保全執行後の申請取下げ

保全処分の執行があった後に保全処分の申請が取り下げられましたが、債権者が執行取消の手続をとらない場合、債務者は、どのような措置をとることができるでしょうか。保全処分命令の申請は、判決手続における訴えに相当します。したがって、申請は民訴法二三六条、二三七条に準じて取り下げることができます。ただし、申請取下げをなしうる時期および債務者の同意の要否については、判例、学説ともに分かれています。申請の取下げにより、申請にもとづいて発生した効果はすべて消減します。したがって、終局判決もしくは決定のあった後に申請が取り下げられた場合には、これらの裁判も、取消を待たずに当然にその効力を失いますが、保全処分手続は、本案訴訟手続における判決手続と強制執告手続との関係と同様に、保全裁判手続と保全執行手続とに区分されているため、裁判手続が効力を失ったからといって当然に執行手続も効力を失うものではありません。したがって、執行の取消しについては保全命令申請の取下げのほかに執行取消申立てが必要です。

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保全処分命令申請が取り下げられたことによりすでに発令されていた保全命令の効力が消滅したにもかかわらず、保全命令にもとづいて前になされていた執行が取り消されずに放置されている場合の執行取消手続はどうなるのでしょうか。通常は、保全命令申請を取り下げる債権者は同時にその執行取消を執行機関に申し立てることになりますが、執行機関が裁判所の場合は、保全命令申請のみを取り下げて執行取消を申し立てない債権者に対しては、あわせて執行取消をも申し立てるようにかなり強力に指導しているのが実状ですが、執行機関が執行官の場合はこれは不可能です。債権者の怠慢や債務者に対するいやがらせ等の理由により、債権者からの執行取消申立てがなされない場合がありえます。かような場合の債務者よりする執行の排除の手続については、民訴法上明文の規定を欠くために、次のとおり、説が分かれています。
事情変更による保全命令取消説、保全命令申請の取下げは命令発令後はできないという立場にたつもので、ただ取下げに表象された債権者の執行保全の意思の放棄を理由として事情変更による民訴法七四七条の保全命令取消決定を得、同決定正本を執行機関に提出して執行の取消を求めるべきだとします。
執行裁判所の執行取消決定説、民訴法七五四条の解放金供託により執行を取り消す場合に裁判所の執行取消決定を得てこれを執行機関に提出するのを類推し、保全命令申請取下げを理由として執行裁判所の保全処分執行取消決定を得て、これを執行機関に提出すべしとします。
執行方法に関する異議説、保全命令申請取下げの後は当該保全処分執行は債務名義なき執行となるため、執行方法に関する異議の理由となり民訴法五四四条により執行取消決定を得てこれを執行機関に提出すべしとします。
民訴法五五○条一号書面説、保全命令申請取下書を民訴法五五○条一号書面に準じて取り扱い、書面を直接執行機関に提出すべしとします。
執行不許宣言決定説、本案訴訟において債務名義が失効したときは執行文付与に対する異議により執行を許さない旨の決定を求めうるのを類推し、保全処分では執行付与を要しないため、保全処分命令の正本を付与した書記官所属の裁判所から正本にもとづく執行を許さない旨の決定を得て執行機関に提出すべしとします。
事情変更による保全命令取消説は、前述のごとく保全処分命令発令後の申請取下げは効力を生じないという前提にたつものであって、発令後も申請取下げがでぎるとの立場にたてば事情変更による取消の対象たるべき保全処分命令自体の存在をすでに欠いており、もはや取消の問題を生じません。他の執行裁判所の執行取消決定説ないし執行不許宣言決定説は、発令後の保全処分命令申請の取下げを認めますが、民訴法五五〇条一号書面説が命令申請取下書をもって端的に民訴法五五○条の書面とするのに対し、他の説は民訴法五五○条を制限的に解しようとします。しかし執行裁判所の執行取消決定説に対しては民訴法七五四条の規定は執行の取消によっても仮差押えの効力が供託金の上に存続する場合であって、保全処分命令の失効により執行行為をすべて取り消そうとする本例の場合とは位相を異にし類推の根拠を欠く、との世判があります。
執行方法に関する異議説に対しては、民訴法五四四条の異議は、債務名義自体の執行力の欠陥を理由としては申立てられないとの批判があり、執行不許宣言説に対しては条文上の根拠がないとの批判があります。民訴五五〇条一号書面説に対しては民訴法五五○条に定める書面中に保全命令申請取下書が明文上含まれていないとの批判があります。
なお、以上とは別に、保全処分命令申請の取下げが同時に執行取消申立ての意思表示を包含するかという問題があります。執行機関が執行官である場合は前述のごとく解する余地はないでしょうが、保全処分命令の発令裁判所が同時に執行機関たる執行裁判所である場合には、反対事情ないかぎり命令申請取下げに執行取消申立てが含まれると解される余地があります。しかし、裁判所は保全処分命令申請取下げの受理に際しては前述の点を釈明させ、執行取消申立てを含む趣旨であれば別にその旨の書面を提出させるか、またはその旨を付記させるかしておくのが妥当です。

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