異議と取消申立て

仮差押、仮処分を命じる決定に対し異議を申し立てた債務者が、その訴訟の係属中に、さらに事情変更や起訴期間の徒過、特別事情にもとづいて保全命令の取消を申し立てることができるでしょうか。保全処分に対する債務者の救済手段としては各種のものがあります。その主要なもののうちの一つは保全処分が口頭弁論を経ず決定または命令の形式でなされたとき口頭弁論を開いたうえ、債権者の主張する被保全権利および保全の必要性の存否について債務者側の主張も取り入れて再審理し、さきに発した保全処分命令を認可するか、取り消すかの判断を求める異議申立てです。事情変更による取消申立ては、保全処分命令発令後の被保全権利、保全の必要性の変更し消滅を主張して保全処分命令の取消を求める申立てであり、特別事情による取消申立ては、保全処分の要件の存在を争うものではなく特別の事情のある場合、保証をたてることを条件としてさきに発令された命令の取消を求める申立てです。起訴期間の徒過による取消申立ては被保全権利の終局的確定をはかるべく、本案訴訟の提起を命じられた債権者が提訴しなかったことを理由として保全処分命令の取消を申し立てるものです。

スポンサーリンク

お金を借りる!

異議申立ては、その審理の対象が申請の当否か、原決定の当否かについては争いがありますが、いずれにせよ、原決定にいたるまでの手続の続行として、異議申立てをしたのは債務者であるのにかかわらず、債権者は能動的当事者として、保全処分の要件である被保全権利、保全の必要性の存在を主張し、かつ疎明し、債務者は保全命令の理由のないことを示す一切の事由を主張し疎明します。これに対し、他の取消申立てにおいては、取消申立てをした債務者が能動的当事者として、事情の変更したこと、特別事情のあること、起訴期間を徒過したことを主張し疎明する。かくのごとく、保全処分命令に対する救済手段として異議申立てとその他の各取消申立てとは、条文上も別個の救済手段とされ、また、手続構造も異なっています。しかし、反面、異議申立ての際の異議事由とされるものは、債権者の仮処分要件存在の主張に対し、債務者の側からする保全処分命令の存在を争う一切の事由と考えられていることから、債務者は事情変更や特別事情の主張をも異議訴訟でなしうることとなります。この点、学説上も異論なく、判例によっても認められている起訴期間経過による取消については、これを異議事由とみるか否かについて争いがありますが、異議が保全処分要件の存在を争い、ひいては保全処分命令の存在を争うものであること、特別事情による取消をも異議事由となしうること、異議訴訟が原則的な救済手段であることから、これを肯定します。そこで、すでに異議訴訟が係属している場合、該訴訟のなかで、各取消事由を主張せず、別に取消申立てをすることができるかが問題となるのです。
債務者は保全処分が当初から要件を欠き不当だったこと、またはその後に基礎条件が変動し、保全処分の存続が不当となったこと、あるいはこの両者を主張して、異議申立てをなしうるし、存続の不当性のみを主張するときは事情変更による取消の申立てをなしうるのであって、そのいずれによるかにつき選択権を持ちますが、両訴訟のうち、いずれがか係属している以上第二の申立ては権利保護の必要を欠くため、異議申立てとこの取消申立てとは同時に主張しえないとするもの、手続の対象は異議においては保全請求権自体であり、取消訴訟においては保全命令の 取消権自体であるから二重訴訟禁止の規定は当然適用はありませんが、二重訴訟禁止の立決理由からすれば二三一条の規定を類推適用すべき場合であるため、この二つの申立ては同時になしえないとするもの、異議訴訟のほかに同時に、これらの取消訴訟が係属している場合には、これらを異議事件に併合せしめず、いったんこれらの申立てを取り下げたうえ、あらためて異議訴訟における抗弁として主張させるのが相当であるとするものなどがあります。以上の競合否定説は、異議申立て、取消申立てについて、債務者に選択権のあることを前提にしつつ、これらが同時に存在することを許さないとするものですが、これに対し、日本の母法となったドイツ法は、仮処分決定に対してはまず口頭弁論にもとづく仮処分申請適否の審判が行なわれ、その確定判決に対して事情変更や特別事情による取消の申立てが許されるという建前をとっており、現行法においてもこの建前を崩さなければならない理由がないこと、審理の重複や裁判の抵触が生じることを理由に、保全処分決定に対しては債務者はまず異議申立てをし、その訴訟で事情変更、特別事情を主張して確定判決を得た後はじめて、事実審の口頭弁論終結後の事由にもとづぎ事情変更による取消申立てができるとして競合自体を否定する説もあります。
競合肯定説では異議申立てと事情変更等による取消申立ては、その手続および申立てを異にします。民訴法七四七条一項の仮差押の認可後と推もとの規定は、保全処分の認可前でも当然事情変更等による取消申立てを許す趣旨と解すべきです。民訴法の体系が債務者のために両者の手続の併存を認めていることを理由としてあげるほか、異議訴訟で取消申立ての事由を抗弁として主張できるということは、つねに異議訴訟における抗弁として提出しなければならないというものではありません。異議訴訟で主張したかった事情変更等の主張は民訴法五四五条二項の適用により後の取消訴訟で主張できないとするのは、これらの手続がもともと別個の構想のもとにおかれたものであることを考えると妥当を欠きます。通常訴訟において別訴で係属する訴訟物たる債権をもって相殺を主張できるかについて、多数読はこれを積極に解していますが、本問はこれにある点で類似する問題であるから積極に解すぺきことを理由とし、この説を通説および実務の取扱いとしつつ、疑問を抱きつつも該説に加担し、理論的には透徹したものとはいえませんが、実際的な処理の観点からすれば支持しえないことはないとする説です。
折衷説では理由は明示されませんが、異議事件の係属が同時に存在し、または先行する場合には取消申立事件は権利保護の必要がないので許されませんが、逆の場合には併存を認める余地があるとする説です。
実務の取扱いは競合肯定説にたちながら裁判の抵触、審理の重複を避けるため、債務者の希望により、異議事件を債楕者の同意を得て廷期し、取消申立事件のみを先行せしめ、または、取消申立てを取り下げてあらためて異議訴訟においてこれを主張させるなどして、重複を運用の面で解決しているといわれます。

お金を借りる!

保全処分の保証額/ 立保証のための期間/ 担保取戻し/ 保証に対する債務者の権利行使/ 仮差押えの目的債権と給付訴訟/ 占有移転禁止仮処分/ 家屋の占有移転禁止の仮処分/ 仮処分違反の占有移転/ 処分禁止仮処分の効力/ 仮処分の競合/ 不作為を命じる仮処分/ 異議と取消申立て/ 異議訴訟での申請の変更/ 仮処分に対する異議/ 仮処分の帰すうと異議訴訟/ 起訴命令と保全処分命令の取消/ 事情変更による保全命令の取消/ 特別事情による仮処分の取消/ 断行仮処分と原状回復/ 保全執行の申立て/ 保全命令の執行期間/ 仮処分目的物の特別換価/ 不動産仮差押としての強制執行/ 移執行/ 仮差押えと強制執行/ 処分禁止仮処分と強制執行の競合/ 処分禁止仮処分と滞納処分/ 保全執行後の申請取下げ/ 保全執行の取消し/