処分禁止仮処分と強制執行の競合

甲が乙の不動産に対して処分禁止の仮処分をしているのに、丙がその不動産に対する強制競売を申し立て、強制競売開始決定がなされました。甲は、この強制競売を排除できるのでしょうか。処分禁止の仮処分債権者に優先的効力を明文をもって認めるドイツと異なりそのような法規をもたない日本の法のもとでは、処分禁止の仮処分のなされている財産に対し強制執行ができるか、できるとすれば仮処分債権者と強制執行債権者のいずれが優先するか、仮処分債権者の強制執行に対する救済手段はどうするか、などについて疑問が生じます。この点につき、強制執行優位説、仮処分優位説、析衷説の間に争いがあります。客説が、仮処分の目的物がなにか、被保全権利がなにか、強制執行がいかなる権利にもとづくかなどについて考えることなく処分禁止の仮処分と強制執行との競合を一般的に論じてていることには批判があります。徒来から論じられているのは、不動産に対する譲渡ないし処分禁止の仮処分と金銭債権についての強制執行の関係です。本問は、処分禁止仮処分と強制競売という、まさに従来から論じられている典型的問題であり、ここでは、仮処分の目的物がなにか、被保全権利がなにかなどの問題に立ち入ることは達け、設問の場合を中心に考えていきます。

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強制執行優位説では強制執行法が平等主義を採用していることを重視します。そこから、仮処分は、債務者の任意処分のみを制限するもので、債権者になんらの優先権を与えるものではなく、処分禁止の仮処分がなされている財産に対しても強制執行をなしうるという考えがでてきます。この説は、さらに、仮処分優位説の批判を通じて自説の正当性を主張します。つまり、(1)確定した債務名義による強制執行債権者よりも疎明による仮処分債権者に優位を認めることになり不当であること、(2)仮処分債権者は多くの場合、他の債権者の強制執行に対して第三者異議の訴えを主張できるため、それで自己の権利を守ることができますが、仮処分を優位に考えると強制執行をなしうべき一般全銭債権者は仮処分に対し救済手段がなく権利実行の途が閉されることになること、(3)本問でもそうであるように仮処分と強制執行の競合で一番問題とされている不動産の場合は、順位保全の仮登記仮処分の制度があるからそれによるべきこと、などです。
仮処分優位説では強制執行での平等主義は、金銭執行に関しての原則で、仮差押え中の不動産に対して強制競売が開始されるという場合には平等主義に則って解決をはかるのが妥当でしょうが、それと目的物に対し特定の権利を主張する仮処分と金銭執行が競合する場合を同様に論じるわけにはいきません。処分禁止仮処分は、その目的物が債務者の財産として処分されることを防止することによって債権者の権利を保全するものであるため、処分禁止仮処分の処分は、強制執行優位説が主張するような債務者の任意処分のみを制限するものではなく、強制執行も含むものと解されます。この説は、さらにいくつかの説に分かれます。処分禁止の仮処分執行中の不動産に対する強制競売手続の開始、進行は許されず、もし強制競売手続が開始されたときは、仮処分債権者に仮処分の執行中を理由とする執行方法の異議を認めます。ただし、仮処分債権者が、この異議を申し立てることなく強制競売手続が完了したときは、目的不動産競落人はその取得した権利を仮処分債権者に対抗できると解する説。処分禁止の仮処分が執行されている不動産に対し強制競売手続をすることは許されますが、強制競売による目的不動産の所有権移転の効果は仮処分債権者に対抗でぎず、この効果は仮処分債権者が強制執行手続に異議を申し立てたと否にかかわりないとする説。処分禁止の仮処分執行中の不動産に対する強制競売手続は適法かつ有効で、仮処分債権者は、これに対し執行方法の異議は申し立てられませんが、その本案訴訟で勝訴の確定判決を得ることにより、仮処分執行中の不動産について進められた強制競売の結果を否認することができ、勝訴判決を債務名義として単独で仮処分債務者のためになされた所有権移転登記の抹消、あるいは自己への所有権移転登記の手続をとるとともに競落人のためになされた所有権取得登記の抹消手続をとることがでぎるとする説があります。
析衷説では処分禁止の仮処分は、一般執行機関に対する執行行為の禁止をその内容としませんが、仮処分制度の存在が認められる以上、一般執行機関においてこれを尊重すべきものであるため、その調和点として、強制執行権利者による目的不動産の差押手続は許されますが、換価手続まで進むことは許されず、もし進められた場合は、仮処分債権者は執行方法の異議あるいは第三者異議の訴えをもって強制執行を阻止しうるとします。この説は、実務の実際にあいますが、強制執行がその手続の中途で止められることの理論的根拠が明らかでないこと、仮処分債権者の異議を許す理由に疑問があることから立法論としてはともかく、現行法の解釈としてはとりえないとの批判があります。
従来、学説は強制執行優位説に、実務は仮処分優位説に徒うものが多かったのですが、最近は実務のみならず学説も仮処分優位説の見解が有力です。
強制執行優位説が仮処分優位説に対する批判に以下のごとく答えています。つまり、前述(1)の批判に対しては、仮処分優位も本案の確定判決がでてからの処理であるため、疎明にすぎない仮処分を確定した債務名義による強制執行より優位に扱うことにはならないこと、(2)に対しては、第三者異議の訴えによる救済があるとはいえ、強制執行の手続開始、進行は、仮処分債権者にわからないことが多く、実体法上の権利にもとづいて第三者異議の訴えを提起し強制執行を阻止することはあまり期待できず、もし強制執行が完了した場合は、仮処分債権者は競落人に対して目的不動産の所有権取得を否認する訴えを提起するほかなく、仮処分制度の目的がほとんど没却されてしまうこと、(3)に対しては、目的不動産に対し順位保全のためには仮登記仮処分を利用せよとはいっても、仮登記仮処分が発せられる場合は限定され、その認容も厳格で順位保全の方法としては必ずしも十分でない、との主張です。また、仮処分債務者が強制執行を免れるため馴れ合いによる仮処分執行ならびにその本案訴訟における敗訴判決をうけることを助長するおそれがあるとの批判、および強制競売手続の完了により目的物の権利を取得しても、後にひっくりかえされることのあるのは不都合であり強制執行手続も無駄になるとの批判があります。この批判につき、前者に対しては、強制執行優位説の場合にも逆の現象が起こりうるので、この批判は極め手になりません。後者の批判には、一見確かに不都合のようにみえるが、それは、目的物に対する特定の物権的あるいは債権的給付請求権を被保全権利とする仮処分の目的を十分に考えないためで、金銭債権と本質的に異なるにもかかわらず同列に考えることは誤りです。また、債務者の所有でないものに対する強制執行は許されず、一般金銭債権者や競落人となるべき者は目的不動産につき仮処分執行のあること、その権利の帰属について争いのあることを予知しうるため、仮処分債権者が本案訴訟で勝訴の確定判決を得た以上、強制執行の結果を否認うるとの結果になることはやむをえないと考えられます。

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