仮処分の競合

甲は、乙からその所有する家屋を買い受けたが、乙が登記移転をしないのでその家屋について処分禁止の仮処分をしたが、それにもかかわらず乙は家屋を丙に譲渡し、丙も乙に対して処分禁止の仮処分をするにいたりました。甲または丙が乙に対する本案の確定判決を得て所有権移転登記の申請をしたときは、どのような処理がなされるべきでしょうか。仮処分が競合した場合、その効力の相互関係が最も問題になるのは、処分禁止の仮処分の場合で、一方の仮処分命令の効力が他方の仮処分命令に対してどのように及ぶかという問題です。処分禁止の仮処分は、実務上、多くは不動産に関して発せられ、通常、債務者は別紙目録記載の土地(建物)に対し、譲渡、質権、抵当権、賃借権等の設定その他一切の処分をしてはならない。といった主文のかたちで発せられ、登記簿に記入されて執行がなされます。

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処分禁止の仮処分が競合した場合の効力についておおよそ次の二つに説が分かれています。第一説の仮処分優先説では、第一次の仮処分が第二次以降の仮処分に優先するとなすもので現在、学説、判例、実務の採っている立場です。判例は当初、処分禁止の仮処分の登記がなされると、その後になされた不動産の処分行為は無効であるとしてその登記の申請を却下していました。しかし、これは仮処分が本案判決までの仮定的裁判であることや仮処分異議や取消訴訟等による命令の取消や執行が効力を失う場合のあることに鑑みると仮処分債権者に過大の保護を認めることになります。その後判例は、処分禁止の仮処分に違反する処分行為も無効ではなく、仮処分債権者に対抗できないだけで、契約当事者間および第三者関係では有効であるという相対的効力説の立場を採り、最高裁判所に引き継がれています。学説も一般にこれを支持し、登記実務も該処分行為にもとづく登記申請を受理する取扱いになりました。そこで、仮処分債権者が仮処分の被保全権利にもとづいて所有権移転登記等を申請した場合、仮処分後の処分行為にもとづく登記を抹消する方法が間題になってきます。昭和二八年二月二一日民事甲二一六四号民事局長通達は、仮処分債権者と債務者の共同申請で所有権移転の登記申請をする際、仮処分債権者に第三者の権利取得登記の抹消を単独で申請する途を開き、最高裁判所の判例でも是認されました。最高裁判所はさらに、不動産の二重売買における買主からの処分禁止の仮処分が競合した場合に最初の仮処分債権者が優位にたつことを判示しました。したがってこの立場にたてば、設問において第二次仮処分債権者たる丙が第一次仮処分債権者たる甲に先だち本案勝訴の確定判決を得、それにもとづき登記手続を終了しても、自己の所有権をもって甲に対抗しえないのに反し、甲がまず本案勝訴の確定判決を得、これにもとづき登記をなしても、丙は第二次仮処分の存在を理由にそれを妨げえず、登記完了後は甲は丙に対してもその所有権取得をもって対抗しうることになります。その際、第一次仮処分債権者たる甲は、本案訴訟で勝訴しまたは勝訴と同視するべき場合にかぎって仮処分違反の処分行為の効力を無視することができるとする立場と仮処分違反の行為も仮処分債権者に対する関係において対抗しえないため、債権者は執行異議あるいは執行方法に関する異議を主張できるとする立場とがあります。
第二説の本登記優先説は、最初に所有権移転の本登記がなされた者が係争不動産の所有権を取得するとする立場です。これには、処分禁止の仮処分は将来の強制執行のため現状の保全を目的とするものであるため、債権的請求権の仮処分債権者に対し、他の債権者以上の優先的地位を与えるものではないため、仮処分も債務者の任意処分を禁じる効力があるにとどまり、他の債権者が目的物に対して強制執行をすることは妨げられないとか、民法の登記対抗要件主義のたてまえをその根拠とします。それによると、設問の甲と丙がいずれも本訴提起に際して処分禁止の仮処分を得ていても、結局先に勝訴判決や調停調書等の登記手続を命じる債務名義を得て執行した者のほうが優先することになります。
仮処分優先説に対し次のような批判がなされています。つまり仮処分優先説では設問の甲丙いずれも係争不動産につき仮登記も本登記も経ぬまま、第一次仮処分債権者たる甲の仮処分に少なくとも仮登記を得たと同一の効力を付与することになり、仮処分債権者の保護が厚きにすぎることになります。ことに甲の被保全権利が債権的請求権で丙のそれが物権的請求権の場合にその無理が倍加されることになると、これに対して、所有権にもとづいて仮処分を得た場合には相容れない第三者の権利取得を全部否定できますが、第三者対抗力をもたない賃借権のような債権が被保全権利のときは、第三者の権利取得の登記は抹消すべきでなく、抵当権などの制限物権が被保全権利の場合には第三取得者が仮処分債権者の抵当権を承認すればたりるとし、あるいは、処分禁止の仮処分登記に仮登記と同一の効力を与える以上は、設問のような場合には被保全権利が債権的か物件的であるかを問わないとの反論がなされています。また、執行法が平等主義を採っていること、および議渡禁止仮処分は債務者の任意譲渡を禁じるにとどまり、それ以上に債権者に優先的地位を与えるものではないとの批判があります。
その他、処分禁止の仮処分の主たる目的が当事者恒定にありますが、これにその本来の効力以上のものを認めることは行きすぎではないかとの批判がなされています。ことに賃借権等の債権的請求権にもとづく訴えや占有回収の訴えが本案の場合には仮処分にドイツ法上の当事者恒定以上の機能を認めることになり、また、本登記のための順位を保全する必要があれば仮登記仮処分によれば十分であると主張されています。しかし、仮登記仮処分については、それが発せられる場合が限定され、証拠書類等によって権利の存在が明らかでないかぎり容易には認められないので、証拠書類をもたない権利者に対しては処分禁止仮処分への道を開いてこれを保護する必要から、処分禁止仮処分における当事者恒定の効力と優先効が不即不難の関係にあるとの反論がなされています。いずれにしても現行法上の仮登記仮処分と処分禁止仮処分の立法による調整が望まれています。そして、相対的効力説の立場から仮処分債権者が本案訴訟で勝訴し、または勝訴と同視すべき場合で、かつ、被保全権利の実体法上の性質によって制限された必要最小限度の範囲内にかぎり、仮処分違反の第三者の権利取得を香定できるとする方向に進むべきであるとの提言がなされています。
本登記優先説に対しては、この説は強制執行によって本登記をなすことは、仮処分でいう処分行為に該当しないことを前提としていますが、当事者双方が通謀して和解調書を作成し、または登記義務者が口頭弁論期日に欠席するか認諾すれば、たやすく登記手続を命じる債務名義を得られ、当事者双方申請によって登記手続をなすのとほとんど異ならないため、強制執行による場合のみを除くのは実際には不都合な結果が生じ、処分禁止の仮処分の代わりに仮登記をなしておけば、競合という問題は生じない、との批判がなされています。そして、以上のごとき諸説の対立は、処分禁止仮処分の目的物に対して強制執行がなされた場合にもあらわれてきます。

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