起訴命令と保全処分命令の取消

起訴命令に定められた起訴期間内に債権者が本案訴訟を提起しなかったので、債務者がこれを理由として保全命令の取消を申し立てたところ、取消訴訟が控訴審に係属中に、債権者は被保全権利につき調停を申し立てました。取消訴訟の係属する裁判所は保全命令を取り消すことができるのでしょうか。保全訴訟においても被保全権利の在否について判断されますが、それは疎明による暫定的、仮定的な一応の判断であり、被保全権利である私法上の権利または法律関係の存否の証明による終局的判断は本案訴訟においてなされるぺきことが留保されています。保全処分命令の執行をうけた債務者は、異議申立て、その他各種の執行取消申立てによって保全処分そのものに対する救済を求めることができますが、これらによらず、または、これらの放済手段とならんで被保全権利について本案訴訟によって終局的判断を得て、より根本的に紛争の解決を目指すこともできます。本案訴訟提起の遅延は保全処分の存続期間をそれだけ延長するため、債務者としては一刻も早く本案手続の開始されることに法律上正当な利益をもつことはもとよりですが、債権者としても、権利実現を企図し、強力な保全処分を得た以上、可及的速やかにその前提たる本案訴訟を起こすべきであり、いたずらにこれを遷延させるのは保全処分制度を濫用するか、少なくとも権利実現に熱意を欠く者とみなければなりません。かかる者のために債務者のごとき正当の利益を犠牲に供することは許されないので、債務者をして保全処分による暫定的、浮動的拘束状態から脱却させるため民訴法七四六条は、本案訴訟未係属のときは、仮差押裁判所は債務者の申立てにより口頭弁論を経ずに相当の期間内に本案訴訟を提起するよう債権者に命じ、債権者が本案訴訟を提起することなくこの期間を経過したときは、債務者の申立てにより終局判決によって仮差押を取り消すぺきことを規定し、この規定は同七五六条によって、仮処分にも準用されています。これが起訴命令の制度です。そしてここで問題となるのは、裁判所から命じられた期間経過後であっても、本案訴訟の提起が適法とされるか否か、本案の手続として是認される種類のものはなにかということです。

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起訴命令は通常、この決定送達の日から一四日以内に管轄裁判所に本案訴訟を提起しなければならないというように発せられますが、債権者が、この期間を経過すれぱそれ以後に本案訴訟を提起しても、もはや保全処分の取消を免れることはできないか、それとも、その後一定の手続段階までであれば起訴は適法となり保全処分の取消を免れることができるかの問題です。
期間経過後起訴が適法とされる段階としては、(1)債務者の取消申立てがあるまで、(2)第一審口頭弁論終結まで、(3)第一審取消判決があるまで、(4)第二審口頭弁論終結まで、(5)第二審判決時まで、の各段階が考えられますが、(3)および(5)は弁論の再開でもないかぎり起訴しないことを主張、立証する機会がないため、実際は(2)および(4)の説とそれぞれ同説ということになります。判例は、攻撃防御方法の提出は取消判決に接着する口頭弁論終結時まで提出できることを理由とし、その後はこの理由は捨て訴訟経済の観点からさらには、起訴命令は、本訴を提起させることを主眼とするもので、仮差押えを取り消すことを主眼とするものではありません。したがって、指定期間は猶予的性質を持つものと解すべきであるところ、いつまでという法文上の根拠はないため、民訴法の通常の通論に徒うべきであることを理由として(4)説を採り、(1)説に対しては、該説によるときは期間に猶予性があると解する越旨がほとんど没却されることとなるので賛成できない、としている学説にも(4)説をとるものがあります。これに対しては、該制度は、債権者の横着に対する制裁をも目的としているものであること、該制度によって保障された債務者の法規上の利益を訴訟経済という一般的条項によって阻害することは許されないことを理由として期間徒過によって取消の要件は完成し、以後の訴え提起によっては保全処分の取消を免れることはできないと解すべきであるとする批判があります。判例と批判にみるように期間を厳守すべしとする説の中間にこの問題については、支払命令に対する仮執行宣言の申立て後に異議申立てのあった場合に関する民訴法四三八条一項但書の趣旨を類推すべきであるとして(3)説をとるもの、および、取消の裁判を口頭弁論にもとづかしめる現行法は、口頭弁論終結時までの本案の提起を許すものと解すぺきであり、それは、訴訟経済にもとづくものではなく、立法の遂行した利害衡量そのものの問題であって、この観点からすれば、第一審判決までの普通の推移において時機に遅れずに提出しうる抗弁の内容として顕出しうるかぎり、期間経過後でもかまいませんが、第一審判決以後およびそれ以前でも債権者の責めに帰すべき事由でこの時点を署しく遅れて起こされた訴訟には、起訴命令遵守が認められないとする説があります。
注目すべきは近昨、下級審判決のなかに結論的には従前の判例と同じく前記(3)説を採りながらも、訴訟経済という観点のほか、当事者間の利益の均衡をはかるという観点から具体的事情を考慮して提起された本案訴訟の起訴命令遵守の当否を判断すべきであるとするものがあらわれてきていることです。厳格説によると、期間徒過による取消の可能性をねらって起訴命令の申立てが増大し、異議申立てなどの機能が減殺されるおそれが考えられ、他方、民訴法四三八条一項但書を根拠として(3)説をとることは、仮執行宣言後の支払命令に対する異議は宣言前のそれとは性質を異にすることから賛意を表しえないので、他に根拠のないかぎり、時的限界としては前記最高裁判決のいうごとく(4)読を採らざるをえません。とすれば、期間が長くなって債務者が被る不利益救済を考える必要があり、これを調和するものとしては判例のいう訴訟経済の観点の背景をなす当事者間の利害の均衡を考えるのが最も適切と考えられます。

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