移執行

仮差押執行が本執行に移行した後、本執行が民訴法六五六条二項により取り消された場合、仮差押執行の効力はどうなるのでしょうか。保全執行は、将来なされるべき本執行のために現状を保全することを目的とする執行であるため、保全執行ののちに、債権者が本案訴訟において勝訴の確定判決を得るなどして本執行をすることができるようになれば、当然本執行が行なわれるはずです。ところでそのような場合、従来保全執行として行なわれてきたことが本執行に利用されることがあります。例えば、仮差押えが本差押えに転化したかのようにみられる場合があるのです。そこでは、保全執行と本執行の間になんらかの同質性、連続性があると考えられます。それは、保全執行の本執行への移行ないし転移と呼ばれ、また、その際になされる手続は移執行手続と呼ばれています。それでは、移行ないし転移の現象はどのように説明され、また、保全執行は、いつ、どのようにして本執行に移行するとされているのでしょうか。さらに、現に行なわれている保全執行の効力は本執行への移行によってどのようになると解されているのでしょうか。このような点については、周知のように、争いがみられます。

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保全執行と本執行とは互いに別個独立の執行手続きですが、請求権の満足という観点からすれば、両者の間には、仮定的、暫定的処置から終局的、確定的処置へと段階的に連続していく関係が認められます。そこで、両者の手続が重複するときは、本執行のためにあらためて同じ手続をくり返す必要はなく、保全執行でなされた手続をそのまま本執行でなされた手続きとして取り扱うということが、訴訟経済の原則ないし執行の迅速の理念に合致すると考えられます。本執行では、直ちに、保全執行としてなされた手続の次の段階の手続に進むことができることになります。移行、転移とは、このような手続利用をさしていると思われますが、判例・学説の説くところは必ずしも一致していないようです。
保全執行がいつ本執行に移行するかについては、(1)本案についての債務名義が成立した時、(2)執行力ある判決正本送達の時、(3)本執行申立ての時、(4)本執行が現実に開始された時とする説が対立し、判例も分かれています。現在のところ(3)説が最も有力ですが、(4)説もかなり強く主張されています。保全執行と本執行とは別個独立の手続であること、債務名義を得ても本執行の申立てをするか否かは債権者の意思にかかっていることなどから考えると、(1)説(2)説は採ることができないとされているのです。それでは(3)説(4)説のいずれが妥当でしょうか。結論は留保しますが、保全執行の目的がいつ達成されたとみるかによって決定されてくるように思われます。
保全執行が本執行に移行した場合、本執行では直ちに次の手続段階に進むことができるはずです。しかし、本執行の具体的な執行行為がどのような手続から始められるかについては、移行の時期についての争いともからみ、問題が残されています。
有体動産の仮差押えが本差押えに移行した場合には、執行官は直に競売手続に進むことができ、また、金銭債権の仮差押えの場合には、直ちに転付、取立命令から行なうことができる、と解するものが学説には多いのですが、実務の取扱いは必ずしもそのようではなく、仮差押えの封印を援用して本執行の差押えをする旨のいわゆる移行調書を作成したり、あらためて債権差押命令を発したりしているようです。なお、不動産、船舶の本執行においてはあらためて競売開始決定をすることが必要であるという点については、争いがないようです。
仮処分の態様はさまざまであり、本執行への移行の問題が考えられるにしてもまったく観念的でしかない場合もあります。それらに対し、例えば執行官保管の占有移転禁止仮処分のような場合には、債務者の占有を解くという引渡執行の最初の段階がなされているため、本執行に移行すれば、執行官はあらためて目的物の占有を取得する必要はなく、直ちに債権者にその占有を得させればたりる、と解されています。
保全執行が本執行に移行したときは、保全執行はその本来の目的を達して終了し、保全執行の効力もそのときから将来に向かって消滅します。したがって以後は本執行による効力のみが存続する、と解するのが現在の通説です。しかし、本執行に移行したのちも、保全執行は、本執行と並行して保全執行の効力を維持しつつ進行し、本執行の執行目的達成によりその保全の目的も達成し消滅するにいたるとする説や、保全執行は本執行の一部となり、当然に本執行とその存続の運命をともにするとする説などもみうけられます。
保全執行が本執行に移行したのちに本執行が効力を失った場合に、保全執行は移行前の効力を維持ないし回復するか否か、という本設問に直接関係する問題については、学説上対立がみられます。通説の立場を前提とすれば、移行によって消滅するはずである保全執行の効力が復活ないし回復する場合がありうるかということになりますが、この点については大別すれば、次のような二つの考え方があります。
絶対的否定説、これは、保全執行が本執行に移行すれば、保全執行の効力は完全に消滅し復活することはないと解するものです。ただし、この説によっても、仮執行宣言付判決にもとづく本執行が取り消された場合については、問題が残されているようです。
条件付肯定説、これは、本執行への移行によって保全執行の効力が消滅するのは、保全目的の到達によるものであるため、移行後に本執行が申立ての取下げや債務名義たる仮執行宣言付判決の取消によって終了した場合のように、保全目的が究極的には達成されたとみられないというときは、保全執行の効力は復活すると解するものです。
仮差押執行が本執行に移行したときは、仮差押執行の効力はそのときから将来に向かって消滅する、と解するのが現在の通説であることは、前述したとおりです。それでは、その後本執行が民訴法六五六条二項によって取り消された場合、仮差押執行の効力は復活するでしょうか。
下級審判例では、移行後も仮差押執行の効力が復活ないし維持される場合のあることを認めながら、本執行が民訴法六五六条二項により取り消された場合はその場合に該当しない、とするものが二つみられます。その結論の当否はともかく、これらの判例は、仮差押の執行を本執行に移行させたことが違法であること又は結果において違法に帰したことに由来するときとか、結果的に本執行の開始続行がなされるべきでなかったことによってその開始続行が取り消されたときなどには、仮差押執行の効力が復活ないし維持されるとみています。しかし、それらの基準は必ずしも明瞭ではない点が指摘されています。

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