占有移転禁止仮処分

債務者の家屋に対する占有を解いて執行官に保管させ、執行官は債務者にその使用を許すべく、債務者はその占有を他人に移転してはならない旨の仮処分がなされているにかかわらず、債務者がその家屋を第三者に貸して住まわせた場合、仮処分の効力としてどのような措置をとることができるでしょうか。家屋に関する占有移転禁止の仮処分は、目的家屋の客観的現状を維持し、占有を他に移転することを禁止し、本案訴訟の確定判決にもとづく目的家屋の引渡しまたは明渡しの執行を保全することを目的としてなされるもので、いわゆる係争物に関する仮処分に属するものです。そして、この仮処分は、古くから、処分禁止の仮処分とともに、最も多く利用されている制度であるといえます。ところが、現実には、この仮処分に違反して、主観的な現状変更、つまり、転貸、譲渡等による占有の移転がなされることが起こりえますが、ここでは、占有移転禁止の仮処分命令がなされた後、債務者が第三者に目的家屋を貸して住まわせた場合、主観的現状変更における、債権者のとりうる措置を検討しようとするものです。

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この仮処分の執行後、その目的家屋に住むことになった第三者に対し、執行官が他に別段の債務名義なくして、実力で退去を強制することができるかどうかを検討します。
積極説では当核仮処分命令以外の債務名義がなくても、執行官が、実力をもって、第三者に対して家屋からの退去を強制することができるとする見解があります。この説の根拠は、種々説かれていますが、要約すると、この仮処分にもとづく執行官の占有は執行官が国家の執行機関としてなす公法上の占有であるため、私人の占有より一層強力であり、執行官はその占有を侵奪した第三者に対し実力で退去を強制する権限を有すること、仮処分目的物が第三者に侵奪された場合、執行官が第三者から占有を回復する手続について、現行法上特にこれを定めた規定は存しないが、法の精神や法治主義の原則からすれば、第三者に対しても、民訴法五三六条、五三七条を類推適用すべきであることなどを理由とします。しかし、この見解に対しては、執行官の占有が公法関係にもとづく公決上の占有であるとしても、執行官は、特別の明文のないかぎり、私生活に干渉することは差し控えるべきであるのみならず、この仮処分の名宛人となっていない第三者に対して、執行官が実力を行使することを認めることに難点があるなどの批判がなされています。なお、この見解は、終戦後から昭和三七年頃までの間、少なくとも東京高等裁判所管内における執行官の執行実務を支配し、これを支えてきた理論であったといわれていますが、現在の執行実務では行なわれていないものと思われます。
消極説では当該仮処分以外の債務名義や執行命令がなされれば、執行官が、実力をもって、第三者の退去を強制することができないとするものですが、さらに、その理由づけにより、次の四つに大別することができます。
承継執行説、第三者の占有侵奪が債務者との通謀による場合と債務者との意思と無関係な場合に分類し、前者の場合にあっては、第三者は民訴法二○一条にいわゆる仮処分発令後の承継人または目的物所持者に該当するため、債権者としては承継執行文を得たうえで執行官にその退去の執行を求めることができますが後者の場合にあっては、仮処分命令の執行力が第三者に及ばないため、第三者に対する新たな仮処分を得てその退去の執行を求めることができるにすぎないとするものです。この見解は、この仮処分命令を、債務者が現状変更禁止の不作為の義務に違反するときは、目的家屋の保管者たる執行官に明渡しまたは引き渡すべき旨を債務者に命じる題旨を含む条件付債務名義であると解する前提をとっているものでしょうが、この前提自体について、種々の批判がなされています。
保管命令説、債務者に対して処分の禁止または制限を命じる仮処分の効力は、その執行によって第三者に対抗することができるため、家屋明渡しないし引渡請求の保全として、その占有を執行官に移転し、現状を変更しないことを条件にして債務者に居住を許した場合において、その後同居人を入れたならば、執行官は、保管命令にもとづいて、同居人に立退を強制できるとする見解です。しかし、なぜ執行官が保管命令によって第三者に対し退去の強制ができることになるのか明らにされておらず、仮にこの説が、強制管理開始決定および監理人の任命決定にもとづく不動産取上げの強制執行を準用するものであるとしても、強制管理に付随した不動産の取上げの強制執行も、第三者の占有にある不動産に対してまでなしえないものであるため、これを根拠とすることはできないとの批判があります。
