処分禁止仮処分と滞納処分

処分禁止の仮処分がなされている不動産に対し滞納処分による差押えがあった場合、この差押えにもとづく公売による買受人はその所有権取得を仮処分債権者に対抗できるでしょうか。滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律には、仮処分と滞納処分との関係について規定がありません。一方で国税徴収法一四○条は、滞納処分は、仮差押又は仮処分によりその執行を妨げられないと規定します。そこで、仮処分と滞納処分との関係をどのように解するかが問題となります。仮処分でも金銭債権を被保全権利とするものは、仮差押えと同様に考えうりますが、本問のような処分禁止の仮処分の場合は問題です。滞納処分優位説と仮処分優位説があります。前者によれば、本問買受人は仮処分債権者に所有権取得を対抗できますが、後者によると、仮処分債権者が本案訴訟で勝訴したときには、その確定判決にもとづいて強制執行をすることがでぎると解するため、その場合、本問買受人は仮処分債権者に所有権取得を対抗できないことになります。

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滞納処分優位説では租税は国家存立の基礎として不可欠のものであるため、その徴収については優先的地位が与えられるべきであり、国税徴収法八条が国税は、納税者の総財産について、この章に別段の定がある場合を除き、すぺての公課その他の債権に先だって徴収するとの規定を設けているのは、まさにこれを明らかにしたものにほかならないとします。そして、前記同法一四○条も、この趣旨に則り滞納処分と仮処分が競合する場合、滞納処分がつねに優先し仮処分は効力を失うことを明らかにした規定と解されます。この説は、さらに、滞納処分による目的物差押えの時をもって仮処分はその効力を失うとする見解と、特滞納処分による公売が差押解除されることなく終了した時をもって仮処分は失効するとの見解に分かれます。前者の見解に対しては、滞納処分による公売が中途で差押解除となった場合に、仮処分の効力が回復されずに仮処分債権者の地位が無視されるのは不都合であるとの批判が、後者の見解には、徴税優先主義を強調するあまり、無差別的に仮処分を滞納処分より劣位にたたせているとの批判があります。
仮処分優位説では徴税優先主義の適用をみるのは、国家の程税債権と私人の金銭債権にもとづく強制執行などの金銭債権どうしの権利行使が競合する場合であって、処分禁止仮処分のような金銭債権以外の目的財産に対する特定の物権的あるいは債権的給付請求権を被保全権刊とする仮処分は国税徴収法八条、一四○条の適用外であり、仮処分の効力の消長は仮処分自体の法理論に従うべきと解されます。したがって、本問のごとき処分禁止の仮処分ある不動産について、滞縮処分を遂行することは適法であり、公売による買受人は有効に所有権を取得しますが、後日仮処分債権者が本案訴訟で目的不動産につぎ所有権その他の特定の給付請求権を有する旨の勝訴の確定判決を得たときは、買受人は仮処分債権者に所有権取得を対抗できなくります。また、仮処分債権者は、仮処分中たることを理由として滞納処分に対しなんらかの不服申立てをすることはできませんが、目的不動産に対する所有権その他の実体法上の権利を主張して、行政事件訴訟法五条、八条により滞納処分取消の訴えの提起および同二五条により執行停止の申立てができるとしています。学説では、かつて、滞納処分優位説が支配的でしたが、現在では、仮処分と強制執行の場合と同様、仮処分優位説が有力です。
国税徴収法一四○条に規定する仮処分とは、民訴法によるものはもちろん、破産宣告前の保全処分和議開始決定前の保全処分会社更生手続開始決定前の保全処分その他商法等の規定による仮処分も含みますが、滞納処分と競合抵触しないものや登記や登記簿に記入されないものは、一四○条の仮処分としては問題となりません。なお、仮の地位を定める仮処分は金銭恐怖を目的とする滞納処分との間に競合関係を生じることはありえないとして、これを省く見解とこの場合にも、例えば相続人たる地位に関する訴えを本案としてその相続財産を対象とする仮処分も発せられることがあるから含まないとはいえないとする見解があります。仮の地位を定める仮処分の場合は、滞納処分との競合が問題にならないことが多いでしょうが、含むと解する説が主張するように、競合関係にたつ可能性がある以上、特にこの種の仮処分を除外すべぎではありません。一四○条にいう仮処分か否かは滞納処分と競合接触を生じるか否か、登記または登録の執行を伴う仮処分かということで決めれば十分です。
国税徴収法一四○条が、滞納処分の執行が保全処分により妨げられることなく実施することができる旨規定したものであることは異論がありません。しかし、さらに、保全処分と滞納処分の効力の優劣まで解決したものか否かでは問題があります。一四○条の解釈として、仮処分の効力は消滅すると考える滞納処分優位説と、滞納処分によって仮処分がその効力を失うことまでをも規定したものではないとする仮処分優位説とでは、いずれが正当でしょうか。これには後者の仮処分優位説が正当と解されます。理由は以下のとおりです。
滞納処分優位説は、国税は国家にとって重要であり、一四○条の解釈に際しては、同税優先の原則を考慮しなければならないと主張しています。しかし、国税優先の原則といっても、それは、租税債権と金銭債権である私債権が納税者の同一財産から弁済をうけようとする金銭債権相互間の優劣を決する場合の準則にすぎません。国税徴収法の全面改正にあたっては、徴収の碓保、私法秩序の尊重、徴収制度の合理化の三つの目標が掲げられました。そして、この私法秩序の尊重は、改正法で強い配慮が払われています。租税徴取の確保が重要であるとしても、本来第三者の所有物件を公売していいというわけにはいかず、滞納処分がなされたことにより仮処分の効力がなくなると解するのは、滞納処分優位説の俗の見解いずれによるにせよ問題です。国税優先の原則は、目的財産に対し所有権その他実体法上の権利を有する仮処分債権者の権利を侵害することを許すものではありません。また、滞納処分手続を開始する場合に、目的不動産に処分禁止の仮処分が執行されていることは、国家も買受人も予知しうりますが、仮処分債権者には後からの滞納処分手続を知る機会がなく、行政訴訟手続による救済はあまり期待できません。したがって、行政訴訟法上の救済手段があることを理由に滞納処分を優位に考えるわけにはいきません。
強制執行と滞納処分は、私債権の強制的実現と租税債権の強制的実現という目的の違いがあり、一方は民訴法上の処分、他方は行政機関による行政処分、権利者が一方は私人であり他方は国家と異なりますが、公権力の私法次元への介入、権利移転の態様という点では両者に大きな差はなく、強制執行と滞納処分は統一的に理解すぺきと考えるから処分禁止の仮処分と滞縮処分との関係は、処分禁止の仮処分と強制執行との関係と同じように解されます。

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