仮処分目的物の特別換価

処分禁止仮処分の対象となっている商品につき、その価格が相場の変動により大幅に下落するおそれがある場合に、執行裁判所に商品の換価命令を申し立てることができるでしょうか。金銭債権または金銭に換えることのできる請求権の執行を保全するため、設問の商貧のような有体動産に対し、仮差押命令の執行がなされた場合には、強制執行に準じ、その最初の段階である差押えを行ないますが、そこまでにとどめ、その後の競売手続にはいらないのが原則です。しかし、目的物件に署しい価格の滅少を生じるおそれがあるときや貯蔵について不相当な費用を生じるときは、執行裁判所が、申立てによって目的物件を競売に付し売得金を供託すべきことを執行官に命じることができるものとしています。持別換価命令といわれるものですが、仮差押えにおいては、金銭債権の執行を終局の目的とし、いずれは本執行による換価が予定されるのであるため、このような例外的場合に、換価にいたることはむしろ合理的であるといえます。これに対して、商品に対する処分禁止の仮処分は、係争物に関する仮処分と呼ばれ金銭の給付以外の特定物の給付を目的とする請求権を保全するためのものですが、商品がこの種仮処分の目的物になった場合でも、値下がりや腐敗などのおそれが生じることは仮差押えの場合と事情を異にしないため、そのようなおそれのあるとき、民訴法七五○条四項後段の規定を準用して換価する余地があるかどうかが問題になるのです。これを肯定しようとすれば、仮処分は金銭債権の執行保全を目的とするわけではないのに、目的物を換価し金銭に換えてしまうことが仮処分の目的と性質にそうかという疑問を生じます。しかし他面、そのまま放置し無価値のものとなってしまえば、債権者は給付を求めること自体に経済上の利益を失ってしまうことになり、それだけでなく、物の引渡し等を目的とする場合でも、所詮は財産権の争いであるため、実際的解決としては、目的物を金銭的価値にかえて保存しておき終局的には金銭的補償によって満足せざるをえないと考えられる場合も多く、この点で仮処分の場合にもその準用を肯定する余地が生じるのです。

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否定説として大決昭和三年六月二○日がその典型であり、仮差押は金銭債権の執行の保全を目的とするが故に、其の物を競売を売得金を供託すと云うこと必ずしも其の本来の目的に背反することなし。然るに仮処分は特定の給付を目的とする請求の執行を保全することを目的とするものなるが故に、若し債権者にして共の固有の請求を実現するに意ある以上この如き換値を為すことは其の本来の目的に背反するものにして、従て換価の説定たる民事訴訟法第七百五十条第四項は仮処分には其の準用なきものと云はざるべからずとし、このような場合には仮処分命令またはその執行の申立てを取り下げるほかはなく、本案訴訟で将来の損害賠償請求を予備的に追加し、その保全の方法として仮差押命令を得よという。仮差押えによって本来の換価命令を得ればたりるというのです。学説の否定説もほぽ同旨の理由づけをし、この場合、債務者には持別事情による取消や換価を目的として仮の地位を定める仮処分を求める方法があることを示唆しています。
肯定説としては、大津昭和九年二月八日は、債権者があくまで給付請求を維持してその実現を希望するときは、換価することはその趣旨に反するから準用されないのが原則ですが、債権者は特定給付の請求を固執せさる場合堪からず。即ち債権者が現在又は将来に於て特定給付の履行を受くる能はざるを慮り、債務者に対する賠償請求権の行便を以て満足し其の請求権の保全を番望するに於ては、仮処分の目的とする所は金銭的補債に依りて達せられたりと謂ひ得べきを以テ、民事訴訟法第七百五十九条に所謂特別の事情ある場合に該当するものにして、民事訴訟法第七百五十九条を準用して積務者より保証を立て仮処分の取消を求むることを得るは勿論なるも、債権者に於て仮処分の目的物の売却を求め其の代個を供託せしむるも、請求権保全の趣言に反するものに非ずと謂ふ可し。特に、民法第四百九十七条ノ法意を民事訴訟法第七百五十条第四項の規定に対照して之を観れば、仮処分の目的物が減失毀損するの虞あり又は署しき価額の滅少を生じ若くは貯蔵に不相応なる費用を要するが如き場合に於ては同法第七百五十条第四項の規定に準拠じて該目的物の換価命令を中請し得べきものと解するを相当とす。と述べており戦後の下級審裁判例は一部を徐き多数が準用を肯定しています。換価の目的となったものには、立木、林木、伐倒木、自動車が多く、そのなかで、実用新案法二七条にもとづき実用新案権の侵害行為を組成する物件の廃棄請求権を被保全権利として物件に対する執行吏保管の仮処分を得た者がその換価を申し立てた事案につき、物の引渡しを求めるものでないとして申立てを却下した事案が限界を示すものとして参考になります。学説も肯定説が多数です。最高裁判例で直接この点にふれたものはありませんが、肯定説にたつものと理解して妨げません。
準用否定説をとるときは、債権者は仮処分申請を取り下げたうえ、仮差押えに切りかえ、または仮の地位を定める仮処分によって、換価しうる池位を得ることとなりますが、その方法が迂遠なことはひとまずおくとしても、仮差押えの方法によるときは、他に一般債権考が競合するとき平等主義のたてまえ上はたして満足を得られるかについて不安定な地位に堕することは論者の私的するとおりであり、肯定説によれば換価金そのものの引渡しが認められることに比べて、その地位には雲泥の差の生じることに留意しなければなりません。肯定説を是とすべきです。

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