨の証明書などです。証書や手形は大事なものですから、原本は見せるだけにして写しを裁判所へ提出するようにします。
またすみやかに決定正本を作成してもらうために、当事者目録、請求債権目録、仮に差し押えるべき目的財産の目録を、当事者の数に一通を加えた通数だけ用意して、申請書に添付すると便宜です。
仮差押えは急いでしなければなりませんし、またあらかじめ債務者に仮差押えの申請のあることを知らせては、保全の目的を果たせないので、裁判所は判決手続のように口頭弁論を開いて債務者を呼び出し、その言い分を聞くようなことをせず債権者が提出した「仮差押命令申請書」の書面審理にもとづいて決定で裁判します。証拠も、文言のように裁判所が即時に取り調べうるものに限られます。債権者は、裁判所に対し、自己の主張が一応そうらしいと思わせれば足りるのであって、真実で絶対に誤りはないとの確信を抱かせるまでする必要はありません。これを疎明といいます。しかも、疎明は、本来それがない場合でも、債権者が疎明にかわる保証金を供託することによってもできます。
また仮差押えの審理は、債務者の言い分を聞かず、債権者の提出する証拠だけにもとづいてなされますので、本来仮差押えの理由がないのに、間違って仮差押命令が出され、その執行の結果、債務者が、損害をこうむるおそれがあります。そこで、その損害担保の目的でも、債権者に保証を供せしめます。
仮差押えにおける保証には、このように疎明に加わるものと、仮差押執行により債務者に生ずべき損害を担保するものとの両目的がありますが、裁判所は、この区別を明示せず、事件における諸般の事情を斟酌して、自由心証により保証頭を決定しています。労働者の賃金債権にもとづく仮差押え等、ごく少数の例を除き、無保証ということはないようです。
仮差押執行は、迅速に、かつあらかじめ債務者に知られることなくなされなければなりませんから、仮差押命令を債務者へ事前または同時に送達することは必要でありません。執行文も、継承の場合以外不要です。また迅速を旨としますから一四日以内に執行に着手しなければなりません。しかし、債務者の妨害のために執行に着手できなかった場合には、裁判所は、債権者の申立てにより、執行期間延長決定をすることができます。
執行の方法は仮差押えの目的物によって達います。
商品、機械、什器等の有休動産に対する仮差押執行は、執行官が担当します。この手続は、本差押えとほとんど同様です。仮差押えは、執行の保全が目的ですから、原則として差押えの段階に止まり、換価手続まで進みませんが、繊維、食品のごとく、放流すると価額が著しく減少したり、また貯蔵に不相応な費用を要する物であれば、当事者の申立てによって、裁判所はこれを競売して売得金を供託すべき旨を執行官に命ずることができます。
債権に対する仮差押執行は、第三債務者に対し、債務者に対する支払いを禁止する命令を送達することによって効力を生ずるわけですが、迅速にする意味から速達便にするとか、あらかじめ執行官に申し立てて、決定をただちに執行官送達にするとかの方法を講じます。この場合でも、本差押えの混合と同様、仮差押えが成功したか否かを知るために、第三債務者に対し、債権の存否その他を陳述せしめる命令を発するよう、陳述催告命令の申立てを仮差押申請と同時に裁判所へしておくべきです。
不動産に対する仮差押執行は、その不動産を仮差押えする旨の命令を、登記簿へ記入する方法でなされ、登記簿への記入は、裁判所が職権で登記所へ嘱託 します。この場合、一刻を争うわけですから、債権者は、できるならばこの登記嘱託書を裁判所より預り、登記所へ走れば、それだけ早くなるばかりでなく、登記の受理も確認できる効果があります。
ビルや大きなアパートなどは、その不動産自体を仮差押えするとともに、収益である家賃などを管理して取り立てる方法も有効です。これは裁判所に管理人を選任してもらってやりますが、仮差押えでは、管理人は取り立てた家賃を債権者のために供託しておいてくれるわけです。
自動車や建設機械に対する仮差押執行は、裁判所より都道府県知事あての登録嘱託書にもとづいて、登録をなすべきことを依頼し、自動車登録原簿に登録してなしますが物自体を押えることも必要ですから、監守保存命令をもらい、執行官に債務者から強制的に引き渡させることもできます。
仮差押命令が執行されると、債 務者は、仮差押えの目的物につき、売気とか質権、抵当権の設定などの処分をすることを禁止されます。しかし、この効力も絶対的なものでなく、債務者が仮差押命令を無視して目的物を処分しても、その処分が絶対的に無効となるものでなく、その処分の効力を差押債権者に対抗できないだけだとされています。仮差押えは、仮差押債権者の金銭債権またはこれに代わるべき債権の執行保全のために債務者の財産を差し押え、その処分権を奪うことを目的とする執行保全処分ですから仮差押えの効力も、その目的達成に必要な最小限度で足り、それ以上に債務者の利益ならびに一般取引の安全を害するようなことがあってはならないからです。そして、ここから判例は、債務者が仮差押えをうけた不動産を売却した場合に、その売却行為は、仮差押債権者に対する関係においてのみ、相対的無効をきたすにとどまり、他の 債権者は、この仮差押えの効力の利益をうけることを得ず、その結果、債務者の処分後にはその債務者に対する他の債権者は配当に参加できず、仮差押債権者のみ独占弁済をうけることとなると判示しているのです。

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