執行命令説、権原なくして、占有を取得した第三者に対しては、債務者との通謀の有無を間わず、民訴決二○一条を準用して、承継執行文を得たうえ、執行命令で第三者を家屋から退去させることができますが、債務者とまったく無関係に、占有を取得した第三者に対しては、別に新たな債務名義を得て、過去の強制を求めうるにすぎないとする見解です。しかし、この見解に対しては、債務者に対して債務名義の内容を強制的に実現する手段にすぎない執行命令によって第三者に対してまで直接に強制力を用いることができるとするのは一般に債務名義の執行力が第三者に及ばないとする現行法の体系に反するのみならず、民法四一四条三項の適当な処分の内容として、第三者に対する人的執行が含まれていると解することはでぎないとする批判があります。
間接的効力説、これまで検討してきた見解は、いずれも、その執行の方法は別として、仮処分命令のみの効力によって、仮処分後に占有を取得した第三者から、強制的にその占有を回復することができるとするものですが、昭和三○年代にいたって、仮処分命令のみの効力によって仮処分執行後に占有を取得した第三者の占有を排除することができないとしつつも、この仮処分に、本案訴訟における仮処分債務者の被告適格を恒定する効力を認め、債権者は、本案勝訴の判決を得た後に、仮処分後に占有を取得した第三者に対して占有排除の強制執行を求めることができるとする新しい見解が現れました。この根拠は、いわゆる占有移転禁止の仮処分において目的家屋を保管する執行官は、民訴法七五八条二項による保管人であり、この仮処分命令の効力は、仮処分執行後に債務者から占有の移転をうけた第三者にも及ぶものであるため、債権者は、この第三者に対しては、債務者に対する本案の勝訴判決を債務名義として明渡しないし引渡しの強制執行が可能です。したがって、債権者は、原則として本案判決確定前にあえて仮処分後に債務者から占有を取得した第三者を退去させる必要がありませんが、もし必要があれば、新たに第三者を相手方として退去を命じる仮処分命令を得てその執行を求めなければならないとするものですが、この見解は、その後しだいに多くの学者の支持するところとなり、通説としてほぼ確定しつつあるともいえます。
不動産に対するこの種仮処分についてのいわゆる間接的効力説を採用した最初の裁判例は、福岡地裁飯塚支判昭和三八年九月二六日です。この判決は、家屋に対する占有移転禁止仮処分執行後、それに違反して目的家屋の一部を賃借して占有する第三者に対し第二次の断行の仮処分を求めたところ、第三者は、仮処分ないし本案判決の目的物を所持する者として、民訴法二○一条一項、四九七条ノ二により、本案判決の執行力をうけ、債権者は、債務者との間の本案の確定判決にもとづき、第三者に対し退去の強制執行をなしうる地位にあるため、第二次の仮処分を求める利益も必要もないとして、第二次仮処分申請を却下したものです。その後、不動産についてのこの種仮処分に反し、この見解と同じ立場にたつ高裁段階の裁判例もいくつかでています。
この種仮処分に、いわゆる当事者恒定の効力を認め、間接的効力説を採ると、債務者が仮処分に違反して、第三者に対し占有を移転したとしても、後日債権者が債務者を被告とする本案判決に承継執行文の付与をうけて第三者に対し本執行をなすことができるのであるため、原則として、本案判決の執行前に第三者の退去を強制する必要がないといいえますが、次に述べるような場合には、例外として、第二次の仮処分を認める必要があります。
債務者が執行妨害をはかるため、目的家屋の占有を転転と第三者に移転するという場合にあっては、債権者がその都度執行官の点検を得て占有承継の事実を確認することがきわめて煩墳であるうえ、これを放置すると、後日債権者が本案の勝訴判決を得て承継執行文の付与をうける際、占有承継の経過を、証明書をもって証明することができなくなるおそれがあるため、かかる場合には、第三者を仮処分債務者とする新たな第二の仮処分が認められてしかるぺきものと考えられます。仮処分後に、執行官保管の公示書が欠落したため、第三者が仮処分がなされていることを知らないで、債務者から目的家屋の占有を承継した場合、債権者が後日、本案の勝訴判決を得ても、第三者に対する承継執行文の付与がうけられないおそれがあるため、かかる場合にも、第三者を相手とする第二の仮処分が認められるものと思われます。
なお、債権者が仮執行宣言付本案勝訴の判決を得たが、上訴審係属中それが執行停止されたときまたは債権者が執行可能な本案の勝訴判決を得たが、裁判長が間接的効力否定説の見解を支持するため、承継執行文の付与をうけられず、結局承継執行文の付与をうけられないときであって、かつ明渡断行的仮処分の必要がある場合には、第二次の仮処分が認められると説くものもあります。

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