個人貸付先の法人成りと金銭貸借

個人として事業を営んでいた者が、法人を設立して、その営業を法人のほうに移転すること、つまり個人事業の法人化を法人成りといいます。税務対策上、個人事業よりも法人による事業のほうが税制面で節税になるということと、事業規模の拡大につれて事業組織をより充実する必要が生じることから、一般に法人成りが行なわれます。法人成りの態様としては、法人設立に際して現物出資をする方法や、法人設立後に個人としての事業を営業譲渡する方法等がありますが、営業譲渡方式によるものが大多数です。
現物出資の方法による場合は、定款に現物出資をする者の氏名、出資の目的たる財産、その価額、これに対して与える株式の数などを記載し、かつ会社設立中に裁判所によって選定された検査役の倹査を受けなければならないなどの厳格な手続が商法に定められていて、目的物を過大評価することによって新会社の財産的基礎がそこなわれることのないよう配慮されているので、そのかぎりでは、法人成りによる新会社の資本内容の充実は確保されているとみられます。

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財産引受の場合も現物出資の場合と同様の措置が商法上要求されており、さらに会社成立後2年内に、会社の成立前から存在し会社の営業のために継続して使用すべき財産を、会社資本の5%以上にあたる対備で取得する契約をすること、つまり事後設立の場合も、株主総会の特別決議事項として、会社の財政的基礎の確保がはかられているので、これらの事項に設当する事例では、むしろ商法上必要な手続がとられているかどうかに注意する必要があります。
法人成りの事例として最も多い営業譲渡の方式による場合ですが、これは個人事業主が、別途に株式会社等の会社を設立し、自分が代表取締役となって、そのうえで個人事業の営業譲渡を受けて、新会社のほうで営業を継続する方法です。のれん等の営業権や営業資産の一切は新会社の方で引き継いで使用することになりますが、前述の事後設立に該当する場合を除いては、径来の事業主であった個人と会社間の契約のみで資産の移転が行なわれることになります。事実としては営業資産の一切が移転するとしても、相続や会社の合併のように包括承継が認められるわけではないので、個々の権利義務について個別に移転の手続がとられることになります。
法人成りは、前述のように各種の態様で行なわれますが、銀行の貸付金債権のような事業者側にとって債務にあたるものについては、現物出資の対象にならないだけに、個別に移転の手続をとらないかぎり、当然には新会社のほうに移転しません。
一般には、法人成りに伴って、個人事業主の営業の一切は新会社に移転するので、事後の営業取引は新会社と行なうことになります。したがって、銀行取引も新会社のほうで引き続き必要となるわけであり、銀行側としても既発生の貸金債権を回収して銀行取引を打ち切ることなく新会社と取引を継続するのが通常です。そのためには、個人事業主に対する既発生の貸金債権も新会社のほうから返済を期待するほうが自然であり、また事後の事業取益は会社のほうに発生することからいっても、会社のほうが債務返済力を持つとみられます。
しかし、法人成りは、権利義務の包括承継とはならず、個人事業主と新会社とは別の人格を持つために、新会社に債務を負担させるためには、新会社に債務引受をさせるほかありません。なお、債務引受には、従来の債務者の債務を免責して新債務者にのみ債務を負担させる免責的債務引受といわれる方式がありますが、法人成りの場合には、営業資産の一切を会社に移転するといっても、個人事業時代の過去の蓄積、財産の一切を全て会社に移転することは少ないという実際上の間題もあって、実務的には、会社を債務者に追加するという形での添加的債務引受をさせる事例が多くなっています。
会社に債務引受をさせる場合に、従来からの債務者である個人事業主が、法人成りした会社の代表取締役であることが一般的であるので、会社と取締役間の利益相反行為として、自己取引に該当することになるので、取締役会の承認決議を要することに十分留意すぺきです。
法人成りした会社が、個人事業時代の旧債の引受に協力しない場合というのは、債務免脱の意図で新会社に積極財産のみを移転したといった特殊なケースで考えられる。この場合には、新会社としては取引の継続を期待していないわけであるために、従来の事業主である個人から貸金債権の回取をはかるとともに、一つには、新会社において商号続用あるいは債務引受広告に該当すろ場合は、営業の譲受人である新会社に旧債の返済を請求すること、つぎに不当に廉価で財産を新会社に譲渡している場合等には、民法四二四条の詐欺行為取消権を行使して訴えを提起する等の旧債保全措置をあわせて講じることも検討の余地があります。

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