公正証書による強制執行

取引銀行との間で根抵当権付当座貸越契約を締結し公正証書も作成したのですが、これには、弁済を怠った場合ただちに強制執行を受けてもかまわない旨の文言も記載されています。履行を怠ると、この公正証書で銀行はすぐ強制執行にとりかかれるのでしょうか。
強制執行のできる公正証書を、特に執行証書といいます。執行証書たりうるには、公証人がその権限にもとづいて、成規の方式により作成しているほか、(1)請求権が一定額の金銭の支払い、または代替物もしくは有価証券の一定数量の給付を目的とする特定のものであること、(2)証書中に債務者が直ちに強制執行をうけても異議がない旨のいわゆる執行認諾文言の記載のあること、を要します。
執行証書は、判決のように裁判所での慎重な訴訟手続を経ないで執行力が認められるだけに、法は(1)のように、執行できる請求権に制限を加えているわけです。
金銭、代替物もしくは有価証券という代替性のある物の給付請求権に限られますので、特定の有休動産の引渡しや、建物の明渡しなどの非代替性の物の給付請求権は、執行証書となりえません。この範囲は支払命令で認められる請求権と同様です。この点で、執行できる請求権の範囲に制限のない和解調書や調停調書とは著しく異なっていますので、注意が必要です。

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請求権は、他の請求とその同一性が識別できる程度に具体的に特定されていなければなりません。たとえば、平成○○年○月○日成立の消費貸借にもとづく貸金債権という具合です。そこで、期間の定めのある建物賃貸借契約にもとづく賃料および契約終了後の遅延損害金について作成された公正証書は、賃貸借更新後の賃料について執行証書となりえません。更新後の賃貸借契 約は、吏新前とは、別個の契約であり、更新後の賃料請求権は公正証書に表示された更新前の賃料請求権ではないからです。
請求権は、すでに成立している債務を確認するものであってもよく、また将来成立する債権であっても、それが条件または期限にかかっているだけであれば、現存する債権といえますから、執行証書として効力が認められます。しかし、例えば売買契約の解除権の行使によって生じる代金返還請求権とか連帯債務者、保証人、物上保証人が将来取得する求償債権については、いずれもまだ発生しない権利ということで、執行証書たりえません。
次に請求の金額、数量は、一定していなければなりません。一定金額の支払いまたは一定数量の代替物、もしくは有価証券の給付の表示とは、証書自体に請求の金額、または数量が明記してあるか、または記載のみによって、これを算出しうることを意味します。利息は、元本、利率、期間が定まっていれば、その額を算出することができます。商品の月賦販売代金のように、支払いを何回か遅滞すると、割賦支払いの利益を喪失して残額を一時に支払う旨のいわゆる失権約款付割賦弁済契約も、証書の記載から、残額の算出が可能なので執行証書となりえます。
当座貸越契約は、当事者が銀行に対して有する当座預金残高を超過して小切手を振り出した場合、銀行は当事者とあらかじめ定めた極度額まで、その小切手に対して支払いをなすことを約するのです。したがって、証書上に記載されている金額は、当座貸越金の極度額であって、銀行に対して実際に負担した債務額ではないので、一定金額の支払いとしての表示を欠くことになり、たとえ執行認諾文言が付されていても、この公正証書によって強制執行をすることはできません。
そこで、証書に「債務者が期間内に債務を履行しなかった場合、取引実額の如何にかかわらず、極度額を債務額として支払う。ただし、極度額が実額より多いときはその超過部分を返還する」趣旨の一項を加えれば一定金額の表示といえるのではないかとの見解があります。しかし、判例は、契約の金趣旨をみた場合、かかる特約は、債務額を仮定しただけのことで契約の実熊にはなんらかわりがなく、また超過差押え以上の弊害を伴うとして反対しています。
執行証言たりうるには、このほか、証書上に債務者が直ちに強制執行をうけてら異議ない旨の記載を要します。これを執行認諾文言といいます。公正証書作成の際、債務者本人を同道して、その旨を言わしめればよいわけですが、委任状による場合には、委任事項のなかに、この文言の記載依頼も合めておかねばなりません。もっとも、債務者が公正証書の作成を承諾して、債権者にその作成に必要な白紙委任状を交付した場合、他に特別の事情のないかぎり、債務者において執行認諾文言を公正証書に付することを応承諾したものとみるべきであるとした判例もあります。
公正証言は以上述べた要件を具備すれば、有効な執行証書として、強制執行ができます。執行文は、公正証書を保存する公証人が付与します。もし要件が欠けているにもかかわらず、公証人が執行文を付与した場合には、債務者は執行文付与に対する異議をし立てて争うことができます。この異議は、執行文を付与した公証人役場を管轄する地方裁判所へ提出します。本問の揚合、万一執行文が付与されると、これは「一定 金額の表示」という執行証書としての要件を欠くために、本来執行文を付与すべきでない証書に付与されたこととなりますので執行文付与に対する異議を申し立てることとなります。しかし、ただ異議を申し立てただけでは、執行は停止されませんので、強制執行停止決定をとらねばなりません。これはこの異議を申し立てた裁判所に対して求めます。この停止決定に対しては、不服の申立てはできないものと解されています。
このように、執行証書としての要件を欠くにもかかわらず、執行文が付与された場合には、執行文付与に対する異議を申し立てるべきですが、執行証書としての要件は揃っていても、証書に記載された請求権がもともと不成立であるとか、無効または取り消さるべき場合は、執行証書自体は無効ではないため、前記の異議にはよれず、請求異議の訴えによります。例えば事実は金銭の授受がないのに、あったように証書上消費貸借の記載をしても、証書自体は、特定の貸金債権を表示するものとして無効ではなく、ただ消費賃借契約の不成立ないし無効を理由に、請求異議の訴えを起こして争うこととなります。もっとも判例は、事実と多少合致しない記載のある証書でも、取引界の実情に即してなるべくその効力を 認めようとしています。

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