家屋の占有移転禁止の仮処分

債務者の家屋に対する占有を解いて執行官に保管させ、執行官は現状不変更を条件として債務者に使用を許すべく、債務者はその占有を他人に移転してはならない旨の仮処分がなされているにかかわらず、債務者がその家屋を改築した場合、仮処分の効力としてどのような措置をとることができるでしょうか。家屋に関する占有移転禁止の仮処分は、目的家屋の客観的現状を維持することをも目的としてなされるもので、いわゆる係争物に関する仮処分に属するものですが、ここでは占有移転禁止の仮処分命令がなされた後、債務者が客観的現状変更、つまり目的家屋を改築した場合における、債権者のとりうる措置を検討しようとするものです。まず、家屋の改築がなされた場合における債権者の救済方法を考える前に、どの程度の改築、増築、修繕等が、この仮処分に違反する客観的現状変更といえるかどうかを検討します。この仮処分に違反する客観的現状変更にあたらないとした事例としては、雨漏りの修繕、営業継続のため一時的に容易に現状に復しうる程度の模様替え、畳敷用板間に畳または上敷を敷くこと、廊下ホールにコンクリートを薄く流して支柱をたてその上にシャフトをのせモーターを置くことなどです。これに反し、客観的現状変更にあたるとした事例としては、演芸小屋の舞台を取りはずして別個の小屋を内部に設けること、仮処分中の建物の一部が火災により損傷した場合、壁を塗り替え、屋内の照明設備を改め、座敷、カウンター、調理場を設けるなどして、酒場経営のために屋内全面の模様替え、改造したことなどがあります。したがって、目的家屋を改築することが、この仮処分に違反する客観的現状変更にあたるとするのが判例の支配的見解であるとみられます。この仮処分は、目的家屋に対する将来の引渡しまたは明渡しの執行を保全するものであるため、現状不変更の越旨は、目的家屋に対する引渡しまたは明渡しの強制執行が不能もしくは署しく困難になるかどうかの観点から判断すべぎであるといいうりますが、たんに家屋の同一性を失う程度の変更でなければ現状変更にはならないと解すぺきものではなく、債務者の職業、家族数、家屋の構造、変更の規模、程度、執行に要する日数、費用など諸般の事情を考慮 して判断すべきものです。

