保証に対する債務者の権利行使

債権がすでに消滅しているのに、保証をたてて仮処分命令を得たうえ、その執行がなされた場合、これによって損害を被った債務者は、どのようにして保証の目的物に対しその権利を行使することができるでしょうか。保全処分の保証は、仮差神えまたは仮処分により債務者に生ずべき損害のための一種の物的担保として提供させるものであって、いわゆる訴訟上の担保の一つであり、保全処分の債務者は、そのために生じた損害につき、保証として供託された金銭または有価証券の上に質権者と同一の権利を有するものとされています。本問は、このように規定されている担保権の実行方法を問うものであり、訴訟上の担保といわれるものに共通の問題です。そして、これについて、実務は、後記のとおりふたとおりの実行方法を認める先例および判例の基本線に従って行なわれていますが、これに対しては有力な反対説があります。

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大審院決定は、法が相手方は質権者と同一の権利を有する旨表示したる所以は、相手方をして供託者の供託物取戻請求権に対する権利質の実行方法に依り、其の担保権を行使することを許したるものと解するを妨げざるが故に、と説いて、この担保権は、供託者が供託所に対して有する供託物取戻請求権を目的とする法定質権の性質をもつとする当時の通説的見解を是認します。そして、後掲反対説から最も非難されるのもこの点です。このような債権質権説によれば、担保権者は、担保権を行使しうべき事由が発生した場合、つまり、設問のように違法な保全命令の執行によって債務者に損害が発生した場合、債権質についての民法の規定に従い、直接取り立てる方法と、債権に対する強制執行の方法による質権の実行の二者いずれをも自由に選択して担保権を行使することができるのです。
ただし、前掲大審院決定は、債権に対する強制執行の方法による質権の実行の方法をとりうることについて前記のように述べながら、第一の方法については、それが民法三六七条の規定による実行方法であるとはいわず、担保を供したる目的より之を見るに供託は担保権を行使し得べき事由発生したる場合に相手方をして直に供託物を以て損害の賠債に供せしむる為めに為されたるものなれば、素より共のところなり、と説いて、担保提供の制度の趣旨から説明づけていることが注目されます。
そこで、現在行なわれている二方法のうち、第一のものについては、直接供託物の還付をうける方法として、次にその二方法の手続について解説すると、直接供託物の還付をうける方法として、供託物の還付につき供託者の同意がある場合、この場合には、担保権者は、同意を証明して、裁判所から供託書の交付をうけ、これと同意を証する書面を添付して、供託所に供託物の還付請求をし、これによって供託物の還付をうけることができます。
供託物の還付につき供託者の同意が得られない場合、この場合は、供託者において、債務者が保全命令の執行による損害賠償請求権を有すること、つまり被担保債権の発生あるいはその数額等を争うものであるため、債務者において、このように争いのある権利を行使して供託物の還付をうけるためには、債権者に対して損害賠償請求権を主張する訴えを提起し、勝訴の確定判決によって自己の権利を証明して、供託物還付請求の手続をとるほかありません。 ただし、確定判決は、あくまでも担保権実行の権利証明であるため、債務名義である必要はありません。したがって、被担保債権の給付判決にかぎらず、確認判決でもよく、また、確定判決と同一の効力を有する和解、認諾、調停調書、確定した仮執行宣言付支払命令でもよいこととなります。そのうえで、担保権者は、確定判決等にもとづいて裁判所から供託書の交付をうけ、これと確定判決等を添付して、供託所に供託物の還付請求をし、これによって供託物の還付をうけ、自己の債権の優先弁済にあてます。
強制執行の手続による方法として、担保権者は、自己の権利を証する確定判決にもとづき、民法三六八条および民訴法の債権に対する強制執行に関する規定によって、供託物取戻請求権を差し押え、それが被担保債権たる損害賠償請求権にもとづく質権の実行であることを明示した転付命令または取立命令を得て、裁判所から供託書の交付をうけ、これを供託所に提出して、供託物の交付をうけることもできます。この場合も担保権の実行である以上債務名義は必要ではありません。前掲大決昭和一○年三月一四日は、この場合も、供託物還付請求権の実行に外ならざるものにして、単に担保権消滅の場合に於ける供託者の供託物取戻権の実行を目的とするものにあらざれば、担保取消の決定は不要であるとしますがが、この点についても反対説からの批判があり、高判は、担保取消決定を得るよう説示してます。担保権者は、担保権実行前に取戻請求権が譲渡または転付命令によって第三者に移転していても、これにかかわりなく前記のように自己の権利を行使することができます。
以上のような二方法の任意的選択を認める判例に対しては、近時反対するものが多数です。その主要な論拠は、次の三点にあります。債権質権説が担保権の目的とする供託物取戻請求権は、担保の事由やみたるときその他の理由によって、担保取消の決定があり、担保権の消滅したことを条件として発生する条件請求権であるため、担保権の存在が確定すると、取戻請求権は法律上存在しないことになるのであり、このような取戻請求権を担保権の目的として認めるのは理論的に矛盾している。さらに、強制執行の方法は、担保権者が移付命令を得ることにより、供託者と同一の地位を取得し、供託者の資格で供託物の同一の地位を取得し、供託者の資格で供託物の取戻を請求するのであって、 そうである以上、担保取消決定は必要とならざるをえません。しかるに、判例がこの場合も還付請求権の実行であるとして担保取消決定は不要であるとするのは移付命令の作用をまったく無視するものであって誤りです。また、強制執行の方法は、差押えおよび移付の手続を除外すれば、その他の手続は直接還付をうける方法と異ならないのであり、ことさら差押え、移付の手続を加えても、その実益はほとんどなく、無駄な手数をかけるだけであり、実際問題としても混乱を招きます。
反対説は、以上のような批判をし、債権質権説に対して、法が質権者と同一の権利を有すると規定した趣旨は、被担保債権の発生とともに担保権者が供託所から直接供託物の還付をうけ、これによって優先的、排他的に満足をうける法律上の地位にあることを示したものであると説きます。したがって、この説によれば、担保権の実行方法としては、直接還付をうける方法が唯一のものであり、他の実行方法を認める余地もなく、その必要もない、ということになります。

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