実印持参者との金銭貸借

実印持参者が、本人を代理する権限を有する場合、何らかの代理権を有するが権限外の行為をした場合、何らの代理権をも有しない場合に分けられます。
実印持参者が当該法律行為について本人を代理する権限を有する場合は、代理行為の意思表示の形式が間題となります。つまり、本人が代理人に実印を託して代理行為を委任したときは、その代理行為は代理人が直接本人の名を示して行なうこととなりますが、このような形式の代理行為は、顕名主義との関係で有効であるかという間題です。民法九九条は、代理人が本人のためにすることを示してなしたる意思表示は直接本人に対してその効力を生じる旨規定しており、代理人は、代理行為をするにあたって、相手方に対し、本人である他人のためにするものであることを表示しなければなりません。顕名の方法としては、甲代理人乙のごとく本人甲の氏名を肩書する形式が通常ですが、直接本人の氏名のみを記載し、本人の印章を押捺する形式でした場合も、代理人が代理意思を有し、その表示と認められるかぎり、顕名の手段とみてさしつかえないとするのが判例、通説です。

スポンサーリンク

お金を借りる!

本人が代理人に実印を託して代理行為を委任した場合において代理人が権限外の行為をしたが、代理人が代理人であることを積極的に明らかにせず、または何らかの事情で本人と詐称したため、相手方はその行為を本人自身の行為と信じていた場合は、民法一一〇条の規定の適用があるかという問題があります。なお、直接本人名義でする代理行為につき、相手方において自分に対し意思表示をする者が本人ではなく代理人であることを知っている場合には、同条の適用あること当然です。この点につき、民法一一〇条は代理人が授権された権限の範囲を量的、質的に超えて行為をした場合において行為の相手方が代理人にその行為をする権限があると信じたときに相手方を保護する規定であるために、相手方において行為者が代理人でありその行為が代理行為としてなされたことを認識していた場合でないかぎり同条の適用はなく、したがって、代理人が本人の名を用いて行為をしたため相手方がその行為者を本人自身と信じた場合には同条を適用することができないとする見解があります。
しかし、直接本人名義でする代理形式が認められる以上、相手方が代理人であることを知ってその代理権を信じた場合と代理人を本人自身と信じたが実は代理人であった場合とで相手方を保護すべき必要性に何ら差異はなく、同案の適用を認めるべきです。
次に、本人が代理人に実印を託して代理行為を委任したが代理人が権根外の行為をした場合における表見代理の成否が問題となります。この場合、相手方がその代理人にその法律行為をする権限ありと信じたときは、特別事情のないかぎり、相手方には民法一一〇条の正当理由があり、表見代理が成立するとするのが従来の判例の傾向でした。なお、本人の実印を所持する代理人と取引した相手方に正当理由が認められることが多いのは実印についての前記のごとき事情に由来するために、相互に他方の実印を入手することが容易で、また保管を託されることの多い夫婦その他これと同視しうる親族等の一方が他方の実印を用い、これを代理して法律行為をした場合には、相手方に正当理由が認められにくくなります。
民法一一〇条の適用のあるためには、実印持参者に何等かの代理権が存在しなければならないとするのが判例通説です。その根拠としては、若干の代理権が要求されるのは、動的安全と静的安全の中間をとったもので、本人が問題の代理行為者に対しとにかく代理人として働く素地を与えたのがその根拠であるとか、全く無権限の場合にまで第三者を保護することはあまりにも本人の利益を害するとか、本人の静的安全を保護するための最小限度の要件であるなどと説かれています。

お金を借りる!

割賦販売での金銭貸借/ 買戻約款付売買と金銭貸借/ 建設協力金/ 金銭貸借とリース契約/ 金銭貸借と金銭預託/ 当座貸越/ 手形貸付/ 手形の書替/ 融通手形/ 手形割引/ 手形買戻請求権/ 手形担保貸付/ 法人に対する貸付/ 権利能力のない社団への貸付/ 未成年者と金銭貸借/ 実印持参者との金銭貸借/ 貸付先の死亡と金銭貸借/ 個人貸付先の法人成りと金銭貸借/ 貸付先の会社の合併/ 貸付先の法人の消滅/ 更生会社に対する貸付/ 貸付先が更生会社/ 貸付先の破産宣告/ 貸付先に対する意思表示/