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債務者が家屋の現状を客観的に変更した場合、その原状回復はいかなる方法によりなしうるかを検計します。
執行官除却説では当該仮処分命令以外の債務名義や執行命令がなくても、執行官が、実力をもって、客観的現状変更の違法な状態、改築後の状況を除去し、原状を回復することができるとする見解です。この説の根拠は、執行官は仮処分命令によって付与された職責と権限にもとづき、現状変更の物的状態を除去することがでぎるとするものであって、いわゆる執行官の点検排除を肯定しようとするものです。しかし、この見解に対しては、執行官がかかる職責と権限を与えられていると認めることは、この種仮処分の文言から、あまりにもかけ離れた解釈であるとの批判がなされています。
執行命令説では債務者のした現状変更を、仮処分によって命じられた不作為義務の違反として、不作為義務の執行方法を準用し、民訴法七三三条、民法四一四条三項にもとづく授権決定によって、客観的現状変更の結果を除去することができるとする見解です。この説の根拠は、現状を変更しないことを条件として云々、という文言は、債務者に対する不作為命令であると構成し、債権者は、いわゆる授権決定を得たうえで、債務者の費用をもって、違反した物的状態を除去することができるとするものです。しかし、この見解に対しては、現状を変更しないことを案件として云々、という文言は、執行官に対する保管方法の指示であって、債務者に対する不作為義務を命じたものと解することができないこと、裁判所が授権決定を発する前に債務者を審尋することが必要だとすると仮処分命令の実現が著しく遅延すること、不作為を命じる仮処分はいわゆる任意の履行を期待する仮処分であって、民訴法七三三条、民法四一四条三項の適用がないこと、授権決定によるよりもむしろ第二次の仮処分によるのが相当であるとの批判がなされています。
新仮処分命令説では当該仮処分命令の効力では客観的現状変更の結果を除去することができないため、必要な場合には新たな仮処分によってその目的を達すべきであるとする見解です。この説の根拠は、この仮処分命令には客観的現状変更禁止の不作為命令が含まれていないこと、この仮処分は、通常簡単な客理と低額な保証金で発令されていること、いかなる場合に客観的現状変更がなされたかが明瞭でないことなどをあげています。しかし、この見解に対しても、執行命令説に対比して、第二次の仮処分を求める債権者に対して、過度の経済的負担を強いること、第二次仮処分を得るまでに相当の目数を要することなどに問題があるとの疑問が提起されています。ところが、東京高決昭和三七年一月二○日がいわゆる執行官による点検排除を否定したことを契機として、東京、大阪の両裁判所がこの見解にしたがって実務を処理するようになり、この種の仮処分の主文から現状を変更しないことを条件として云々、との文言を削除することになったことから、現在の実務は、ほぽこの見解に固まったように思われます。しかし、仮に債務者が仮処分命令に違反して家屋を改築したとしても、第二次の仮処分によって改築した家屋を原状に復することは、債務者にとって甚大な被害を与えるうえ、家屋の効用を著しく損うことにもなるため、債務者の改築が先行仮処分に違反していることが明白であり、かつ現状回復の必要性が十分疎明され、しかも相当高額な保証金を提供した場合以外には、第二次仮処分の発令は実務上きわめて困難であることを留意すぺきです。
債務者が目的家屋に客観的現状を加えた場合、それを理由として、債務者の使用を禁じ、その退去を強制することができるかどうかの問題を検討します。
積極説では執行官は、当核仮処分命令以外の債務名義がなくても、債務者の目的家屋の使用を禁じ、その退去を強制することができるとする見解です。この積極説は、さらに二つの見解に分かれます。その一つは、民訴法五三六条二項、七一一条二項を根拠とするものであって、執行官は威力をもって執行継続中の妨害を排除をなしうるのみならず、保管者たる執行官は、不動産強制管理の場合の管理人の法律上の地位に類似し、国家の命によって実体法上の管理権を授権せられた者であるため、民訴法七一一条二項の趣旨により、強制力を行使しうるとする見解です。しかし、この見解に対しては、民訴法五三六条二項は、執行官が債務者の占有を解くときにのみ適用されるものであり、また同法七二条二項は、管理人の占有開始時に抵抗を排除するため執行官の立会いを求めうることを現定したものであるため、執行官が占有を取得した後には適用の余地がないとの批判があります。
その二は、条件付き債務名義説といわれているものであって、この仮処分には、現状を変更したときには、債務者に対し目的家屋の明渡しまたは引渡しを命じる趣旨が含まれているため、執行命令なしに債務者の退去を強制することができるとする見解です。しかし、これは、仮処分命令の文言からはなはだしく遠ざかる見解であるとの批判がなされています。
消極説では執行官は、当該仮処分以外の別段の債務名義がないと、債務者の目的家屋の使用を禁じ、その退去を強制することができないとする見解です。この消極説は、さらに二つの見解に分かつことができます。その一つは、執行命令説といわれているものであって、この仮処分には、当然現状を変更してはならない旨の命令が含まれているため、債権者は、民訴法七三三条一項、民法四一四条三項により、授権決定を得たうえ、債務者を退去させることができるとする見解です。しかし、この見解に対しては、この仮処分に現状不変更の不作為命令が含まれているという前提自体問題であるのみならず、債務者を退去させるごとが民法四一四条三項の適当の処分と解することが困難であるとの批判がなされています。
その二は、新仮処分説といわれているものであって、この仮処分は、目的家屋に対する原状維持を目的とするにとどまるものであるため、債務者が現状変更をした場合においても、債務者の退去まで強制することができませんが、現状変更があったことによって、債務者を退去させてまで将来の強制執行を保全する必要がある場合には、債務者を退去させる新たな仮処分を求めることができるとする見解です。
現在の実務は、この新仮処分説によっているといっても過言ではありませんが、先行仮処分後に求められる第二次の仮処分は、新たな仮処分であるため、債務者が先行仮処分に違反したことをもって当然に債務者を退去させる仮処分の必要性が認められるものではなく、債権者は、債務者の現状変更が先行の仮処分に違反していることのほか、債務者を退去させなければ将来の強制執行がきわめて困難な事情をあらためて疎明することが必要であるのみならず、実務では、債務者の退去を強制するようないわゆる断行の仮処分を発令することにはきわめて慎重であるため、この仮処分を申請する場合には必要性の疎明についての適切十分な資料と相当の保証金を準備することが必要です。

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