処分禁止仮処分の効力

債務者に対しその所有名義の不動産につき譲渡その他一切の処分を禁止する旨の仮処分があり、その登記がなされているのに、債務者がその不動産を第三者に譲渡し所有権移転登記をした場合、仮処分の効力としてどのような措置をとることができるのでしょうか。処分禁止仮処分違反の行為の効力につき判例は当初絶対効説をとり、債務者には処分権がなく、これに反する処分行為は絶対的に無効であり、仮処分債権者に対抗できないのみならず、あらゆる面で無効であり債務者は仮処分前の処分行為の登記もできないとしていましたが、後に、仮処分後の処分およびその登記はできないが仮処分前の処分にもとづくその登記は仮処分後にでき、かつ、それは仮処分債権者に対抗しうるとした登記実務においても、絶対効説がとられ、仮処分違反の処分行為を原因とする登記申請は却下すべきものとされ、この取扱いは戦後まで続きました。この見解によれば、本設問の場合、登記はなされないことになります。今日、この見解をとる者はなく、登記実務も、登記を受け付けています。これに対し、判例は比較的早く、相対効説に転じ、仮処分による処分禁止は絶対禁止ではなく、債務者とその処分の相手方との間では有効であり、ただ仮処分債権者に対する関係においてこれに対抗できないだけであるとし仮処分前の譲渡にもとづく仮処分後の登記は可能であるが債権者に対抗しえないだけとし、結局、仮処分後の処分行為、その登記はいずれも可能であり、債権者に対する関係で無効であるにすぎないとする学説も、相対効説を是とし、仮処分前の処分行為にもとづく仮処分後の登記についても仮処分債権者に対抗できないとしています。登記実務は、昭和二四年七月一九日民事甲一六六三号民事局長通達をもって始めて相対効説に転じました。

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仮処分は執行保全の目的でなされるものであるため、仮処分違反の処分行為の効力もその目的達成の範囲内で認めればよいということで、相対効説は、仮処分債権者に対する関係で処分行為は効力を有しないとしたのでした。昭和三七年六月一八日民事甲一五六二号民事局長通達は、仮処分登記後の債務者から第三者への処分行為にもとづく登記を、被保全請求権とは別個の、仮処分後の代物弁済契約にもとづいて債権者が単独抹消できるとして、仮処分の相対効を仮処分債権者に対する関係において考えるという立場にたっています。
これに対して、仮処分はある特定の請求権の執行保全のためのものであるため、相対効は被保全請求権に対する関係で考えるべく、仮処分違反の処分行為は被保全請求権に対する関係で無効であるにすぎないとの考えがあらわれ、最判昭和四五年九月八日もこの立場をとりました。近時の通説です。
仮処分違反の処分行為が被保全請求権に対する関係で無効とされる場合に、どの範囲で無効とされるのでしょうか。訴訟法的効果説では処分禁止の効力は、仮処分という裁判とその執行によって生じる訴訟法的な効果であるため、これに違反する処分行為の内容まで実体法的に変更するものではなく、したがって、被保全権利のいかんに関係なく、違反行為を全部無効とします。登記実務は、昭和四一年二月二九日民三発一○七一号法務省民事局第三課長電報回答が、処分禁止の仮処分の登記後第三者に所有権移転の登記がなされた物件について、仮処分債権者から判決に基づいて仮処分債務者を設定者とする抵当権の設定の登記の申請があった場合、仮処分後の所右権移転の抹消を同時に申請した場合は受理できるとして、この立場をとっています。
仮処分の効力は、被保全権利の実現に必要な範囲でこれを認めればよいため、仮処分違反行為は、被保全権利を害する限度においてのみ、無効とされます。したがって、被保全権利の実体法上の性質に従って違反行為の有効、無効およびその限度を決定します。これによれば、違反行為が所有権譲渡のとき、被保全請求権が不動産の売買契約にもとづく登記請求権の場合、登記により順位保全効が生じ、抵当権等の設定契約にもとづく登記請求権の場合、第三者は取得自体は債権者に対抗でき、ただ抵当権等はこれを引受けねばならず、賃貸借契約等にもとづく引渡請求権の場合、取得自体は対抗できますが、債権者の賃借権等は承認しなければならず、無権限で不動産の保存登記をし、または無効な移転登記をうけたものに対する抹消登記請求権の場合、全面的に無効となり、建物収去、土地明渡請求権の場合、第三者は取得はできますが、収去義務を負担することになります。
債権者は違反行為を相対的に無効ならしめる仮処分の効力を、違反状態の除去を、どの時点で主張しうるのでしょうか。本権無関係説では仮処分違反の行為は、仮処分債権者に対する関係では、被保全権利の有無とは無関係に、つねに仮処分違反という事実のみにもとづいて無効です。仮処分物件に対する強制執行においては、仮処分債権者は、目的物の譲渡を妨げる権利を有し、民訴法五四九条の第三者異議、五四四条の方法に関する異議を主張します。前述の、昭和三七年六月一八日民事局長通達は、被保全権利が確定しなくても第三者の登記を抹消できるとするために、この説にたつといえます。この考え方をとれば、本設問の場合、仮処分債権者は直ちに第三者の所有権移転登記の抹消を求めうることになりますが、現在この説をとる者はいません。
本案勝訴説では仮処分債権者は、本案訴訟で勝訴の確定判決を得、あるいは、これと同視すべき場合にかぎって、被保全権利の存在が確定した場合にかぎって、仮処分違反の処分行為を無視し、仮処分登記後の処分行為による登記の抹消登記を請求することができる仮処分の目的からして、特に処分禁止の仮処分は観念的な処分の禁止であるから、これで必要かつ十分であるといえます。したがって、仮処分債権者は、被保全権利の存在が確定するまでは、仮処分の効力として第三者の所有権移転登記を抹消できません。
仮処分債権者が本案勝訴の確定判決を得た場合にどのような方法で第三者の所有権移転登記を抹消できるでしょうか。
承継執行文不要説では仮処分債務者に対する債務名義にもとづいて、直接に、第三者の所有権移転登記を抹消しうります。この説は、債権者は、仮処分違反の処分行為を訴訟上、執行上無視できるとするもので、多数説です。
承継執行文説では第三者は、債権者、債務者間の判決の効力をうけるため、これに対する承継執行文の付与をうけて抹消します。これには、第三者は執行力、既判力をうけるとするものと執行力のみを受けるとするものがあります。訴訟上は無視できますが、執行上は無視できないというわけです。処分禁止仮処分に当事者恒定効を認め、これこそが、この仮処分の目的であるとしています。
別個債務名義説では第三者の所有権移転登記を抹消するには、本案訴訟の判決とは別個の第三者を相手方とする債務名義が必要であり、債権者は違反行為を訴訟上、執行上無視できませんが、別個の訴訟において仮処分の効果を主張できます。この説をとれば、仮処分登記後に第三者になされた登記を抹消するための当該第三者に対する抹消登記請求の訴えは当然許されますが、抹消後の、第三者からするであろう、不当抹消を理由とする登記回復の請求を阻止する点に訴えの利益があるから許されます。

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