異議訴訟での申請の変更

保全命令に対する異議の訴訟において、債権者は、保全処分申請の趣旨や申請の理由の変更をすることができるでしょうか。保全処分の申請にあたっては、中請の趣旨ならびに申請の理由を掲げなければなりません。申請の趣旨は、どのような内容の保全処分を求めるのか、ということです。まず、仮差押えにおいては、被保全金銭債権の執行を保全するため債務者の財産を仮に差し押える旨の宣言を求めることです。実務上はたんに、債務者の財産を仮に差し押えるというにとどまらず、仮差押目的物の種類にょって有体動産仮差押え、債権仮差押え、不動産板仮差押えに区別し、特に債権仮差押え、不動産仮差押えでは目的物の表示を要求していますが、その表示は、保全命令の申請としてではなく、申請が認容される場合を予想してその執行の申立てが付加してなされているにすぎないものと解されています。また、仮処分申請においては、理論上は申請の越旨として具体的処分内容を掲げる必要はないと解されていますが、債権者の要求の範囲と仮処分申請の目的とを判定するに必要な限度において具体的な処分内容を明示しなければなりません。申請の理由は、被保全権利と保全の必要性からなり、これを表示することを要する被保全権利は、訴状における請求と同様に一定の実体法上の権利または法律関係として他と識別でぎる程度に特定することを要し、その法律要件事実が充足されていなければならないとされる。保全の必要性は、保全処分の種類により異なりますが、仮差押えにおいては、債務者の総財産の現状の変更により将来における金銭債権の執行が不能もしくは著しく困難になるおそれがあるという事情であり、係争物に関する仮処分においては、係争の特定物の現状の変更により将来における引渡し等の執行が不能もしくは著しく困難になる危険があるという事情であり、仮の地位を定める仮処分においては、権利関係が確定しないことから生じる債権者の著しい損害を避け、もしくは急迫な強暴を防ぐため、またはその他の理由により暫定的な地位を形成する必要があるという事情です。したがって、本問は、この意味における申請の趣旨、被保全権利および保全の必要性の変更の可否ということに帰するのであり、それぞれの場合に分けて考察することが必要ですが、基本的には、異議訴訟の構造をどのように理解するかということにかかわる問題といえます。

スポンサーリンク

お金を借りる!

異議訴訟の構造に関する見解を大別すると次の三説となります。
第一説は、異議の申立てを保全処分命令の取消、変更を求める申立てと解する説であり、ごく少数の者がこれをとっています。
第二説は、異議の申立てを口頭弁論を開いて保全処分申請の当否について判決で裁判することを求める申立てと解する説です。
第三説は、両者の中間的な見解で、異議の申立てを保全処分申請の当否とともに、保全処分命令の当否について判決による裁判を求める申立てと解する説であり、今日の多数説といわれています。
このように異議訴訟の構造に対する理解の仕方には大きな対立があって帰一するところがない現状にあります。ただ、現在の実務を前提にすると、第一説によって割り切ることは困難であり、第三説が比較的落ち着きのよいところといえますが、この説は異議訴訟の構造という基本的問題の捉え方としてはやや便宜的な色彩がないでもありません。基本的には第二説にたちつつ、具体的な問題については、執行力ある保全命令がすでに出されていることから審判の結果としては命令の認可、変更、取消という形であらわれざるをえないという現実を考慮して個々的に決定していけばたりるのではないかと考えられます。
異議訴訟の構造をこのように理解するとしても、なお本設問に答えるには一般的な問題として民訴法二三二条が保全訴訟についても準用、ないしは適用されるかという理論的問題を検討しておかなければなりません。これは申請の趣旨の変更、申請の理由の変更の両者にまたがる問題だからです。この点については、一方の権利についての保全命令を他方の権利の保全命令に流用することになれば、保全債権者に著しい優越性を与えるとの理由から異議訴訟手続における同条の準用を否定し、同条の準用は保全訴訟手続について当初から口頭弁論を開いて審理する場合にかぎられる、との見解があります。しかし、同条の総則的規定に照らせば異議訴訟についてのみその準用を排斥する根拠は乏しいのみならず、保全処分が緊急の事態に対処するため、時間的な制約のなかでとりあえず債権者の側にある手近な資料だけにもとづいてなされるものであることを考慮すれば、異議訴訟における被保全権利の変更についてあまりに厳格な解釈をとるときは、逆に債権者に過酷な結果となり、不当といわなければなりません。このように、保全訴訟の有する緊急性に着目すれば、むしろ積極的に異議訴訟においても民訴法二三二条の準用があるものと解するのが相当です。
したがって、異議訴訟においても、請求の基礎に変更がないかぎり申請の趣旨、理由の変更が許されるというべきですが、申請の基礎の同一性の有無の基準については本案訴訟における請求の基礎の同一性の有無についての基準と同様の考え方があてはまります。ただ、この要件が債務者を保護するためのものであることは本案訴訟の場合と同様であるため、債務者が同意し、または変更後の申請について口頭弁論で異議なく応訴した場合は、この制限をうけないというべきです。
次に、申請の基礎に変更がないか、または債務者の同意もしくは応訴があった場合であっても、手続を署しく遅滞させるときは申請の変更が許されないことも本案訴訟の場合と同様です。そして、この制限は、保全訴訟を貫く迅速処理の要請や新たな保全命令申請が本案における別訴の提起よりも容易に可能であることなどを考慮すれば、本案訴訟の場合よりも一層厳格に適用する余地があるように思われます。

お金を借りる!

保全処分の保証額/ 立保証のための期間/ 担保取戻し/ 保証に対する債務者の権利行使/ 仮差押えの目的債権と給付訴訟/ 占有移転禁止仮処分/ 家屋の占有移転禁止の仮処分/ 仮処分違反の占有移転/ 処分禁止仮処分の効力/ 仮処分の競合/ 不作為を命じる仮処分/ 異議と取消申立て/ 異議訴訟での申請の変更/ 仮処分に対する異議/ 仮処分の帰すうと異議訴訟/ 起訴命令と保全処分命令の取消/ 事情変更による保全命令の取消/ 特別事情による仮処分の取消/ 断行仮処分と原状回復/ 保全執行の申立て/ 保全命令の執行期間/ 仮処分目的物の特別換価/ 不動産仮差押としての強制執行/ 移執行/ 仮差押えと強制執行/ 処分禁止仮処分と強制執行の競合/ 処分禁止仮処分と滞納処分/ 保全執行後の申請取下げ/ 保全執行の取消し/