不作為を命じる仮処分

債務者に対して、午後9時以隆その工場の夜間操業をしてはならない旨の仮処分がなされているのに、これに違反して夜間操業が続けられている場合、債権者はどのような措置を求めることができるのでしょうか。近年における無秩序な都市の過密化、工業生産の高度化は、必然的に公害、環境破壊をもたらしました。本設問の工場騒音は、建設騒音および交通騒音とともに騒音公害の一類型として、公害問題において重要なる比重を占めています。これらの救済策の一つとして訴訟制度、特に判決碓定にいたるまで長期間を要する本案訴訟よりもより簡易、迅速な仮処分制度が利用され、所有権、占有権あるいは人格権等にもとづく妨害排除または妨害予防請求権を被保全権利として、仮処分命令の申請およびその執行が求められます。この種仮処分においては、各場合における侵害行為に応じて、不作為を命じる仮処分命令と作為を命じる仮処分命令があります。これらの仮処分命令に対し、債務者が任意に履行すれば問題ありませんが、履行しない場合には、これを強制的に実現しなければなりません。仮処分命令の執行は、民訴法七五六条、七四八条により強制執行の規定が準用され、代替的作為を目的とする債権の執行は代替執行、不代替的作為を目的とする債権の執行は間接強制不作為を目的とする債権の執行は、間接強制および違反が物的状態を伴う場合には代替執行による物的状態の除去、違反が反復的または継続的になされる場合にはその予防のための適当な処分による、と解されています。

スポンサーリンク

お金を借りる!

仮処分命令は、これが債務者に告知されることによりその内容に従った効力が発生し、執行可能となります。不作為仮処分の執行は当該仮処分命令の送達によって行なう、といわれることがありますが、告知は、執行によって実現されるべき不作為義務を具体化するために債務者に禁止規範を知らせるものであって、裁判内容の強制的実現という意味の執行そのものではなく、告知自体を執行と混同すべきではありません。執行期間について、民訴法七四九条二項を不作為仮処分の執行にも準用し、違反行為がなされた時を同項にいう一四日の期間の起算日とする見解もありますが、不作為仮処分は、債務者が義務違反をなさない以上執行はありえないので、同項の準用もありえず、ただ、純然たる不作為命令のほか、公示をなすべき旨や一定の物の執行官保管が定められてある場合は、これらについて準用されます。
不作為義務はすべて不代替的であるので、現在その違反がなされていれば、間接強制により履行を強制できます。執行裁判所は、債務者を審尋したうえ裁量により、相当の期間を定めその期間内に義務違反行為をなしたときは遅廷の期間に応じた賠償金の支払いを命じるか、あるいは直ちに一定金額の賠償を支払うべきことを命じることにより履行を強制する賠償金の額については、債務者の履行遅滞により生じるべき実際の損害を基準とすべきではなく、義務違反行為の心理的強制手段として課されるものであるため、債務者に対する強制の実効を確保する見地より、行為の性質、債権者の必要、債務者の態度等を考慮したうえ決定すべきです。債権者は、即時賠償命令は無条件に、制裁予告決定は予告後の義務違反を条件として、金銭執行の方法でこれを取り立てます。
債務者が不作為義務の内容として受忍義務を負うにもかかわらず、債務者またはその指示に従う者が人力によって抵抗をなす場合、民訴法五三六条二項を類推して、債権者は執行官に申立てその立会いを求め、実力をもってこれを排除しうる、との見解があり、執行官手続現則五六条もこれを認めるごとくです。しかし、この場合の債権者の行為は、あくまで私人としての行為で執行機関の執行行為たる実質を有しないので、条項の類推の余地はなく、規則も執行を前提とする以上債権者の行為には適用しえません。
現在義務違反行為がなされていなくとも、反復的または継続的不作為義務につき過去に違反行為があった場合、あるいは違反するおそれのある場合、事前の予防手段として間接強制をなしうるでしょうか。一定時の不作為はその時期まで履行期は到来せず、また、反復的、継続的不作為も違反のない間は履行されている関係上、執行開始の要件は存在しないので事前の間接強制は許されず、したがって占有保全請求権のように実体法上予防的作為の請求が認められている場合はこれにより、その他別個の仮処分が認められればこれによるほかない、として否定するのが通説です。これに対し、民訴法七三四条は文言上必ずしも事前の間接強制を禁じるものではなく、むしろ立法の沿革よりすればこれを認める趣旨であること、および不作為義務は違反後においては事後に追完的に実現することが不可能なのでその必要性が高いことを強調して、他の執行開始の要件の具備を前提に、賠償の予告の段階までは執行しうる、との見解が主張されています。これは人格を尊重し、また対人強制をなるべく避けんとする近代法思想、およびこれを基礎とし間接強制を制限的にしかも最後の手段とする現行法の基本的構成に重きをおくか、現行法の不備、不完全を補い間接強制の心理的威嚇効果を強めんとする現代的要請により重きをおいて柔軟に解釈すべきかの問題でもあります。賠償の予告の段階までであれば、命令の心理的威嚇効果が具体化しこそすれ、他にこれによって現実の弊害が生じるということは考えられず、必ずしも債務者の人格の尊重にもとることにもならないので、他の執行開始の要件の具備を前提に制裁予告決定の段階まで、事前の間接強制を肯定すべきです。
債務者の不作為義務違反が物的状態を残す場合、債権者は、代替執行、つまり執行裁判所に申立てて授権決定を得、債務者の費用をもってこれを除去することができます。理論的には、不作為義務は、違反後においては追完的履行が不可能なので、もはや違反部分について執行の余地はありません。この意味で、物的状態の除去を認めることは不作為義務自体の内容を越えた執行を与えている、といわれます。ただし、物的状態の除去は、命令の告知後に生した部分にかぎることは当然で、それ以前のものは別個に作為仮処分決定を得て執行します。
将来も不作為義務違反を反復、継続する場合には将来の為め適当の処分をなすことが認められるこれには、一般に将来における義務違反の反復予防に効果的であるかぎり制限なく、違反の原因たる物的状態の除去、違反を防止する物的設備の設置、将来の損害に対する担保の提供および遠反ごとに一定の賠償金の支払いを命じること等が含まれ債権者は、この裁判にもとづきその内容に応じて代替執行または金銭執行をなすことができる、と解されています。

お金を借りる!

保全処分の保証額/ 立保証のための期間/ 担保取戻し/ 保証に対する債務者の権利行使/ 仮差押えの目的債権と給付訴訟/ 占有移転禁止仮処分/ 家屋の占有移転禁止の仮処分/ 仮処分違反の占有移転/ 処分禁止仮処分の効力/ 仮処分の競合/ 不作為を命じる仮処分/ 異議と取消申立て/ 異議訴訟での申請の変更/ 仮処分に対する異議/ 仮処分の帰すうと異議訴訟/ 起訴命令と保全処分命令の取消/ 事情変更による保全命令の取消/ 特別事情による仮処分の取消/ 断行仮処分と原状回復/ 保全執行の申立て/ 保全命令の執行期間/ 仮処分目的物の特別換価/ 不動産仮差押としての強制執行/ 移執行/ 仮差押えと強制執行/ 処分禁止仮処分と強制執行の競合/ 処分禁止仮処分と滞納処分/ 保全執行後の申請取下げ/ 保全執行の取消し/