仮差押えの目的債権と給付訴訟

乙が丙に対して有する売掛金債権に対し甲が仮差押えの執行をした場合、乙は丙を被告として訴えを提起し、売掛金債権の支払いを請求することができるでしょうか。債務者の第三債務者に対する債権に対して仮差押えがなされた場合、第三債務者は債務者への支払いを差し止められ、債務者は当該債権につき取立、譲渡などの処分をすることができなくなります。それでは、債務者の債権に対して仮差押えが執行された場合、その債権の主体である債務者は第三債務者を相手どって当該債権につきなお訴訟を提起して、これを追行することができるでしょうか。仮に訴訟そのものはできるとしても、通常のまったく無条件の給付判決を求めうるか、それとも、仮差押えがなされているということによって、なんらかの制約が課せられるべきか。これが本問の問題点ですが、仮差押えの目的、効力や誰が当事者となりうるかの当事者適格の基礎的問題に連なるとともに、仮差押債権者、仮差押債務者、第三債務者それぞれの利害の調整についての細やかな配慮も要求されるので、かねてより議論のある困難な問題です。

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乙の丙に対する金銭債権にもとづく給付訴訟が係属中に甲がその債権について仮差神えをなした場合、乙の給付訴訟の運命はどうなるかに関して判示したものとして、大判昭和四年七月二四日があります。この判決は、要旨、仮差押えがあるかぎり、債務者は第三債務者に対し自己への支払いを求める訴えを提起しえないことは明らかであり、訴訟の係属中仮差押えがなされたときは、原告たる債務者は、自己に対し即時給付をなすべき旨の請求を持続することはできず、債権の存在を確定する申立てまたはその他適当な申立てに変更することを要し、申立てを改めないでなお即時給付を求めてくる場合は、その請求は不当であって却下すべきであると判示しました。ここでいう適当なる申立てがなにを意味するかが問題ですが、その後、大判昭和一七年一月一九日は、乙の丙に対する債権につき甲が乙丙を相手方として処分禁止の仮処分を行なった事案で、仮処分の解除を案件として乙が丙に支払いを求める訴えを提起することは許されると判示して、その具体例を明らかにしました。さらに大審院は、仮差押え中の債権にもとづく執行手続面についても、乙の丙に対する執行債権によって丙の不動産に強制競売が開始された場合、丙は乙の当該執行債権に対して甲が仮差押えをしていることを理由として請求異議の訴えを提起して乙の執行を排除しうるとしました。これらの先例から、大審院判例は、仮差押えがなされても債務者の第三債務者に対する訴訟そのものまでは禁止されないとしても、差押えの解除を条件とする条件付給付判決を求めうるにとどまると解していたことをうかがい知ることができます。
大審院の立場は、ドイツでも通読であり、日本でも当初の学説はこれと同様の考え方を示すものが多かったのですが、兼子一博士が、私は更に進んで差押の存在は儀務者対第三債務者の関係において履行請求権能を実体的に制限するものではなく、ただ専ら現実の取立及び弁済を禁ずるに過ぎないものと考える。換言すれば差押は債務者の判決手続における利益を喪失させるものでなく、強制執行の段階において執行の障害となるに止まるものである。とされて、無条件の即時給付請求ができるという見解を表明されて以来この立場がその後の学説の支持を得て、しだいに有力になり、現在の通説となるにいたりました。その論拠としては、差押えによって制約されるのは現実の取立て、満足にとどまるという基礎的認識や、申立人の申請のみにもとづいて比較的簡単に出される仮差押命令にあっては、仮差押債務者の権限の制約はできるだけ少なくすべぎだとの政策的判断に加えて、債務者乙が訴訟ができないとすれば、時効中断の方法がなくなること、債権者甲としても、乙が勝訴の給付判決を得れば、それを利用できるから有利であること、即時給付判決がなされても、第三債務者丙は、甲の差押えがなされていることを執行機関に示すことによって、乙の強制執行による満足を阻止できるため、別段丙を害することにはならないこと、乙の丙に対する給付訴訟中に甲の差押えがなされた場合、訴えを却下せざるをえないとすれば、当事者(乙丙)に対して不公平であり、再訴を要する点で訴訟経済にも反すること、などの実質的考慮があげられています。
これは兼子博士にはじまる近時の有力説に影響されてでしょうが、さきに示した大審院の条件付給付判決説を変更して、即時給付判決説を採用した最高裁判例があらわれるに至りました。乙の丙に対する給付訴訟が係属中に甲が該債権に対して仮差押えを執行した事案につき、甲の仮差押の効力は、丙の支払い、乙の取立て、譲渡等の処分行為が甲に対抗しえないことを意味するにとどまり、乙は丙に対し訴えを提起して無条件の給付判決を得ることができると解すべきである、と判示しました。その際、既述の理由に加えて、もし、判決に基づき強制執行がされたときに、第三債務者が二重払の負担を免れるためには、当該債権に仮差押がされていることを執行上の障害として執行機関に呈示することにより、執行手続が満足的段階に進むことを阻止しうるものと解すれば足りるとして、第三債務者の救済手段として執行方法に関する異議をあげています。
仮差押えがなされても、仮差押債務者は第三債務者に対し無条件の即時給付判決を求める訴訟をなしうるとするのが、いまや通説、判例となったのですが、しかしながら、この立場が、差押えの解除を条件として給付判決をなすべしとする立場に対して、それほど優位を誇りうるものなのかどうかについては、疑問が残るように思われます。

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